ブランド論が隆盛になっていたのは、90年代中ごろから2003〜04年頃まででしょうか。当時は企画書の中で「アーカー」と言う言葉が普通に使われ、打ち合わせでは二言目には「ブランドが、、、」「ブランドが、、、」と言われる始末でした。。
しかし現在、クロスメディア論などに注目が集まる中で、ブランドについて語られることがめっきり減りました。決してブランドの重要性が薄れたわけではないと思うのですが、もう当たり前のことになって、語ることがなくなってしまったのでしょうか? ブランド論の隆盛期に多くの仕事を覚えた私としては、世の中の移ろいに一抹の寂しさを感じずにはいられません。
そうした中で「ブランド論」についての久々の新刊。それもブランド論が隆盛だった時に大きな注目を集めていた(そして今、ブランド論と同じようにあまり人々の話題に上らなくなった)「ブランドコンサル会社」の一つである博報堂ブランドコンサルからの出版ということで、思わず手にとりました。
読み終えた感想は一言で言うと、「ブランド論は熟成していたのだなぁ」ということでした。
みんながクロスメディアだ、WEB広告だと言っている一方で、「ブランドをどう考え、顧客(広告主)にどう説明すべきか」ということを、実務を通じて考え抜いている人たちがいて(要するに著者たちです)、その熟成した思考が結実してきた、というような印象を受けたのです。
本論は「サービスブランド」という、無形の価値を消費者に提供するタイプのブランド(店舗、WEBサービス、旅行会社、会員制クラブなど)について論じられているものです。しかし、サービスブランドだけでなく、すべてタイプのブランドについて当てはまるような論考が、特に前半の部分でなされています。
特に私はその前半部分が印象に残りました。
サービスブランドに関心がない人でも、ブランド論の隆盛期から少し時間が経過した今日の、ブランドについての熟成した論考を味わうことができると思います。
例えば次のような指摘は、とてもシンプルで本質を捉えた言い方だと思います。
「サービスに限らずブランディングで重要なのは、企業と顧客との関係性である。商標としてのブランドは企業が保有する資産だが、ブランドをつくるのは、顧客の期待や連想である。つまり、ブランドとは、企業と顧客が一緒につくっていくものである。企業が顧客に提供する価値を明確にし、顧客の期待に応え続けることで出来上がる、企業と顧客との長期的に揺るぎない精神的な関係(絆)こそが、ブランディングの最終目標である。そのためには、企業が顧客にどう思われたいか、ブランドを通じてどのような価値を提供するか自己規定する必要がある。」(p22)
ブランドが企業と顧客との協創物であるという指摘は昔からあるものですが、私が注目したいのは「期待」という概念を取り入れてブランドを語っている点です。数年前までのブランド論では「期待」という概念が明示的に論じられることはあまりなかったと思います。しかし「期待」があって、「実体験」があってブランドに対する評価(態度)が決まってくると言う考え方は、最近のクロスメディアの議論においてよく語られる「メディアの役割論」の文脈(期待を形成するメディアと実体験を提供するメディアは異なる云々)で読み解くととても腑に落ちる考え方です。こうした論は、ひょっとするとクロスメディアの議論の影響を受けて整理された点なのかなと思いました。そういった意味で面白いと思ったのです。
続けて、次のようにブランディングの本質をさらっと話したりしています。
「また、ブランドが提供する価値を自己規定するためには、求められること(期待)、できること(能力)、やりたいこと(意志)の三つの視点が必要不可欠である。」(p23)
さらに「期待」に関してもう一つ面白い指摘がありました。期待を作っていくのが、広告コミュニケーションということになるわけですが、
「一般的に、顧客の満足は顧客が抱く購買前の期待と購買後の評価との関係によってもたらされる。しかしただ単に、期待を上回れば高い満足度が得られるかというとそうでもない。注意しなけらばならないのは、購買前の期待の持たれ方により、購買後の評価が大きく変わってしまうという点だ。
そもそも期待がそれほど高くないものは、買ってみていいと思っても、まあこんなものかという評価になってしまう。サービスにそれほど自信がないため強い約束をしなかった場合によく起きる。この場合せっかくよい商品やサービスを提供しても、あまり高い評価を得られず、結局企業にとって損な対応となってしまう。(中略)一番いいのは、サービスとして約束すること明確にし、少し高めの購買前期待を持ってもらうことである。不満を恐れて、何も言わずとにかく期待度を上げないようにするのは結局そんなのだ。」(p25)
引用が長くて分かりづらいかも知れませんが、筆者がいいたいのはこういうことです。つまり、事前に広告コミュニケーションで期待を膨らませておいてから「実体験」させた方が、期待が低いまま「実体験」するよりも満足が高まりやすい、という指摘です。これは例えば、クルマなどで「加速が良いのに燃費も良い」などと期待を抱かせていた方が、実際に体験したときに、「ああその通りだ、満足した」という満足につながり、何も知らないで「こんなクルマなんだ」と思うよりも、ブランドと顧客との心理的絆(エンゲージメント)が作りやすい、ということだと思います。
さらに、この議論を突き詰めると、「広告は十分やった方がいい」という議論にもつながります。そうなれば、提案する会社(博報堂ブランドコンサル)にとっては、非常に都合がいい話となります。そこまで落とし込める論理的な議論を構築させているのは、すごいことだと思います(決して皮肉ではなくて)。
他にも後半には、サービスブランドのタイプを「店舗型か無店舗か」「契約型か非契約型か」で分類し、それぞれのケーススタディを示しながらブランディングのあり方を説明しています。ここもそれぞれに該当するタイプのサービスブランドを持つ人にとっては大変参考になると思います。
しかし、著者である博報堂ブランドコンサルティングですが、聞く所によると、ブランド論に対する追い風が収まった中でも、さまざまな経営努力によってそれを乗り切り、現在は堅調な経営が続いているとのことです。
それもまたすごいことです。
☆博報堂ブランドコンサルティング「サービスブランディング」(2008年)ダイヤモンド社
サービスブランディング―「おもてなし」を仕組みに変える
しかし現在、クロスメディア論などに注目が集まる中で、ブランドについて語られることがめっきり減りました。決してブランドの重要性が薄れたわけではないと思うのですが、もう当たり前のことになって、語ることがなくなってしまったのでしょうか? ブランド論の隆盛期に多くの仕事を覚えた私としては、世の中の移ろいに一抹の寂しさを感じずにはいられません。
そうした中で「ブランド論」についての久々の新刊。それもブランド論が隆盛だった時に大きな注目を集めていた(そして今、ブランド論と同じようにあまり人々の話題に上らなくなった)「ブランドコンサル会社」の一つである博報堂ブランドコンサルからの出版ということで、思わず手にとりました。
読み終えた感想は一言で言うと、「ブランド論は熟成していたのだなぁ」ということでした。
みんながクロスメディアだ、WEB広告だと言っている一方で、「ブランドをどう考え、顧客(広告主)にどう説明すべきか」ということを、実務を通じて考え抜いている人たちがいて(要するに著者たちです)、その熟成した思考が結実してきた、というような印象を受けたのです。
本論は「サービスブランド」という、無形の価値を消費者に提供するタイプのブランド(店舗、WEBサービス、旅行会社、会員制クラブなど)について論じられているものです。しかし、サービスブランドだけでなく、すべてタイプのブランドについて当てはまるような論考が、特に前半の部分でなされています。
特に私はその前半部分が印象に残りました。
サービスブランドに関心がない人でも、ブランド論の隆盛期から少し時間が経過した今日の、ブランドについての熟成した論考を味わうことができると思います。
例えば次のような指摘は、とてもシンプルで本質を捉えた言い方だと思います。
「サービスに限らずブランディングで重要なのは、企業と顧客との関係性である。商標としてのブランドは企業が保有する資産だが、ブランドをつくるのは、顧客の期待や連想である。つまり、ブランドとは、企業と顧客が一緒につくっていくものである。企業が顧客に提供する価値を明確にし、顧客の期待に応え続けることで出来上がる、企業と顧客との長期的に揺るぎない精神的な関係(絆)こそが、ブランディングの最終目標である。そのためには、企業が顧客にどう思われたいか、ブランドを通じてどのような価値を提供するか自己規定する必要がある。」(p22)
ブランドが企業と顧客との協創物であるという指摘は昔からあるものですが、私が注目したいのは「期待」という概念を取り入れてブランドを語っている点です。数年前までのブランド論では「期待」という概念が明示的に論じられることはあまりなかったと思います。しかし「期待」があって、「実体験」があってブランドに対する評価(態度)が決まってくると言う考え方は、最近のクロスメディアの議論においてよく語られる「メディアの役割論」の文脈(期待を形成するメディアと実体験を提供するメディアは異なる云々)で読み解くととても腑に落ちる考え方です。こうした論は、ひょっとするとクロスメディアの議論の影響を受けて整理された点なのかなと思いました。そういった意味で面白いと思ったのです。
続けて、次のようにブランディングの本質をさらっと話したりしています。
「また、ブランドが提供する価値を自己規定するためには、求められること(期待)、できること(能力)、やりたいこと(意志)の三つの視点が必要不可欠である。」(p23)
さらに「期待」に関してもう一つ面白い指摘がありました。期待を作っていくのが、広告コミュニケーションということになるわけですが、
「一般的に、顧客の満足は顧客が抱く購買前の期待と購買後の評価との関係によってもたらされる。しかしただ単に、期待を上回れば高い満足度が得られるかというとそうでもない。注意しなけらばならないのは、購買前の期待の持たれ方により、購買後の評価が大きく変わってしまうという点だ。
そもそも期待がそれほど高くないものは、買ってみていいと思っても、まあこんなものかという評価になってしまう。サービスにそれほど自信がないため強い約束をしなかった場合によく起きる。この場合せっかくよい商品やサービスを提供しても、あまり高い評価を得られず、結局企業にとって損な対応となってしまう。(中略)一番いいのは、サービスとして約束すること明確にし、少し高めの購買前期待を持ってもらうことである。不満を恐れて、何も言わずとにかく期待度を上げないようにするのは結局そんなのだ。」(p25)
引用が長くて分かりづらいかも知れませんが、筆者がいいたいのはこういうことです。つまり、事前に広告コミュニケーションで期待を膨らませておいてから「実体験」させた方が、期待が低いまま「実体験」するよりも満足が高まりやすい、という指摘です。これは例えば、クルマなどで「加速が良いのに燃費も良い」などと期待を抱かせていた方が、実際に体験したときに、「ああその通りだ、満足した」という満足につながり、何も知らないで「こんなクルマなんだ」と思うよりも、ブランドと顧客との心理的絆(エンゲージメント)が作りやすい、ということだと思います。
さらに、この議論を突き詰めると、「広告は十分やった方がいい」という議論にもつながります。そうなれば、提案する会社(博報堂ブランドコンサル)にとっては、非常に都合がいい話となります。そこまで落とし込める論理的な議論を構築させているのは、すごいことだと思います(決して皮肉ではなくて)。
他にも後半には、サービスブランドのタイプを「店舗型か無店舗か」「契約型か非契約型か」で分類し、それぞれのケーススタディを示しながらブランディングのあり方を説明しています。ここもそれぞれに該当するタイプのサービスブランドを持つ人にとっては大変参考になると思います。
しかし、著者である博報堂ブランドコンサルティングですが、聞く所によると、ブランド論に対する追い風が収まった中でも、さまざまな経営努力によってそれを乗り切り、現在は堅調な経営が続いているとのことです。
それもまたすごいことです。
☆博報堂ブランドコンサルティング「サービスブランディング」(2008年)ダイヤモンド社
サービスブランディング―「おもてなし」を仕組みに変える
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