トリノオリンピックも終わりました。女子フィギュアで荒川選手が金メダルを取るまでは、日本勢は全く振るわず、世の中のオリンピックへの関心も下向き加減でしたから、あの金メダルでまた盛り上がって本当に喜んだ人がいると思います。

 JOCなどオリンピック関係者でも、スルツカヤ選手が転倒して喜んだ某大臣でも、地元応援団のことでもありません。例えば、直接・間接的に選手を支援し、そのことを通じて宣伝活動を行っているスポーツ用品メーカー。例えば、オリンピック特番を放送した民放各局。それに番組提供した広告主。直接JOCやIOCとスポンサーシップ契約を結んだ企業もそうでしょう。そしてまた、選手をCMに起用した会社。もちろん諸々に関わっている広告業界関係者もです。もっとも、選手をCMに起用した会社は、選手が活躍した場合は良かったと思いますが、残念ながら活躍できなかった場合はそれをするためにかかった費用のことを考えるとかなりブルーになったかも知れませんね。荒川選手をCMに起用し、金メダルをまさに予知していたかのようなトーヨーライス「金芽米」は、飛ぶように売れてうれしい悲鳴だそうですし、女子フィギュアの3選手を揃えて起用したロッテなどもまあ満足していると思います。一方上村愛子選手を起用した日清オイリオなどは、ちょっと落胆というところでしょうね。選手に罪はありませんが。

 つまり「喜んだ人」というのは、オカネを投じてオリンピックの行く末を見ていたような人、つまりオリンピックを使って自らのビジネスを展開していた人々です。彼らにとってはオリンピックが盛り上がって、関連して消費活動が活発になり、結果として自社への波及効果が高まることが理想的なシナリオで、支払った巨額のスポンサーシップやライセンシング費用を考えると、盛り上がらないで終了してしまうなんて、絶対にあってはならない事態だからです。

 こうした「スポーツ」にまつわるビジネスの側面を「スポーツマーケティング」という概念で考えます。スポーツマーケティングは、いわゆるコンテンツビジネスの一つでもあり、国際的には「スポーツ」が最も有力な(つまりカネを生み出す)コンテンツとして扱われたりもします。
  
 今回紹介する本は、その「スポーツビジネス」を取り上げた本です。

 スポーツビジネスといっても、大きく2つの視点があります。一つは「スポーツそのもの」のビジネス。つまりサッカークラブ経営、スポーツイベントの運営など、スポーツを商品として扱う視点です。もう一つは、「スポーツを使った」ビジネス。オリンピックへのスポンサードであったり、スポーツイベントへの協賛、広告活動での有名スポーツ選手の起用など、自社商品をスポーツを使って効果的に販売しようという視点です。

 この本では、主に前者の視点に立って書かれているようですが、章を割いてスポンサーシップの問題やライセンシングの問題にも触れています。
 私もあまりこういう領域になじみがあったわけではないのですが、中身を読むと、いわゆるマーケティングの理論が非常にわかりやすくスポーツに適用して説明してあって、スポーツも他の商品カテゴリー同様にマーケティングの基本的な考え方が適用できるものなんだなぁ、と思うと同時に、説明自体もわかりやすかったので、スポーツに直接関心のない人でもためになる本だな、とも思いました。

 とはいえ、スポーツは通常の商品とは全く異なる点もあって、それも面白かったのでちょっと取り上げてみたいと思います。それはスポーツを商品と見立てた場合のターゲットに当たる「ファン」の存在です。

 「一般的な消費者においては、購入したモノの品質が悪い、あるいは享受したサービスの質が悪ければ、再び同じ消費を繰り返す可能性は極めて低くなり、代案を検討することになる。(中略)しかし、見るスポーツの消費者の中には、質の悪いパフォーマンスを何度見せられても、継続して消費するものが多く存在する。つまり、チームがどんなに負け続けてもチームから離れることなく応援し、スタジアムへ足を運んだり、テレビで見たりする消費行動を続けるのである。」(p79) 

 面白い心理ですよね。阪神ファンとかを思い浮かべました。オリンピックでも日本選手がどんなに弱体でもその選手を応援してしまいますものね。対象物に対する絆を特に深く感るのがスポーツなのかもしれませんね。

 さて、もう一つ面白い話を取り上げたいと思います。スポーツも今やオリンピックなどは巨額な金の動くビジネスシーンですが、スポーツとビジネスとの結びつきは、そんなに歴史があるわけではないようなのです。

 「かつてアマチュアリズムが支配的であったスポーツ界では、『スポーツ』と『ビジネス』は水と油のように異質な概念であり、時に選手生活を脅かす危険な関係であった。たとえば1972年、オーストリアのスキー選手であったカール・シュランツは、自分の使用したスキー(クライスル社製)を両手で掲げ、マスコミにロゴを露出したという理由だけで、IOCから札幌冬季オリンピック出場停止の処分を受けた。彼はこの事件によって、偏狭なアマチュアリズム最後の犠牲者として歴史に名を刻むことになった。」(はじめに)

 今から考えれば驚きですね。今ならば選手がTVに映る際は、スポンサーロゴが露出するようにさせることが当然のマナーとされています。
 もっともこの事件を教訓にIOCでは選手の金銭授受が可能となるという大きな方針転換が図られ、ついに1980年ロス五輪、――大会委員長ピーター・ユベロスのもとで全面的な民間資金の導入が図られた初のオリンピック、で、‘叛衒映権販売、公式スポンサー・サプライヤー制度、商品ライセンシングによるマーチャンダイジングを核とした、今日まで引き継がれるオリンピックビジネスの基本形態が作られたわけです。

 実は今年は日本はスポーツイベントの当たり年で、オリンピックを皮切りに、ワールド・ベースボール・クラシック、サッカーワールドカップ、男子バスケットの世界選手権、バレーの世界選手権など、大きなイベントが続きます。
 商業主義化してしまったスポーツのあり方の是非については、人により意見が分かれるかも知れません。しかし、経済活性化と世の中の盛り上げに一役も二役もかっているのは間違いありませんよね。

☆原田宗彦編著、藤本淳也・松岡宏高著「スポーツマーケティング」(2004年)大修館書店

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