この本の原書“Free Prize Inside!”は、初版の何千(万?)部かをシリアルの箱に似せて作ったパッケージに入れて販売したそうです。
さてそれにどんな意味があるのか? かなり奇特ですし、私は正直言って「?」なのですが(1980年代のビール容器戦争を思い出しました)、店頭ではきっと目立っていたに違いありません。目立てば、多少は売上げに貢献しますよね。実は、本書の主張がこうした「革新的な新技術があるわけではないが、誰もやらないこと」をやることにより効果的な販売活動をしていこう! というものであり、シリアルの箱入り販売というのは、その自らの実践というわけのようです。
私は、最初本屋でこの本を見たとき「オマケ」と書いてあったので、店頭プロモーションでの「おまけ」の効用か何かをテーマにした本だと思いました。たまたまそういうことに興味があったので読んでみようと思ったのですが、読み進めても「おまけ」の話などどこにも出てきません。しばらくは何をテーマにした本なのかわからなくて、頭の中に?マークがついたまま読んでいました。
まぁ、上記のような主張をする本とわかっていれば、買わなかったかも知れません。それなのに買ってしまったのは、タイトルを含めて筆者の術中にはまってしまったことなのかも知れません。
著者のセス・ゴーディン氏は「パーミションマーケティング」、「紫の牛を売れ」(以前このブログでも紹介しました)の著者として有名ですね。マーケティング界における一種のカリスマと言えます。容貌もスキンヘッドで、かなり印象的な人のようです。
ちなみにこの本はシリアルの箱で売られたと書きましたが、「紫の牛」の本は最初の1万部を牛乳パックに入れて売り、その1万部はすぐに売り切れたそうです...この本の試みは柳の下のドジョウ狙いだっだわけですね。なんかちょっと残念。
さて、こうした商品・サービスにおける「革新的技術でなくてもユニークなアイデア」、それを本書では「ソフトイノベーション」と読んでおり、この「ソフトイノベーション」こそが、現代のマーケティングにおける成功の秘訣だと言います。
「本当に成功するのは何か。それはもちろん“ソフト”な[技術ではなくアイデアを盛り込んだ]ものである。わかりやすく創造的なもの――それを生み出すには、修士号や博士号など要らない。積極性と好奇心があればいい。」(p31)
その「ソフト・イノベーション」こそが、本書で言う「オマケ」に当たります(だから実際われわれがよく目にする商品の「おまけ」とは概念が異なります)。彼の主張を要約すると、技術革新は必要だが多大なコストがかかり多くの人が実現できるものではない。一方で技術革新のない商品は販売するのにやはり多大なコミュニケーションコストを必要とする。技術革新なしで、かつコミュニケーションコストなしでも商品をブレークスルーさせる秘訣があり、それがソフト・イノベーション、つまり「オマケ」だ、ということです。さらにそれは、アイデアとそれを実現する情熱を持つ人なら誰でも実現可能なものだ、と言います。
このように言い切るところもユニークではありますが、この本のさらにユニークなところは、単にソフトイノベーションが大事という概念を主張するだけでなく、それを実際に実現するためにどうするべきかという、実践的な戦術(テクニック)により重点を置いて書いてあることです。
「するとこんな疑問がわいてくるかもしれない――このやり方がそれほど効果的で生産的で、しかもほとんど訓練も必要としないのなら、なぜ、皆そうしないのだろう? まさにそこが問題である。
なぜ、ソフト・イノベーションに励まないのか
怖いからだ。皆、どんな種類であれ、変化に抵抗するように仕組まれている。」(p58)
会社など組織体に属している場合、画期的なアイデア(ソフト・イノベーション)を実現させるためには、さまざまな抵抗が想定されます。それは会社などの組織体に属している人なら、例外なく共感することでしょう。そういう環境の中でソフト・イノベーションを実践するためのテクニックの伝授、それが本書のもう一つの大きなテーマになっています。
「私は、イノベーションを実際に生み出すような人間を『推進者(チャンピオン)』と呼んでいる。推進者(チャンピオン)がいなければ、何も生まれない。
待っていてはいけない。もう待つのはやめよう。自分の仕事、自分の会社を変身させていのならば、邪魔するものなど絶対にありはしない。本書の残りの部分は、どうやってそれを正しく行うかというテクニックを伝授するものだ。」(p69)
著者のゴーディン氏も、自身の立ち上げた会社を米Yahoo!に買収して、Yahoo!のマーケティング担当副社長に納まりましたが、その際に絶対イケルと感じた自分のアイデアを導入しようとして失敗した経験があると言います。そうした経験を含めて、組織の壁の中で推進者としてソフト・イノベーションを実現していくコツを本書の後半ではいくつも提示しています。
そのコツの中身についてまではここでは紹介しませんが、興味のある人は本書を手にとって読んでみてください。ひらめいたアイデアを組織の中で実現させていくというのは、確かに難しい問題だと思うので、そういう課題にぶつかっている人は何かヒントが得られるかも知れません。
「ソフト・イノベーション」という、コストをかけず目立たせることが大切という主張は、前著「紫の牛」と同じですが、それを実現させるためのコツ(テクニック)を書いてあるという意味で、「紫の牛」の本の発展系といえると思います。
もっとも全体を通じてですが、活字で読むより講演会向きの内容だな、とも思いました。本だとタイトルの突飛さ(理解する困難さ)や内容のフラッシュアイデア的羅列感が気になってしまいますが、著者からの直接の講演で聞くことができたら、そういうことは気にならないでしょう。むしろ著者のパーソナリティも含めてとても面白く聞けるに違いありません。
この本も、ひょっとするとそういうつもりで読めば最後まで気持ちよく読めるのかも知れません。
☆セス・ゴーディン著、沢崎冬日訳「オマケつき!マーケティング」(2005年)ダイヤモンド社
オマケつき!マーケティング
さてそれにどんな意味があるのか? かなり奇特ですし、私は正直言って「?」なのですが(1980年代のビール容器戦争を思い出しました)、店頭ではきっと目立っていたに違いありません。目立てば、多少は売上げに貢献しますよね。実は、本書の主張がこうした「革新的な新技術があるわけではないが、誰もやらないこと」をやることにより効果的な販売活動をしていこう! というものであり、シリアルの箱入り販売というのは、その自らの実践というわけのようです。
私は、最初本屋でこの本を見たとき「オマケ」と書いてあったので、店頭プロモーションでの「おまけ」の効用か何かをテーマにした本だと思いました。たまたまそういうことに興味があったので読んでみようと思ったのですが、読み進めても「おまけ」の話などどこにも出てきません。しばらくは何をテーマにした本なのかわからなくて、頭の中に?マークがついたまま読んでいました。
まぁ、上記のような主張をする本とわかっていれば、買わなかったかも知れません。それなのに買ってしまったのは、タイトルを含めて筆者の術中にはまってしまったことなのかも知れません。
著者のセス・ゴーディン氏は「パーミションマーケティング」、「紫の牛を売れ」(以前このブログでも紹介しました)の著者として有名ですね。マーケティング界における一種のカリスマと言えます。容貌もスキンヘッドで、かなり印象的な人のようです。
ちなみにこの本はシリアルの箱で売られたと書きましたが、「紫の牛」の本は最初の1万部を牛乳パックに入れて売り、その1万部はすぐに売り切れたそうです...この本の試みは柳の下のドジョウ狙いだっだわけですね。なんかちょっと残念。
さて、こうした商品・サービスにおける「革新的技術でなくてもユニークなアイデア」、それを本書では「ソフトイノベーション」と読んでおり、この「ソフトイノベーション」こそが、現代のマーケティングにおける成功の秘訣だと言います。
「本当に成功するのは何か。それはもちろん“ソフト”な[技術ではなくアイデアを盛り込んだ]ものである。わかりやすく創造的なもの――それを生み出すには、修士号や博士号など要らない。積極性と好奇心があればいい。」(p31)
その「ソフト・イノベーション」こそが、本書で言う「オマケ」に当たります(だから実際われわれがよく目にする商品の「おまけ」とは概念が異なります)。彼の主張を要約すると、技術革新は必要だが多大なコストがかかり多くの人が実現できるものではない。一方で技術革新のない商品は販売するのにやはり多大なコミュニケーションコストを必要とする。技術革新なしで、かつコミュニケーションコストなしでも商品をブレークスルーさせる秘訣があり、それがソフト・イノベーション、つまり「オマケ」だ、ということです。さらにそれは、アイデアとそれを実現する情熱を持つ人なら誰でも実現可能なものだ、と言います。
このように言い切るところもユニークではありますが、この本のさらにユニークなところは、単にソフトイノベーションが大事という概念を主張するだけでなく、それを実際に実現するためにどうするべきかという、実践的な戦術(テクニック)により重点を置いて書いてあることです。
「するとこんな疑問がわいてくるかもしれない――このやり方がそれほど効果的で生産的で、しかもほとんど訓練も必要としないのなら、なぜ、皆そうしないのだろう? まさにそこが問題である。
なぜ、ソフト・イノベーションに励まないのか
怖いからだ。皆、どんな種類であれ、変化に抵抗するように仕組まれている。」(p58)
会社など組織体に属している場合、画期的なアイデア(ソフト・イノベーション)を実現させるためには、さまざまな抵抗が想定されます。それは会社などの組織体に属している人なら、例外なく共感することでしょう。そういう環境の中でソフト・イノベーションを実践するためのテクニックの伝授、それが本書のもう一つの大きなテーマになっています。
「私は、イノベーションを実際に生み出すような人間を『推進者(チャンピオン)』と呼んでいる。推進者(チャンピオン)がいなければ、何も生まれない。
待っていてはいけない。もう待つのはやめよう。自分の仕事、自分の会社を変身させていのならば、邪魔するものなど絶対にありはしない。本書の残りの部分は、どうやってそれを正しく行うかというテクニックを伝授するものだ。」(p69)
著者のゴーディン氏も、自身の立ち上げた会社を米Yahoo!に買収して、Yahoo!のマーケティング担当副社長に納まりましたが、その際に絶対イケルと感じた自分のアイデアを導入しようとして失敗した経験があると言います。そうした経験を含めて、組織の壁の中で推進者としてソフト・イノベーションを実現していくコツを本書の後半ではいくつも提示しています。
そのコツの中身についてまではここでは紹介しませんが、興味のある人は本書を手にとって読んでみてください。ひらめいたアイデアを組織の中で実現させていくというのは、確かに難しい問題だと思うので、そういう課題にぶつかっている人は何かヒントが得られるかも知れません。
「ソフト・イノベーション」という、コストをかけず目立たせることが大切という主張は、前著「紫の牛」と同じですが、それを実現させるためのコツ(テクニック)を書いてあるという意味で、「紫の牛」の本の発展系といえると思います。
もっとも全体を通じてですが、活字で読むより講演会向きの内容だな、とも思いました。本だとタイトルの突飛さ(理解する困難さ)や内容のフラッシュアイデア的羅列感が気になってしまいますが、著者からの直接の講演で聞くことができたら、そういうことは気にならないでしょう。むしろ著者のパーソナリティも含めてとても面白く聞けるに違いありません。
この本も、ひょっとするとそういうつもりで読めば最後まで気持ちよく読めるのかも知れません。
☆セス・ゴーディン著、沢崎冬日訳「オマケつき!マーケティング」(2005年)ダイヤモンド社

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