仕事が忙しくて久々の更新になってしまいました。

 今回は「スポーツマーケティング」の本を取り上げます。

 スポーツと言えば、今年の最大の話題はなんと言ってもワールドカップ(W杯)でしたね。終わったのが2カ月前ですが、監督が代わったこともあって、遠い昔の出来事のような気がしてしまいます。

 サッカーの大きな大会が終わると(サッカーに限りませんが)、株の急騰する人と急落する人がいますよね。W杯ではジーコや中村俊輔の株が急落した感じがしました。「神」といわれたジーコの評判は今や既にありませんし、オシムジャパンに中村俊輔が呼ばれなくて、文句を言う人はもはや少数派でしょう。中田も株が下がったわけではないですが、引退してしまえばただの人、という感じです。
 オシムも監督就任時は、大きな期待を持って迎えられましたが、アジアカップ予選での不甲斐ない日本チームを見ると、「オシム株」もいつ暴落しないとは限りません。怖いですね。

 ところで、株が急落したジーコや中村俊輔とは異なり、W杯について、回を重ねるたびに急騰しているものがあります。さて何でしょうか?

ヒント:この金額です。
 1998年フランス大会 約240億円
 2002年日韓大会   約1,150億円(約5倍)
 2006年ドイツ大会  約1,400億円


答え:テレビ放映権料
 答えは大会の放映権料、つまりW杯の試合をテレビで放映するためにFIFA(世界サッカー連盟)に支払うお金です。
 98年までは、FIFAが「ワールドカップは公共放送優先」の方針、つまり世界中の人がサッカーを楽しめるように、とリーズナブルな価格で放映権を販売していたのですが、日韓大会からその方針を撤回、非常に高い価格で放映権を販売するようになったわけです。
 ちなみに、上記はFIFAが全世界に販売する放映権料ですが、日本での放映権料も高騰しています。
 1998年フランス大会 約7億円
 2002年日韓大会   約200億円(約78倍)
 2006年ドイツ大会  約150億円

 日韓大会は高かったかも知れませんが、ドイツ大会などあんな深夜の試合に、どうしてこんなに高い値段がついたのか、今となっては理解に苦しみます。

 フランス大会と日韓・ドイツ大会で、W杯自体に質的な変化があったとは思えません。変わったのはFIFAの考え方・やり方です。そしてはっきりしているのは、FIFAはW杯でもっと稼げるだけの価値があるはずだと考え、交渉の末、実際にそれをお金に変えてしまったということです。 

 ちなみに、こうした巨額の費用はテレビ局が、そしてその番組に提供する多くのスポンサーが分担して支払ことになるわけです。もちろん最終的には製品価格に転嫁され、われわれ一般の消費者が支払うことになります。

 その良し悪しについて意見のある方もいらっしゃるでしょう。でもとりあえずここではそれについてこれ以上触れないことにします。ただ、私が非常に興味深いと感じるのはスポーツビジネスのこうした面です。つまり、価値(価格)の曖昧なものが、やりようにより大きなカネを生むビジネスに変わる、という側面です。あるいはその実行方法です。スポンサーシップビジネス、と捉えてもいいかも知れません。

 今回紹介する、「図解スポーツマネジメント」という本は、スポーツチームやスポーツ団体を運営する側に立って、それをうまくマネジメントする方法について述べた本です。図を交えながら細部にわたるまで手際よく整理してあるので、スポーツ関連のビジネスを行っている人にとっては手元に置いておいて参考になる本なのだと思います。

 しかし、この本の中心テーマとは別に、先ほどの観点から、この本の中の以下の一文が、非常に私の印象に残りました。

 プロスポーツ・ビジネスは宝の山であり、活性化することによって金を生む権利が多く埋まっている。スポーツマーケターに必要なのは、アクティベート(注:権利の活性化)できる権利の鉱脈を発見し、それらを掘り出して活用する知恵と、ビジネス化するためのアイディアの創出力である。また、創出された権利は、チームやクラブの知的財産として保護されなければならない。ただし、権利の価値を増大するには、チームやクラブのブランド力の向上が不可欠で、価値のないブランドに大きな権利は発生しない。」(p72)

 スポーツビジネスの要諦はこの言葉に集約されのではないかと思いました。スポーツといえども、「ビジネス」という視点から考えれば、お金を生むことが究極的には求められるわけです。スポーツは単純にゲームの入場料収入だけが収益ではありません。放映権、肖像権、マーケティング権(スポンサーシップ)、商品化権など、さまざまな領域から収益を上げることができます。その際には、チームの「人気」というものが「ブランド力」と同じように、高い付加価値(多くのお金)を生み出す装置として機能します。だから「人気」という要素があって、そこにうまく鉱脈を探すことができれば、「打ち出の小槌」のごとくスポーツからまた新たに多くのお金を生み出すことも可能になるのです。

 こんなこと言ってはスポーツ選手に怒られてしまいそうですが、それでチームが潤い、ファンが満足するのならば、それはそれで間違っていないような気がします。

 こう考えると、スポーツというのはビジネスの対象として面白そうだと思いませんか? みなさん! 「宝の山」という言い方が魅力的ですよね。

 もっとも金脈としてカネを生む前段階としての、「人気」をいかにあげていくのか、というのが現在スポーツビジネスに携わっている多くの人の悩みなのかも知れませんが。

☆山下秋二、原田宗彦(編著)、中西純司、松岡宏高、冨田幸博、金山千広(著)「図解スポーツマネジメント」(2005年)大修館書店

図解 スポーツマネジメント