「Web2.0」という言葉を最近よく耳にするようになりました。Webのバージョンアップとして新しく開ける未来を感じさせる言葉ではありますが、一方でジャーゴン(小難しい専門用語)の雰囲気をプンプン漂わせている言葉でもあります。
もっとも、その意味するところを何となく感じ取ると、意外に便利な言葉です。今日も打ち合わせで、「それはWeb2.0的な仕組みで進めるといいと思う」などと自分でも使ってしまいました。全然伝わってなかったりして(苦笑)。
それはさておきWebの世界ではホットなテーマであることは間違いなく、Web2.0をテーマにした本も何冊か出ています。今日はその中から最近読んだ2冊を紹介します。「ウェブ進化論」と「Web2.0 Book」です。
まず、そもそも「Web2.0」とは何なんでしょう? それぞれの本からそれを説明している文章を引用します。
「Web2.0の本質とは何なのか。(中略)『ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービスの享受者でなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢』がその本質だと私は考えている。」(ウェブ進化論 p120)
「Web2.0とは、『インターネット上でのこの数年間に発生したWebの環境変化とその方向性(トレンド)をまとめたもの』です。特定の技術やサービス、製品などをさすものではありません。第二世代のWebという意味です。(中略)ではWeb2.0時代のトレンドとはなんでしょう? それは『Webのネットワーク化、すなわち構造化が進む』ことです。」(Web2.0 Book p18)
わかります? よく読めば何となくわかるような気がしますが、わかりにくいですよね。その大きな理由というのは、Web2.0というのが、何か具体的なモノを指し示す語ではなくて、Webに関わる大きな変化のあり方を指しているというところに起因するのだと思います。この2つの文章「Web2.0の本質とは」と「Web2.0とは」についても、全然違うことが書いてあるような気もしますよね。こういうところも、Web2.0がもともと抽象的な概念で、捉えにくいものだからだと思います。ただし、前者がより社会的な視点から、後者がより技術的視点から捉えていると考えることはできそうです。それは前者の著者梅田氏が主にコンサルタントとしてのキャリアの中でWebに関わってきた人であり、後者の著者小川氏と後藤氏がどちらも現にITベンチャーに技術的側面から関わっている人である、という立場の違いが反映しているのかも知れません。
さて、1冊目「ウェブ進化論」ですが、これはWebの最近の動きがもたらすネット社会全体の大きな変化について書いた本であり、その動きの重要なキーワードとしてWeb2.0が紹介されています。Web2.0がタイトルになってはいませんが、Web2.0という言葉が表現しようとしてる、Webの新しい動きをまとめた本だといえます。
全体の感想から言うと、新書で薄い本ではありますが、大変内容の詰まった良書だと思いました。非常に大きな視点から書かれていますし、内容もWeb2.0的なものがもたらす希望と課題の両面が語られていてバランスが取れています。Web2.0がらみで、私が漠然と感じていた違和感がいくつかあったのですが、それが解消されるような記述も随所にありました。あのSBIホールディングス北尾吉孝CEOが「ウェブ進化論を全社員の必読書にした」というニュースが流れましたが、それくらいされていい本だと私も思います。
本書の中でも、いくつか面白いと思ったポイントをまとめました。
・Googleとチープ革命で情報環境が変わる
ネットを通じて普通の人が情報を発信するコストは劇的に低下しています(チープ革命)。しかし彼らからネット上に発信された情報(コンテンツ)は玉石混交だったため、全体としての影響力はこれまで限られていました。しかし筆者は言います。Googleがコンテンツの価値付けを「民主的」に行う仕組み(Page Rank)を普及させたために、ユーザーは“玉”のコンテンツだけを選び出してアクセスすることが可能になった。その結果、ネット上の情報(消費者発信情報)の影響力が飛躍的に高まるようになるだろう、と。
なるほど! 確かにネット上にころがっている情報は玉石混交です。そのままの形で情報が増え続けるだけなら、みんなネットから情報を得ることに価値を感じなくなるでしょう。Googleにそれをする明確な意図があるのかどうかわかりませんが、結果として「検索エンジン」というフィルターをかけることで、より人気のあるもの(=価値のある情報)とそうでないものとに分けられていくのでしょう。しかし本書で指摘しているように、もしGoogleが本気でそれを意図しているとしたら、Googleとは凄い会社であり、同時に怖い会社でもあります。
・デジタルコンテンツの著作権問題に見る、交わりがたき2つの立場
「『総表現社会の到来』とは、著作権に鈍感な人の大量新規参入(ブログの書き手やグーグルのようなサービス提供者の両方)を意味する。新規参入者の大半は、表現それ自体によって生計を立てる気がない。別に正業を持っていて、表現もする書き手などはそういう範疇に入る。そして総表現社会のサービス提供者とは、『表現そのものの政策によってではなく、表現されたコンテンツの加工・整理・配信を事業化する』人たちで、既存の著作権の仕組みを拡大解釈するか、新しい時代に合わせて改善すべきだと考える。Web2.0はそういう方向性を技術面からさらに後押しするのだ。著作権をめぐるさまざまな議論が、感情的かつ平行線をたどりやすい真因はここにある。」(ウェブ進化論 p183)
そうなんです。デジタルコンテンツに関わる立場の人を2つに分けるとすると、制作者(クリエイター)と加工者(ネット配信等の事業者)に分かれると思います。私は仕事柄制作者側にシンパシーを感じるわけではありますが、同時に加工者側に対しては、彼らの無形の制作物(コンテンツ)に対するある種のリスペクトのなさや権利関係への鈍感さを感じてしまうときがあります。しかし加工者側は、普段はオープンソース環境でソフト開発を行っているような人であるのでしょうから、「作ったものは共有化してみんなでより良いものを作っていけばいい」「制約されるとやりづらい」という文化が体に染み付いているのかも知れません。そうすると彼らの考え方もちょっとは理解できるような気がしてきます。それでもそれがいいことだとは思えませんが。
・Web2.0のユーフォリア(多幸症)的雰囲気
さらに、私が気になっていることは「Web2.0」が語られる時の、一種独特のユーフォリア(多幸)的雰囲気です。Web2.0を語る人は、ワクワクしてまさにこれから新しいことが始まるという高揚感と共に語っているようなことが多い気がします。決して悪いことではないですが、そうした雰囲気は批判を封じ込め、新しいことへ盲信や価値の押し付けを伴いがちです。
だから私は、正面切って「Web2.0は...」というような言い方には違和感があるし、そういうことを言う人には胡散臭さを感じてしまいます。
このことに関連して筆者はこんなことを書いています。
「シリコンバレーにあって日本にないもの。それは若い世代の創造性や果敢な行動を刺激する『オプティミズムに支えられたビジョン』である。全く新しい事象を前にして、いくつになっても前向きにそれを面白がり、積極的に未来志向で考え、何かに挑戦したいと思う若い世代を明るく励ます。それがシリコンバレーの『大人の流儀』たるオプティミズムである。もちろんウェブ進化についての語り口はいろいろあるだろう。でも私はオプティミズムを貫いてみたかった。これから直面する難題を創造的に解決する力は、オプティミズムを前提とした試行錯誤以外からは生まれ得ないと信ずるからである。」(p247)
私が違和感を感じるようなことを筆者は「日本にない、シリコンバレー流のよいところ」と言っているような気がします。そう言われれば、私も知らず知らず“守り”に入っているかも知れないと思いました。ちょっと反省です。
こんな指摘をするあたりでも、この本はバランスの取れたいい本だと思うわけです。他にもWeb2.0的なあり方への課題提起的なテーマとして、Wikipediaを取り上げ、そこに見られる「信頼性」の問題や「管理されないものを管理する人」の問題、「大衆の知恵」の問題などに触れており、考えされられるポイント満載です。
さて次に、もう一つの本「Web2.0 Book」ですが、これは「ウェブ進化論」に比べ、より技術寄りであり具体的です。Web2.0の背景となっている新しいテクノロジーや、それを活用した新たなサービス、そしれその代表的企業(Google、Amazon、テクノラティ、はてなど)についてページを割いて紹介しています。「本書の読者対象」として、「インターネットビジネスやIT技術に興味を持つビジネスパースンを主な対象としています」とあり、入門書という位置づけではなく、Webを中心としたビジネスにある程度携わっている人向けといえます(技術的な専門用語もたくさん出てきます)。
ウェブ進化論に比べて、ユーフォリア感が強く、私はそこが少し馴染めませんでしたが、Web2.0で具体的に何ができるの? ということを手短に知りたい人にはいい本だと思います。
私は逆から読みましたが、最初に「ウェブ進化論」、次に「Web2.0 Book」という順で2冊合わせて読むといいと思いました。最初にWeb2.0が大体どんなことで、どんな社会的インパクトがあるのかということがわかり、次に具体がわかる、ということで、頭の整理もできるし、社会的視点と技術的視点の2つの視点からWeb2.0を考えることができると思うからです。こういう読み方をおススメします。
今回本当は、Web2.0時代とコミュニケーションビジネスについても少し書こうと思っていたのですが、話が長くなってしまったので、それは機会を改めて触れたいと思います。
☆梅田望夫「ウェブ進化論」(2006年)ちくま新書
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
☆小川浩、後藤康成「Web2.0 Book」(2006年)インプレス
Web2.0 BOOK
もっとも、その意味するところを何となく感じ取ると、意外に便利な言葉です。今日も打ち合わせで、「それはWeb2.0的な仕組みで進めるといいと思う」などと自分でも使ってしまいました。全然伝わってなかったりして(苦笑)。
それはさておきWebの世界ではホットなテーマであることは間違いなく、Web2.0をテーマにした本も何冊か出ています。今日はその中から最近読んだ2冊を紹介します。「ウェブ進化論」と「Web2.0 Book」です。
まず、そもそも「Web2.0」とは何なんでしょう? それぞれの本からそれを説明している文章を引用します。
「Web2.0の本質とは何なのか。(中略)『ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービスの享受者でなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢』がその本質だと私は考えている。」(ウェブ進化論 p120)
「Web2.0とは、『インターネット上でのこの数年間に発生したWebの環境変化とその方向性(トレンド)をまとめたもの』です。特定の技術やサービス、製品などをさすものではありません。第二世代のWebという意味です。(中略)ではWeb2.0時代のトレンドとはなんでしょう? それは『Webのネットワーク化、すなわち構造化が進む』ことです。」(Web2.0 Book p18)
わかります? よく読めば何となくわかるような気がしますが、わかりにくいですよね。その大きな理由というのは、Web2.0というのが、何か具体的なモノを指し示す語ではなくて、Webに関わる大きな変化のあり方を指しているというところに起因するのだと思います。この2つの文章「Web2.0の本質とは」と「Web2.0とは」についても、全然違うことが書いてあるような気もしますよね。こういうところも、Web2.0がもともと抽象的な概念で、捉えにくいものだからだと思います。ただし、前者がより社会的な視点から、後者がより技術的視点から捉えていると考えることはできそうです。それは前者の著者梅田氏が主にコンサルタントとしてのキャリアの中でWebに関わってきた人であり、後者の著者小川氏と後藤氏がどちらも現にITベンチャーに技術的側面から関わっている人である、という立場の違いが反映しているのかも知れません。
さて、1冊目「ウェブ進化論」ですが、これはWebの最近の動きがもたらすネット社会全体の大きな変化について書いた本であり、その動きの重要なキーワードとしてWeb2.0が紹介されています。Web2.0がタイトルになってはいませんが、Web2.0という言葉が表現しようとしてる、Webの新しい動きをまとめた本だといえます。
全体の感想から言うと、新書で薄い本ではありますが、大変内容の詰まった良書だと思いました。非常に大きな視点から書かれていますし、内容もWeb2.0的なものがもたらす希望と課題の両面が語られていてバランスが取れています。Web2.0がらみで、私が漠然と感じていた違和感がいくつかあったのですが、それが解消されるような記述も随所にありました。あのSBIホールディングス北尾吉孝CEOが「ウェブ進化論を全社員の必読書にした」というニュースが流れましたが、それくらいされていい本だと私も思います。
本書の中でも、いくつか面白いと思ったポイントをまとめました。
・Googleとチープ革命で情報環境が変わる
ネットを通じて普通の人が情報を発信するコストは劇的に低下しています(チープ革命)。しかし彼らからネット上に発信された情報(コンテンツ)は玉石混交だったため、全体としての影響力はこれまで限られていました。しかし筆者は言います。Googleがコンテンツの価値付けを「民主的」に行う仕組み(Page Rank)を普及させたために、ユーザーは“玉”のコンテンツだけを選び出してアクセスすることが可能になった。その結果、ネット上の情報(消費者発信情報)の影響力が飛躍的に高まるようになるだろう、と。
なるほど! 確かにネット上にころがっている情報は玉石混交です。そのままの形で情報が増え続けるだけなら、みんなネットから情報を得ることに価値を感じなくなるでしょう。Googleにそれをする明確な意図があるのかどうかわかりませんが、結果として「検索エンジン」というフィルターをかけることで、より人気のあるもの(=価値のある情報)とそうでないものとに分けられていくのでしょう。しかし本書で指摘しているように、もしGoogleが本気でそれを意図しているとしたら、Googleとは凄い会社であり、同時に怖い会社でもあります。
・デジタルコンテンツの著作権問題に見る、交わりがたき2つの立場
「『総表現社会の到来』とは、著作権に鈍感な人の大量新規参入(ブログの書き手やグーグルのようなサービス提供者の両方)を意味する。新規参入者の大半は、表現それ自体によって生計を立てる気がない。別に正業を持っていて、表現もする書き手などはそういう範疇に入る。そして総表現社会のサービス提供者とは、『表現そのものの政策によってではなく、表現されたコンテンツの加工・整理・配信を事業化する』人たちで、既存の著作権の仕組みを拡大解釈するか、新しい時代に合わせて改善すべきだと考える。Web2.0はそういう方向性を技術面からさらに後押しするのだ。著作権をめぐるさまざまな議論が、感情的かつ平行線をたどりやすい真因はここにある。」(ウェブ進化論 p183)
そうなんです。デジタルコンテンツに関わる立場の人を2つに分けるとすると、制作者(クリエイター)と加工者(ネット配信等の事業者)に分かれると思います。私は仕事柄制作者側にシンパシーを感じるわけではありますが、同時に加工者側に対しては、彼らの無形の制作物(コンテンツ)に対するある種のリスペクトのなさや権利関係への鈍感さを感じてしまうときがあります。しかし加工者側は、普段はオープンソース環境でソフト開発を行っているような人であるのでしょうから、「作ったものは共有化してみんなでより良いものを作っていけばいい」「制約されるとやりづらい」という文化が体に染み付いているのかも知れません。そうすると彼らの考え方もちょっとは理解できるような気がしてきます。それでもそれがいいことだとは思えませんが。
・Web2.0のユーフォリア(多幸症)的雰囲気
さらに、私が気になっていることは「Web2.0」が語られる時の、一種独特のユーフォリア(多幸)的雰囲気です。Web2.0を語る人は、ワクワクしてまさにこれから新しいことが始まるという高揚感と共に語っているようなことが多い気がします。決して悪いことではないですが、そうした雰囲気は批判を封じ込め、新しいことへ盲信や価値の押し付けを伴いがちです。
だから私は、正面切って「Web2.0は...」というような言い方には違和感があるし、そういうことを言う人には胡散臭さを感じてしまいます。
このことに関連して筆者はこんなことを書いています。
「シリコンバレーにあって日本にないもの。それは若い世代の創造性や果敢な行動を刺激する『オプティミズムに支えられたビジョン』である。全く新しい事象を前にして、いくつになっても前向きにそれを面白がり、積極的に未来志向で考え、何かに挑戦したいと思う若い世代を明るく励ます。それがシリコンバレーの『大人の流儀』たるオプティミズムである。もちろんウェブ進化についての語り口はいろいろあるだろう。でも私はオプティミズムを貫いてみたかった。これから直面する難題を創造的に解決する力は、オプティミズムを前提とした試行錯誤以外からは生まれ得ないと信ずるからである。」(p247)
私が違和感を感じるようなことを筆者は「日本にない、シリコンバレー流のよいところ」と言っているような気がします。そう言われれば、私も知らず知らず“守り”に入っているかも知れないと思いました。ちょっと反省です。
こんな指摘をするあたりでも、この本はバランスの取れたいい本だと思うわけです。他にもWeb2.0的なあり方への課題提起的なテーマとして、Wikipediaを取り上げ、そこに見られる「信頼性」の問題や「管理されないものを管理する人」の問題、「大衆の知恵」の問題などに触れており、考えされられるポイント満載です。
さて次に、もう一つの本「Web2.0 Book」ですが、これは「ウェブ進化論」に比べ、より技術寄りであり具体的です。Web2.0の背景となっている新しいテクノロジーや、それを活用した新たなサービス、そしれその代表的企業(Google、Amazon、テクノラティ、はてなど)についてページを割いて紹介しています。「本書の読者対象」として、「インターネットビジネスやIT技術に興味を持つビジネスパースンを主な対象としています」とあり、入門書という位置づけではなく、Webを中心としたビジネスにある程度携わっている人向けといえます(技術的な専門用語もたくさん出てきます)。
ウェブ進化論に比べて、ユーフォリア感が強く、私はそこが少し馴染めませんでしたが、Web2.0で具体的に何ができるの? ということを手短に知りたい人にはいい本だと思います。
私は逆から読みましたが、最初に「ウェブ進化論」、次に「Web2.0 Book」という順で2冊合わせて読むといいと思いました。最初にWeb2.0が大体どんなことで、どんな社会的インパクトがあるのかということがわかり、次に具体がわかる、ということで、頭の整理もできるし、社会的視点と技術的視点の2つの視点からWeb2.0を考えることができると思うからです。こういう読み方をおススメします。
今回本当は、Web2.0時代とコミュニケーションビジネスについても少し書こうと思っていたのですが、話が長くなってしまったので、それは機会を改めて触れたいと思います。
☆梅田望夫「ウェブ進化論」(2006年)ちくま新書
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
☆小川浩、後藤康成「Web2.0 Book」(2006年)インプレス
Web2.0 BOOK
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