今回紹介する本は、博報堂の元クリエイターによる「広告人としての心構え」を書いた本で。。

 「博報堂スタイル」というタイトル、元博報堂の社員、ということで、博報堂の自慢本かなと思って読み始めました。まぁ確かに自慢本ではあるのですが(苦笑)、意外にまともで(失礼!)、こういう本も手元に置いておいてたまに読み返すのもいいな、と思ったので今回ご紹介します。

 内容は博報堂について紹介した序章と、広告人としての心構えを書いた1〜3章からなっています。
 もともと、著者が博報堂時代に、新人向け研修で使っていたメモを元に加筆作成したと言うことなので、心構えについて書かれてある1〜3章も、「広告会社は」「博報堂は」「仕事とは」という内容になっており、正しくは「博報堂社員としての心構え」が書いてあると解するべきなのでしょう。しかし、別に博報堂の社員でなくても、すべての広告コミュニケーションビジネスに携わる人にとって読んでためになる内容だと思います。

 見開き1ページの、右側にキーとなる言葉、左側にその解説という構成になっており、好きなページから好きなだけ読むことができます。

 どんな“ためになること”が書いてあるのかは、それぞれの人が感じ取ってもらうものだと思うのでみなさん読んでいただきたいと思いますが、私が気になったコトバを少し列挙しました。

 ・広告人の前に「社会人」であろう
 ・いつも社会のことを考えて仕事をしよう
 ・広告は「幸せ」を売る仕事だ(だから誇りを持て!)
 ・提案は企業ではなく「世の中に合わせる」
 ・「創って、動かして、世の中を変える」これが成果だ
 ・社内でどう通じるかではなく、社外でどう通じるか
 ・発見名人になろう
 ・技術が進化するほどに、デザインが差異化となる(by 日産ゴーン社長)
 ・全体のストーリーが描けるか、それがチカラだ
 ・プロは切り捨てる、アマチュアはすべて取り込む
 ・日常がすべて。毎日研修。

 まあ、どれも当たり前といえば当たり前のことですが、普段ぼんやりとは思っていても言葉にしていないことを、このように言葉にすると、それを少しは注意してみようという気になります。

 そしてその中でも、個人的に一番好きな言葉は、次の言葉。

 ・創造力より創造力 (p110)

 「想像力は夢見る力(イメージを描く)で、創造力は夢を実現する力(カタチを創る)です。今ビジネスマンには、この2つの『そうぞう力』が求められています。すべて『人と違うことを考え、人と違うものを創る』ことで差別化となり、競争力となるからです。企業も個人も、人と違うことでオンリーワンとなり、存在感を増し、信頼され続けてブランドとなっていきます。その基盤は『そうぞう力』。
 とくにビジネスでは『想像力』がすべての行動に要求されます。」(p111)


 2つの「そうぞう力」が大切なのは分かりますが、「想像力」の方を上位に持ってきています。そうなんですよね。この考え方は私も賛成です。
 広告に携わる人には、しばしば「クリエイティビティ」が必要とされます。それは「何かを創るチカラ=創造力」のように受け取れますが、それだけでは足りない。何かを創る前提として、企業や消費者、そして社会のありようを「想像」することで、よいソリューションが生み出せるのだと思います。

 こうしたタイプの本は、広告テクノロジーがどうだとか、最新のクロスメディア手法が何だとか、という議論の前には、かなりアナクロに見えます。
 しかしどんなに技術が発達しようとも、コミュニケーションビジネスがお客様(クライアント)の課題に対して、顧客や社会のことを考えながらアイデアを生み出して解決を図るようなものである限り、ここに書いてあるような内容が決して古くなることはないと思います。

 筆者が博報堂の新人研修で、この本の基になった内容を話していた際、サブタイトルとして「5年先からジワジワ効いてくる話」と題し語っていたということが前書きに出ています。
 確かに、こうした心がけのある人とない人では、数年経つと差が出てきてしまうでしょうね。
 常に携帯してここに書いてある通りの行動を取るべきだ、とは言いませんが、たまにはこうした本を読んで、自分の仕事ぶりを振り返ってみるのは悪くないと思いました。


☆高橋宣行「博報堂スタイル」(2008年)PHP研究所

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