広告代理店の現場からみた読書案内

広告・マーケティング関連の書籍を、広告業務の一線で働いている立場から紹介・書評します。

カテゴリ: ネットビジネス系

 約1ヵ月ぶりの更新となってしまいました。仕事の方が忙しく、帰りが遅い上に家に持ち帰って仕事をするような時期がしばらく続いたので、さぼってしまいました。
 定期的に訪問されていた方、申し訳ありません。

 さて、今回はGoogleのビジネスの話です。これを読んでる人でGoogleを知らない人はいないと思いますが、Googleのビジネスについては知らない人は少なくないと思います。
 Googleは何で儲けているのか? 
 ちょっと前までは実は、私もよく知りませんでした。

 例えば同じ検索エンジンでもYahoo!ならばポータルサイトだし、バナー広告もあるし、Yahoo!オークションなどに参加するにも手数料をとられたりするので、そういう部分がビジネスになっているのだろうなと想像できるわけです。Googleはバナー広告もないし、検索すると確かに画面の横とか上にスポンサー表示がでるので、この部分が広告になっているのだろうとはわかるのですが、そんなので儲かるのか?と思ってしまうわけです。
 しかし米国でナスダックに上場しているGoogleの時価総額は1100億ドル(3月現在...12兆円以上!)にも達し、インテルやIBMと肩を並べるといいます。つまりGoogleは安定的に収益を上げ、将来もっと伸びる会社として高く評されているわけです。

 その"儲け"の秘密は...知っている方は知っての通り「広告」であるわけです。それも主力は検索と同時に画面の上や横に表示されるあれで、「リスティング広告」と呼ばれるものです。
 まあ、検索と同時に表示されるので検索連動型広告とも呼ばれるわけですが、これは実はアメリカでは既にオンライン広告の40%(市場規模自体は昨年で1兆円を超えている)を占め、年率20%以上の成長しているめるネット広告の主力分野となっているものでもあります。日本ではアメリカほどではありませんが、インターネット広告市場2,700億円のうち590億円(約22%)を占めているとされており(電通総研推定)、やはりインターネット広告の中でも成長分野です。
 リスティング広告の仕組みは簡単。表示されるキーワードがクリックされるに応じて広告主に課金される仕組みで、クリック1回あたりの単価も一般的に低額です(Googleのリスティング広告サービス"Adwords"の場合最低1円から)。つまり、広告主にとってはクリックにより自社のサイトに誘引するという確実な効果のある広告活動を低価格(低リスク)でできるという非常に大きいメリットがある、という仕組みなわけです。
 こうした新しい広告サービスは、次の動きにつながります。それはこれまで広告費の絶対額が高かったために広告活動ができなかった多くの中小の企業が、新たな広告主として広告活動を始めることができることです。特にECサイトでビジネスをしようとする広告主にはこの仕組みは福音だといえます。
 ただしGoogle側にとっても、一回のクリックによる収入は場合によっては数円ということもあります。非常に小さい単位の広告費を集めて運営しなければなりません。ところが新しく参加するようになった多くの広告主と、世界中で一日何億回と検索される検索機会を通じて、その数円単位の広告費がつもりにつもり、実際には巨額の収益があがる構造になっているわけです(こうした小額の広告費を集めることにより成立つ広告ビジネスモデルをロングテール広告などという言い方をすることがあります)。しかもリスティング広告は巨大なシステムを必要とする装置産業であり、売上げは検索エンジン自体の人気度に比例しますから、参入障壁は意外と高く、世界で検索シェアの過半を占めているGoogleにとっては新しい市場を一人勝ち的に獲得することができるというわけです(ただし、日本ではGoogleよりYahoo!の方が検索エンジンとして使われているため、Yahoo!にリスティング広告サービスを提供しているオーバーチュアも有力です)。アメリカで投資先としてGoogleの将来性が評価されるのもうなづけるわけです
 なおGoogleでは検索連動型広告の他に、コンテンツ連動型広告という、いろいろなWEBサイトやブログなどに「Ads by Google」と表示される広告も提供しています。これはWEBサイトやブログなどの記事内容と連動して、関連した広告が自動的に配信される、という仕組みです(今のところはあまり精度が良くないと聞いていますが...)。

 まとめると、検索エンジンの成長とともにリスティング広告という新しい広告マーケットも急成長しており、日本でも世界でもその主要プレーヤーがGoogleである、ということなのです。
 広告ビジネスに関するこのような動きは広告会社にとっては非常に興味深いものなのです。

 というわけで、広告ビジネスの新領域を開拓する企業としてGoogleに興味を持った私が、今回手にしたのが「ザ・サーチ」という本でした。この本はGoogleの創生期から今日までを関係者のインタビューなどに基づいて構成したノンフィクションです。スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学ぶ学生だったラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの2人の若者が、何を考えどういう経緯でGoogleという会社を興していったのか、そしてどこへ向かおうとしているのか、課題は何なのか、というようなことが、インターネット検索の歴史とともに書かれています。

 例えば、Google以前の検索サービスの勃興と衰退、「ページランク」というユーザーの有用性基準に基づく検索結果の表示、収益モデル開発への苦闘、リスティング広告導入、ナスダック上場など、Googleが巨大企業に成長していく上でトピックとなった出来事などが紹介され、なるほどこういうピンチ(チャンス)をこう考えて乗り切ってきたのか、ということが分かり興味深いものです。

 この本を読んで私のGoogleの印象は変わりました。ある部分ではポジティブに、またある部分ではネガティブにです。

 例えば、Googleのグーグル上場時のこんなエピソードがあったそうです。

 「2004年4月29日、グーグルは証券取引委員会に新規株式公開の申請書S1を正式に提出したが、それは近来にない内容で、売却株数は2,718,281,828ドル相当だった。この額は一見口からでまかせの数字に思えるが、これはパイと同じようなeの概念(自然対数の底)で、数学マニアによく知られている。この新規株式公開にあたって、専門馬鹿にしかわからないユーモアをふりまくことで、実はグーグルはギーグが管理していることを宣言したかったにちかいない。」(p318)

 このエピソードに象徴されるのですが、Googleは、何か、世の中、例えば政府とか銀行とか産業社会とかエスタブリッシュメントに対して反旗を翻している、という感じが全編を通じて感じられました。「俺たちはお前らの作ったルールには従わないよ!」「ルールは私たちが作る(Web2.0的な言い方をすると利用者が作る、ということになるのでしょうか)」と言いたいかのようです。
 もともとビジネスを起こそう(つまりお金儲けをしよう)という意志からではなく、いいものを作ろう、役に立つものを作ろうという強烈な研究開発への問題意識から会社を起こした部分があるようなので、こうした社風のようなものが出来上がっているのでしょう。実際これまでにも検索領域を中心にして、画期的なサービスを次々に作ってきているわけです。Googleの、信念を持って信じる道を突き進む姿はある種清々しく、こういうのは私は嫌いではありません。

 しかしこうした既存社会に対する挑戦的な姿勢には一方では危うさを感じるのも確かです。
 例えば本の後半では、リスティング広告で入札されるキーワードの商標権に関する問題が触れられています。現状リスティング広告では誰でもどんなキーワードでも入札することができるわけですが、これでは有名ブランド名を全く関係ない会社が購入して広告するようなこともできてしまうわけです。これは、商標権の保護という観点から、いかがなものか? というのが問題点です。
 この問題に関しては既にいくつか訴訟が起きています。アメリカ国内では今のところGoogleに不利な判決が出てはいないようですが、フランスではルイ・ヴィトンなどが訴訟を起こしGoogle側が敗訴しています。この件ではGoogleが"Louis Vuitton"のような商標を第3者(例えば偽造品販売のECサイト)に販売することに制限が加えられ、罰金の支払いも命ぜられました。
 また、クリック詐欺の問題も触れられています。クリック詐欺はコンテンツ連動型広告"Adsense"の仕組みにとっては深刻な問題です。AdsenseではGoogleから個人のブログなどに自動的に広告が配信されますが、そこで掲出された広告はクリックされるごとにわずかばかりの広告掲載料がそのブログサイトにも支払われる構造になっています。この場合、話を単純化して言うとその広告掲載料を取得するため自分のサイトの広告を自らクリックするような詐欺行為が起きる可能性があるということです。もちろんこんな単純なケースはすぐ見つかり広告配信がストップされるとは思いますが、ネットにおける不正技術はいたちごっこの面があるため、不正を行うものが技術を動員した場合には対応にも限界があります。

 「詐欺師はロボットを利用するか、インドや東欧の低賃金労働者を使って、自分とグーグル以外のものは削除し、集中的にクリックする。こうして不注意な広告主はその費用を払うことになる。クリック詐欺はペイドサーチが始まった時から存在し、1990年終わり頃には、ゴートゥー・ドットコム(引用者注:リスティング広告手法を開発した会社で、オーバーチュアの前身)がこの問題に悩まされていた。当時の検索エンジンは詐欺行為の発信元を発見するや、ただちにアカウントを取り消せばすんだが、グーグルのアドセンスは流通範囲が広く、何十万という発信元に対応しなければならず、新たな詐欺の機先を制するのはほとんど不可能に近かった。多くの広告主は、広告予算の25〜30パーセントをクリック詐欺にかすめ取られているという(注:太字は引用者)。」(p275)

 深刻です。

 これらの問題はGoogle1社だけの問題ではなく、リスティング広告というビジネスモデル全体の問題ではあります。しかしGoogleがそこでの主要プレーヤーであり、広告主に対してはこれら負の問題にも応える義務があります。新しいものには負の面がつきものですが、ビジネスをしていく上では、こうした面では「自分がルールを作る」という姿勢は許されるものではないはずく、Googleの存在感が意図せずともどんどん大きくなって来れば来るほど、既存社会のルールや社会の公正さに自らを馴染ませる努力を不断にしていかないといけない、というのも事実でしょう。
 
 「広告」というものに限ってみても、Googleのモデルが新しいあり方を持ち込んだのは間違いありません。最近の論調(例えばWEB2.0的な論調)の中では、新しさや良いところばかり強調する人が多いようにも感じます。しかし、この本を読むとGoogle、あるいはGoogleを中心に開かれていっている、検索をコアにしたビジネスの光の面と陰の面の両方を見ることができます。
 インターネットでのビジネスのこれからのあり方を考えたい人にはお勧めです。

☆ジョン・バッテル、中谷和男訳「ザ・サーチ」(2005年)日経BP
ザ・サーチ グーグルが世界を変えた

 昨年来、ブログ(ウエブログ)をマーケティングツールとして活用する試みがいろいろ出てきていて、今年はその傾向が加速しそうです。
 とは言っても、ブログはここ1〜2年に普及したツールであり、マーケティングで活用するときの特長やクセなどは必ずしも十分理解されているわけではないと思います。一方、最近の新聞や雑誌の記事ではブログのことがよく取り上げられており、広告関係の専門誌(「宣伝会議」とか)などを見ると毎号毎号「ブログを使った何々」、というような話が出てきたりしています。広告業界の人なら、最近お得意さんから「ブログは...」などと話しかけられた人も少なくないのではないかと思います。
 つまりブログについては、マーケティングツールとしての特徴(強み・弱みも含む)が十分理解されていないまま、興味ばかりが先行して盛り上がっている状態になっているように思います。

 ところが、興味を持ってブログのことを理解しようとすると、「トラックバック」が...、とか「RSS」が...、とか、Ping送信しているからブログ検索エンジンでどうの、とか、最近は「Podcast」も普及してきた、とかとか、いろいろ摩訶不思議なキーワードに出会ってしまうわけです。おまけに言葉が難しいだけでなく、その仕組みも直感的に理解しづらいものが少なくないですから、始末が良くありません。
 それこそ、“オジサン”のなかには、もういいゃ、別に無理してわかろうとしなくても何とかなるだろう、という気持ちになってしまったりするのではないでしょうか。(私もまだよくわからないものがいくつもあります...)

 そんな人、――興味はあるのだけど、もはやなかなか基本的なことを人に聞きづらくなってしまった人、まぁ私を含めてですが(笑)、あるいはもっとまじめにブログをマーケティングツールとして活用していきたいと考えている人――には、この本はお勧めだと思います。
 ブログの持つ特徴から、マーケティングツールとして使ったときのよさ、あるいは実際の使い方(パターン)、実例、そして自分で始める時のノウハウ、などが丁寧に書かれています。
 とにかくブログを自分でする、ではなくて、仕事で使うという発想を持っている人には、きっと参考にできる箇所がある本だと思います。

 著者の四家氏が勤めている「カレン」という会社は、ブログをマーケティングツールとしていち早く取り入れた会社であり、日本のキャンペーンブログの先駆けとして有名な、日産の「ティーダブログ」を企画運営している会社です(博報堂の資本が入っているので、博報堂関係の業務多いとも聞いています)。
 日本でブログマーケティングについての先進企業の一つと言っていいのだと思います。

 まあこのように、この本はブログマーケティングの実務に通じた専門家の書いた、ブログマーケティングへの恰好の入門書と位置づけられると思います。
 ただ私自身が最も興味深く感じ、ちょっと引っかかったのは、本文の最後におまけみたいな形でくっついている「ブログマーケティングの未来」と題した、四家氏と織田浩一氏(有名なブログAd Innovatorを配信している人です)の対談でした。引用します。

 「四家:シックス・アパートが法人向け開発の拠点を日本に移したじゃないですか。個人向けのTypePadじゃなくて、Mobale Type系の法人利用の開発で。その理由は、ビジネスブログ分野では日本のほうが先行しているから。日本のP&Gを見て米国のP&Gが動くという状況だからとのことなんですね。」(p159)
 「四家:ネットの世界って、大体米国の何年遅れみたいなことも言われるんですが、シックスアパートが言うんだから日本が先行している点は間違いなくあるんじゃないかと思っています。何でそうなったのかというと、僕の大胆な仮説としては商習慣とは文化の違いが大きいのかなと。」(p160)


 注:シックス・アパート ブログの基本ツールを開発、提供している会社です。詳しくはここ

 興味深い指摘だと思いました。インターネットに関連する技術は一般には数年遅れて日本に入ってくるのが確かに現状なのだと思います。しかし、日本においてはインターネット環境は欧米とは違った形で発展している面があるのも事実であり、例えばモバイルを使ったサービスなどは典型的です。
 ブログについても、アメリカでは2004年の大統領選挙で「草の根ジャーナリズム」のツールとして脚光を浴びたことが大きな契機となって利用が進展した話が知られていますが、日本では必ずしもそうしたジャーナリスティク方向での使われ方はしていません。むしろ、日常のつれづれなる日記や世の中の事件(ホリエモン逮捕とか)を取り上げて、コメントや感想を述べるようなものが主流となっている気がします。私はやっていませんが、携帯電話からブログの更新をしているような人も結構いるのではないかと思います。

 日本でブログを使ったマーケティングを進めていく上で、アメリカの状況はあまり関係はないのですが、アメリカと比較することで日本の特徴を理解することもできますので、比較して考えてみるのも面白いと思います。それに、日本には独特のブログ文化の土壌があるとすれば、マーケティング施策を行う場合も、それに応じたものが必要となってきますよね。どんなものが必要なのかははっきりとは今はいえませんが(みなさんがこの本を読めば、ヒントが見つかるかも知れません)。

 とはいえ、日本のアニメやマンガが欧米で"Cool"とされているみたいに、日本の「ブログマーケティング」も"Cool"なコミュニケーションアクティビティだ、とアメリカ人なんかから見られたら、それはそれで面白いですね。

☆四家正紀+株式会社カレン「図解ブログマーケティング」(2005年)翔泳社

図解 ブログ・マーケティング

 最近、CGM(Consumer Generated Media)と呼ばれる、消費者発の“草の根メディア”をマーケティングの領域で活用しようという動きが活発です。例えば、キャンペーンブログを立ち上げトラックバックを集めたり、アフィリエイトプログラムを用意して一般の人に商品販売のお手伝いをしてもらうことが行われています。GoogleのAdSenseなどを利用して広告媒体として活用することも一般的になりました(このサイトではやってませんが...)。
 さまざまある手法の中でも、消費者の発言(書き込み)を企業が活用してきた代表的なものは「ネットコミュニティ」でしょう。企業が掲示板(BBS)などに自由に書かれる書き込みを参照したり、自らコミュニティを設けて消費者と直接つながり彼らの声を聞いたり、情報を優先的に流すチャネルとして活用してきたわけです。この手法は、日本ではパソコン通信のニフティフォーラムの時代から連綿と続く、ある意味伝統的な手法でもあります。

 この本は、この「ネットコミュニティ」をマーケティングチャネルとして活用する戦略について考察した本です。事例を中心に書かれている本ではありますが、これまで何冊か紹介してきたネットコミュニティの本とは若干毛色が違っていて、大学の研究者がまとめた、やや学術的なものです。
 出版年が2003年とやや古いのですが、私自身はネットコミュニティを活用したマーケティング手法の参考のために読んだものです。

 さて、最初にこの本では以下の視点からネットコミュニティを捉えています。

 「一口にネット・コミュニティといっても、インターネット上にはさまざまなコミュニティが存在する。そして、これらのコミュニティにおいて、製品、用途、あるいはその背後にあるライフスタイルやワークスタイルが語られる限り、企業のマーケティングとの間に関連を有する。このような関連のなかで、とりわけわれわれが注目するのは、消費者の情報源としての役割である。情報源としてのネット・コミュニティは、企業と顧客との間に、従来とはきわめて異なる関係をもたらしうる。」(p2)

 この視点は重要だと思います。企業がネットコミュニティをマーケティング活動で利用する視点として従来よく言われていたは、
 ・直接消費者の声を聞く(新商品開発のアイデア、自社製品・他社製品に対する評価、などのため)
 ・企業が自身の情報を流す(広報・広告のため)
 ・ロイヤルティ向上(自社のファン育成のため)
 などの視点でした。
 
 これらはみな大切な視点ですが、考えてみればみな企業側の視点です。ネットコミュニティに参加する参加者(消費者)からすれば、自分の意見を企業に聞いてもらうために参加するのではなく、そこで他の参加者に向けて意見を言ったり、他の参加者の発する何らかの情報を得たりするためですよね。そしてそれが他の場所ではできないことであるがゆえに、そのコミュニティに参加するわけです。特に、他の参加者の発する情報を得るために参加する、という見方は大切で、この視点を持つと参加者の何倍もいるといわれるROM(Read Only Member)という存在の重要性を導き出します。従来あまり考慮されなかった彼らであり、書き込みをする参加者に比べコミュニティ上の情報の影響は受けにくいのかも知れませんが、量的には大きいはずで、購買活動などへの影響力は決して小さくないはずです。

 こうした消費者から消費者への情報伝達活動のコミュニケーション回路は、言ってみればクチコミの世界ですが、インターネット出現前では大規模な形で存在し得なかった新しい形のコミュニケーション回路です。

 ですから、こうした消費者の情報源としてのネットコミュニティをどう扱っていくべきか、という問題意識を持ったこの本は、新たなコミュニケーション回路のあり方を探るものであり、多少古い本ではありますが、現在のCGMを活用したマーケティングコミュニケーションの背景にある問題意識に通じるものがあります。

 肝心の本の中身ですが、次の2つの点が面白いと思いました。

 1つは「ケースメソッド」的な手法で事例を分析していること。この本で取り上げられているのは、パナソニック・レッツノート、IBM(当時)Think Pad、シャープ・ザウルス、パイオニアDVD/LD Club、ホンダドリームライダーズ、ニコンスクエア、@cosme、エコロなココロ、の8事例です。今となっては古くなってしまったものもありますが、全部の事例を通じてそれらがどんなコミュニティであるかを単に紹介するのではなく、そのコミュニティがどういう背景と経緯を持って、あるいは企業の開設したコミュニティであれば、どういう企業戦略に基づき設けられ運営されてきたのか、ということがわかるような紹介の仕方になっています。これらの事例には、結果として成功したケースも、途中で問題が生じてしまったケースもあります。しかし、背景を含めた全体が見渡せるので、もし自分が同じ立場に立たされたときどうするべきか? を考える上で恰好の教材になっています。

 2つ目は、そもそもの問題意識である「消費者の購買に際しての情報源としてのコミュニティ」という視点に立って、8つの事例をそれぞれパターン分けしていることです。例えば、そのコミュニティの情報の信頼性の高さ、取り上げられている情報の包括性(話題の広さ)、内部でのコミュニケーションの濃密性、外部への開放性、などの軸を設定し、各事例を分類しています。
 この本による分類結果自体は、私自身はわかりずらいと思いあまり共感できませんでしたが、もしこれから新しいネットコミュニティを設置しようと考える人がいましたら、上記のような分類軸で仮説的にどのパターンに当てはまるか、あるいは当てはまるのが適当か、考えてみるのも有効な方法だと思います。

 例えば、ユーザーのファンサイトで、内部のコミュニケーションが濃密になればなるほど詳細で信頼性の高い情報が交わされる一方、話題が限定されニューカマーにとっては欲しい情報へのアクセスが難しく、コミュニティにも参加しずらい、という問題が生じる傾向があるようです。一方@cosmeのようなユーザー評価を中立の立場で紹介しているサイトの場合、広範囲な情報が集まりやすいため、誰もが自分に関心のある情報にアクセスしやすく、コミュニティへの参加も敷居が低い反面、自分の意見への共感を求めて書き込みをしても反応が鈍い、という問題が生じます。
 つまりコミュニティというのはいくつかのパターンがあり、それぞれ長所短所があるようです。自分がどういう性格のコミュニティを形成したいのか、という方向性が大切ですが、それは先ほどのような軸で規定してやることである程度はっきりすると思います。そして、その方向性はサイトのつくりや投稿のルールなど参加性を規定することである程度コントロール可能なようです。
 これらのことは、コミュニティ運営に乗り出そうとした時だけでなく、今運営しているネットコミュニティに問題が生じたような時などでも参考になるかもしれません。

 ネット上での消費者、あるいは消費者発メディアを企業のマーケティング活動に巻き込み、コミュニケーションチャネルとして活用するのは難しいといわれます。しかしこの課題はインターネットの影響力が今以上に増し、マス広告の影響力が相対的に低下するにつれて、今後どの企業も直面する課題になるでしょう。
 そのとき、本書で示されたような問題意識と視点は、いくつかのヒントを提供してくれると思いました。

☆池尾恭一編「ネットコミュニティのマーケティング戦略」(2003年)有斐閣

ネット・コミュニティのマーケティング戦略―デジタル消費社会への戦略対応

 「インターネットの世界は気がついてみたら知らない言葉ばっかりになっていて、もう何がなにやらさっぱりわからないよ!!」...会社の中で“ベテラン”の域に達しているくらいの年齢の人の中には、会社の帰りの居酒屋でちょっとWEBに詳しい同僚を相手に、こんなグチをこぼしているような人、案外多いのではないでしょうか?
 
 しかし、メールやネットを使いこなしているような若い人でも、案外と中身については何も知らなかったりしますから、オジサン方はびくびくする必要はないのですが、まあ確かにインターネットビジネスの世界では、新しい機能や言葉がどんどん生まれていて、うっかりするとたちまち浦島太郎状態になってしまいますから、きちんとお付き合いをするのも大変です。
 とはいえ、例えば仕事で必要があってインターネットの世界にかかわらざるを得なくなったとき、知らない、関心がない、わからないでは済まされません。

 今回紹介する本は、まさにそんな人のための本だと思いました。

 この本の著者木村達也氏は、これまでコトラーやブランド関連の本の翻訳などを手がけているマーケティングの先生ですが、筆の運びから想像するに、恐らくご自分で「今のインターネットを使ったマーケティングとはどうなっているのだろう?」と感じたことが出発点で、自分で調た結果を自分なりにまとめた、という形で本を記されたのではないかと思います(間違っていたら済みません)。その意味では、まさに著者自身が「そんな人たち」の代表であり、それゆえ「そんな人たち」にとっては親しみやすいのではないかと思います。

 そういうことに関連して、この本の内容も次のような視点で書かれていて特徴的です。

 「インターネット・マーケティングの目的は、これまでのマーケティングとなんら変わるものではありません。企業をはじめとする組織が、競合とは異なる価値を創造、提供することで顧客との間の最適なマッチングを実現し、さらに顧客との長期的な関係を構築することで、双方の付加価値を最大化するための活動そのものなのです。そして、本書で述べるインターネット・マーケティングとは、情報技術としてのインターネット環境をもとにしたマーケティングの発想とそのための展開、および利用全般を指しています。」(p3「まえがき」きより)

 つまり、最新のインターネットビジネスそれ自体を単に紹介するというのではなく、マーケティングにおける新しいツールの一つとしてどう位置づけたらいいのかという課題への回答込みで紹介するという視点です。「インターネットを使ったマーケティングを、既存のマーケティングのフレームで分析し、これまでの他の方法との違いを紹介する視点」と言い換えてもいいかもしれません。

 既に、アフィリエイトやブログなど、一般のわれわれにとっても身近なインターネットの新技術やサービスを使って出来るようになったことはさまざまに紹介され、それをテーマにした類書も多いと思います。しかし、インターネットで出来ることを「マーケティング」というフレームの中に置き直して、分析してみるという視点を持つ本はあまりないのではないでしょうか。そうした意味で、この本はユニークですし、他と違う価値があると思います。

 構成は、
・インターネット・マーケティングにできること(これまでと何が変わり得るのか)
・インターネット・ビジネスの特性(従来のビジネススタイルとの違い)
・インターネットをマーケティングに活かす(調査、コミュニティなど)
・マーケティングミックス戦略(EC、広告など)
・インターネット・マーケティングの将来像(課題など)
 からなっています。

 このようなことですので、この本は「入門書」という位置づけですが、読み手としては大学生や新社会人のようにマーケティングもインターネットもまったくの初めてという人より、ある程度マーケティングの領域で仕事をし、マーケティングのバックグラウンドがある人で、「あれ、インターネットでのマーケティグって、今どうなってんだっけ?」と疑問を持ったような人向きなのだと思います。
 反対にマーケティングのバックグラウンドのない人や読むと、マーケティングの概念を考えながら読む必要があるので、多少難しいかも知れません。

 もっともインターネット技術・サービスの動きはとても早いので、この本の内容がいつまで鮮度のあるものか、というのは今の時点では予測できない、という問題点もはらんでいます。これはインターネットを紹介するすべての本に共通することでしょうが。少ないとも今の時点(2005年10月)では、価値のある本だと思います。

☆木村達也著「インターネット・マーケティング入門」(2005年)日本経済新聞社(日経文庫)
インターネット・マーケティング入門

 今回紹介する本は、2003年に出版されたオンラインコミュニティをテーマにした本です。
 2003年というとオンラインの世界では、もう“昔”ですね。本題とはそれますが、この本の中身を読むと、いかにネットの世界の変化が激しく予測不可能なのか、ということを実感させられる一節がありました。ネット上でユーザー同士が情報交換するための機能についての見解なのですが、抜き出します。

 「米国でも落ち着いて会話を交わすコミュニティでは、相変わらず掲示板(ブリテンボード)が主流である。閲覧のしやすさ、ぶらぶらして気に入ったところを探せる、時間的に制約されないという点から見て、やはりコミュニティ・メディアのグローバルスタンダードは、掲示板であろう。」(p121)

 本の中には「インスタントメッセンジャー」の記述も、「ブログ」の記述も、「SNS」の記述もありません。別に悪意があって引用したのではありませんが、これを読むと、われわれは通常「今できること」をベースに「これからのビジネス」を考えているわけですが、それで本当に大丈夫なのか? ということに気づかされ、少し不安になります。特にネットの世界では言えることでしょう。

 とはいえ、このような本を取り上げたのは、最近読んでしまったからではありますが、この著者の会社「ガーラ」というところに興味を感じたからでした。

 ガーラという会社、ネットコミュニティの運営などを日本でいち早く取り入れた会社らしいのですが、私自身は、2ちゃんねるなどに代表されるネット上の書き込み・評判などを測定・分析するというユニークなサービスにいち早く取り組んだ会社としてその名前を聞いていました。
 ネット上で自社や自社ブランドがどのように語られているのかを把握できる、ということは大変興味あるテーマです。ネットの世界は膨大ですから、どこで何を言われているのかわかりません。悪評を知りその原因を早期に解決したり、良い評判を聞いてそれを元に効果的なコミュニケーションを展開していくことが出来れば、企業にとってメリットは大きいわけです。
 昔の「お庭番」のような役割ですね。

 こうしたニーズに対して、独自の検索エンジンを開発し、日本で最初に(たぶん)商用サービスを始めたのがガーラなのです。さらに、今年6月のニュースによると、ガーラに電通が出資を行い、電通とアライアンスを組んで、ネット上のクチコミ分析を自動化した「電通バズリサーチ」というサービスを10月から開始するとのことでした。

 とても興味深いニュースですね。そこで、彼らのサービスを語った本を読んで見ようと思ったわけです。
 本で紹介されているのは旧バージョンのサービスだと思いますが、本書中では「バイラルシェア・リサーチ」と呼んで、ネット上の評判分析サービスを紹介していました。

 「ネット上の口コミ情報、生声情報を通じて、自社の製品やブランドなどの情報がどれだけ語られているか、つまりユーザーの顕在化されたマインドシェアを、定量的に測定する手法が、バイラルシェア・リサーチである。」(p201-202)

 「バイラルシェアは、およそ次のようなプロセスで測定される。
。絅泪ぅ縫鵐亜*注)の巡回ロボットによるデータ収集
⊆集したデータから掲示板や個人HPの生声情報を抽出し、カウント
8譴蕕譴討い訝姥譴鮹蟒个掘⊇亳宿囘戮鬟ウント
ど床措瓦砲覆訝姥譽哀襦璽廖米胆)を策定する。
ッ姥譽哀襦璽廖米胆)の出現頻度をカウント
生声以外の情報も同様に分析し、生声情報と比較する」(p202)
  *注 eマイニング:ロボット型のメタサーチエンジン


 この中で、´↓にあたる、検索語(ブランド名など)に対する文章の抽出と単語カウントレベルは、今では結構普通になっていて、日本では例えばテクノラティジャパンというサイトなんかでは、今回の衆議院議員総選挙に関連して、関連するワードの出現頻度などを発表したりしています。はてなダイアリーなんかでも、自分のところのブログで言及されたワードをカウントしてグラフ化したりしています。
 しかし、きキΔ箸いΔ里牢蔽韻任呂覆い隼廚い泙垢掘△海良分が企業としては知りたい部分ですね。評価軸になる単語グループ(特性)を策定し、その出現頻度をカウントするというのは、つまり語られている話題、例えばデジタルカメラなら、ユーザーの評価情報にしても、デザインのことなのか、機能のことなのか、それ以外のことなのかを分類してカウントする、ということです。この他にニュース情報としてネット上に登場しているものがあったりして、全然意味合いが違うわけです。従来は、このあたりを人力中心でやられていたようなのですが、新サービスでは自動化される、ということなのでしょうか。
 
 冒頭に言いましたように、今となっては古い本なので、現在できることが説明されているわけではないのですが、「ネット上の評判を知る」という課題へのガーラなりのそもそもの取り組みが分かる本です。
 もっともこの本の中身は、ほとんどガーラがやっていることの説明なのですが。

 気になったことを一つ。同じガーラの8月のニュースリリースの中で、「ガーラがライブドアブログの口コミ情報をマーケティングリサーチに独占的に利用する契約を締結しました」とあります。「ブログの口コミ情報を独占的に利用する」...??? ナンですかねそれ? このブログ、ライブドアのブログなのですが、ここで書いているようなことが彼らに独占的に商業利用されるということですかね? 著作権はワタシにあると思うのですが、それはどうなってしまうのですかね??? ライブドアさん、説明が欲しいですね。
 ちょっとイヤな感じですね。

☆村本理恵子、菊川曉「オンライン・コミュニティがビジネスを変える」(2003年)NTT出版

オンライン・コミュニティがビジネスを変える―コラボレーティブ・マーケティングへの転換

このページのトップヘ