最近、CGM(Consumer Generated Media)と呼ばれる、消費者発の“草の根メディア”をマーケティングの領域で活用しようという動きが活発です。例えば、キャンペーンブログを立ち上げトラックバックを集めたり、アフィリエイトプログラムを用意して一般の人に商品販売のお手伝いをしてもらうことが行われています。GoogleのAdSenseなどを利用して広告媒体として活用することも一般的になりました(このサイトではやってませんが...)。
さまざまある手法の中でも、消費者の発言(書き込み)を企業が活用してきた代表的なものは「ネットコミュニティ」でしょう。企業が掲示板(BBS)などに自由に書かれる書き込みを参照したり、自らコミュニティを設けて消費者と直接つながり彼らの声を聞いたり、情報を優先的に流すチャネルとして活用してきたわけです。この手法は、日本ではパソコン通信のニフティフォーラムの時代から連綿と続く、ある意味伝統的な手法でもあります。
この本は、この「ネットコミュニティ」をマーケティングチャネルとして活用する戦略について考察した本です。事例を中心に書かれている本ではありますが、これまで何冊か紹介してきたネットコミュニティの本とは若干毛色が違っていて、大学の研究者がまとめた、やや学術的なものです。
出版年が2003年とやや古いのですが、私自身はネットコミュニティを活用したマーケティング手法の参考のために読んだものです。
さて、最初にこの本では以下の視点からネットコミュニティを捉えています。
「一口にネット・コミュニティといっても、インターネット上にはさまざまなコミュニティが存在する。そして、これらのコミュニティにおいて、製品、用途、あるいはその背後にあるライフスタイルやワークスタイルが語られる限り、企業のマーケティングとの間に関連を有する。このような関連のなかで、とりわけわれわれが注目するのは、消費者の情報源としての役割である。情報源としてのネット・コミュニティは、企業と顧客との間に、従来とはきわめて異なる関係をもたらしうる。」(p2)
この視点は重要だと思います。企業がネットコミュニティをマーケティング活動で利用する視点として従来よく言われていたは、
・直接消費者の声を聞く(新商品開発のアイデア、自社製品・他社製品に対する評価、などのため)
・企業が自身の情報を流す(広報・広告のため)
・ロイヤルティ向上(自社のファン育成のため)
などの視点でした。
これらはみな大切な視点ですが、考えてみればみな企業側の視点です。ネットコミュニティに参加する参加者(消費者)からすれば、自分の意見を企業に聞いてもらうために参加するのではなく、そこで他の参加者に向けて意見を言ったり、他の参加者の発する何らかの情報を得たりするためですよね。そしてそれが他の場所ではできないことであるがゆえに、そのコミュニティに参加するわけです。特に、他の参加者の発する情報を得るために参加する、という見方は大切で、この視点を持つと参加者の何倍もいるといわれるROM(Read Only Member)という存在の重要性を導き出します。従来あまり考慮されなかった彼らであり、書き込みをする参加者に比べコミュニティ上の情報の影響は受けにくいのかも知れませんが、量的には大きいはずで、購買活動などへの影響力は決して小さくないはずです。
こうした消費者から消費者への情報伝達活動のコミュニケーション回路は、言ってみればクチコミの世界ですが、インターネット出現前では大規模な形で存在し得なかった新しい形のコミュニケーション回路です。
ですから、こうした消費者の情報源としてのネットコミュニティをどう扱っていくべきか、という問題意識を持ったこの本は、新たなコミュニケーション回路のあり方を探るものであり、多少古い本ではありますが、現在のCGMを活用したマーケティングコミュニケーションの背景にある問題意識に通じるものがあります。
肝心の本の中身ですが、次の2つの点が面白いと思いました。
1つは「ケースメソッド」的な手法で事例を分析していること。この本で取り上げられているのは、パナソニック・レッツノート、IBM(当時)Think Pad、シャープ・ザウルス、パイオニアDVD/LD Club、ホンダドリームライダーズ、ニコンスクエア、@cosme、エコロなココロ、の8事例です。今となっては古くなってしまったものもありますが、全部の事例を通じてそれらがどんなコミュニティであるかを単に紹介するのではなく、そのコミュニティがどういう背景と経緯を持って、あるいは企業の開設したコミュニティであれば、どういう企業戦略に基づき設けられ運営されてきたのか、ということがわかるような紹介の仕方になっています。これらの事例には、結果として成功したケースも、途中で問題が生じてしまったケースもあります。しかし、背景を含めた全体が見渡せるので、もし自分が同じ立場に立たされたときどうするべきか? を考える上で恰好の教材になっています。
2つ目は、そもそもの問題意識である「消費者の購買に際しての情報源としてのコミュニティ」という視点に立って、8つの事例をそれぞれパターン分けしていることです。例えば、そのコミュニティの情報の信頼性の高さ、取り上げられている情報の包括性(話題の広さ)、内部でのコミュニケーションの濃密性、外部への開放性、などの軸を設定し、各事例を分類しています。
この本による分類結果自体は、私自身はわかりずらいと思いあまり共感できませんでしたが、もしこれから新しいネットコミュニティを設置しようと考える人がいましたら、上記のような分類軸で仮説的にどのパターンに当てはまるか、あるいは当てはまるのが適当か、考えてみるのも有効な方法だと思います。
例えば、ユーザーのファンサイトで、内部のコミュニケーションが濃密になればなるほど詳細で信頼性の高い情報が交わされる一方、話題が限定されニューカマーにとっては欲しい情報へのアクセスが難しく、コミュニティにも参加しずらい、という問題が生じる傾向があるようです。一方@cosmeのようなユーザー評価を中立の立場で紹介しているサイトの場合、広範囲な情報が集まりやすいため、誰もが自分に関心のある情報にアクセスしやすく、コミュニティへの参加も敷居が低い反面、自分の意見への共感を求めて書き込みをしても反応が鈍い、という問題が生じます。
つまりコミュニティというのはいくつかのパターンがあり、それぞれ長所短所があるようです。自分がどういう性格のコミュニティを形成したいのか、という方向性が大切ですが、それは先ほどのような軸で規定してやることである程度はっきりすると思います。そして、その方向性はサイトのつくりや投稿のルールなど参加性を規定することである程度コントロール可能なようです。
これらのことは、コミュニティ運営に乗り出そうとした時だけでなく、今運営しているネットコミュニティに問題が生じたような時などでも参考になるかもしれません。
ネット上での消費者、あるいは消費者発メディアを企業のマーケティング活動に巻き込み、コミュニケーションチャネルとして活用するのは難しいといわれます。しかしこの課題はインターネットの影響力が今以上に増し、マス広告の影響力が相対的に低下するにつれて、今後どの企業も直面する課題になるでしょう。
そのとき、本書で示されたような問題意識と視点は、いくつかのヒントを提供してくれると思いました。
☆池尾恭一編「ネットコミュニティのマーケティング戦略」(2003年)有斐閣
ネット・コミュニティのマーケティング戦略―デジタル消費社会への戦略対応
さまざまある手法の中でも、消費者の発言(書き込み)を企業が活用してきた代表的なものは「ネットコミュニティ」でしょう。企業が掲示板(BBS)などに自由に書かれる書き込みを参照したり、自らコミュニティを設けて消費者と直接つながり彼らの声を聞いたり、情報を優先的に流すチャネルとして活用してきたわけです。この手法は、日本ではパソコン通信のニフティフォーラムの時代から連綿と続く、ある意味伝統的な手法でもあります。
この本は、この「ネットコミュニティ」をマーケティングチャネルとして活用する戦略について考察した本です。事例を中心に書かれている本ではありますが、これまで何冊か紹介してきたネットコミュニティの本とは若干毛色が違っていて、大学の研究者がまとめた、やや学術的なものです。
出版年が2003年とやや古いのですが、私自身はネットコミュニティを活用したマーケティング手法の参考のために読んだものです。
さて、最初にこの本では以下の視点からネットコミュニティを捉えています。
「一口にネット・コミュニティといっても、インターネット上にはさまざまなコミュニティが存在する。そして、これらのコミュニティにおいて、製品、用途、あるいはその背後にあるライフスタイルやワークスタイルが語られる限り、企業のマーケティングとの間に関連を有する。このような関連のなかで、とりわけわれわれが注目するのは、消費者の情報源としての役割である。情報源としてのネット・コミュニティは、企業と顧客との間に、従来とはきわめて異なる関係をもたらしうる。」(p2)
この視点は重要だと思います。企業がネットコミュニティをマーケティング活動で利用する視点として従来よく言われていたは、
・直接消費者の声を聞く(新商品開発のアイデア、自社製品・他社製品に対する評価、などのため)
・企業が自身の情報を流す(広報・広告のため)
・ロイヤルティ向上(自社のファン育成のため)
などの視点でした。
これらはみな大切な視点ですが、考えてみればみな企業側の視点です。ネットコミュニティに参加する参加者(消費者)からすれば、自分の意見を企業に聞いてもらうために参加するのではなく、そこで他の参加者に向けて意見を言ったり、他の参加者の発する何らかの情報を得たりするためですよね。そしてそれが他の場所ではできないことであるがゆえに、そのコミュニティに参加するわけです。特に、他の参加者の発する情報を得るために参加する、という見方は大切で、この視点を持つと参加者の何倍もいるといわれるROM(Read Only Member)という存在の重要性を導き出します。従来あまり考慮されなかった彼らであり、書き込みをする参加者に比べコミュニティ上の情報の影響は受けにくいのかも知れませんが、量的には大きいはずで、購買活動などへの影響力は決して小さくないはずです。
こうした消費者から消費者への情報伝達活動のコミュニケーション回路は、言ってみればクチコミの世界ですが、インターネット出現前では大規模な形で存在し得なかった新しい形のコミュニケーション回路です。
ですから、こうした消費者の情報源としてのネットコミュニティをどう扱っていくべきか、という問題意識を持ったこの本は、新たなコミュニケーション回路のあり方を探るものであり、多少古い本ではありますが、現在のCGMを活用したマーケティングコミュニケーションの背景にある問題意識に通じるものがあります。
肝心の本の中身ですが、次の2つの点が面白いと思いました。
1つは「ケースメソッド」的な手法で事例を分析していること。この本で取り上げられているのは、パナソニック・レッツノート、IBM(当時)Think Pad、シャープ・ザウルス、パイオニアDVD/LD Club、ホンダドリームライダーズ、ニコンスクエア、@cosme、エコロなココロ、の8事例です。今となっては古くなってしまったものもありますが、全部の事例を通じてそれらがどんなコミュニティであるかを単に紹介するのではなく、そのコミュニティがどういう背景と経緯を持って、あるいは企業の開設したコミュニティであれば、どういう企業戦略に基づき設けられ運営されてきたのか、ということがわかるような紹介の仕方になっています。これらの事例には、結果として成功したケースも、途中で問題が生じてしまったケースもあります。しかし、背景を含めた全体が見渡せるので、もし自分が同じ立場に立たされたときどうするべきか? を考える上で恰好の教材になっています。
2つ目は、そもそもの問題意識である「消費者の購買に際しての情報源としてのコミュニティ」という視点に立って、8つの事例をそれぞれパターン分けしていることです。例えば、そのコミュニティの情報の信頼性の高さ、取り上げられている情報の包括性(話題の広さ)、内部でのコミュニケーションの濃密性、外部への開放性、などの軸を設定し、各事例を分類しています。
この本による分類結果自体は、私自身はわかりずらいと思いあまり共感できませんでしたが、もしこれから新しいネットコミュニティを設置しようと考える人がいましたら、上記のような分類軸で仮説的にどのパターンに当てはまるか、あるいは当てはまるのが適当か、考えてみるのも有効な方法だと思います。
例えば、ユーザーのファンサイトで、内部のコミュニケーションが濃密になればなるほど詳細で信頼性の高い情報が交わされる一方、話題が限定されニューカマーにとっては欲しい情報へのアクセスが難しく、コミュニティにも参加しずらい、という問題が生じる傾向があるようです。一方@cosmeのようなユーザー評価を中立の立場で紹介しているサイトの場合、広範囲な情報が集まりやすいため、誰もが自分に関心のある情報にアクセスしやすく、コミュニティへの参加も敷居が低い反面、自分の意見への共感を求めて書き込みをしても反応が鈍い、という問題が生じます。
つまりコミュニティというのはいくつかのパターンがあり、それぞれ長所短所があるようです。自分がどういう性格のコミュニティを形成したいのか、という方向性が大切ですが、それは先ほどのような軸で規定してやることである程度はっきりすると思います。そして、その方向性はサイトのつくりや投稿のルールなど参加性を規定することである程度コントロール可能なようです。
これらのことは、コミュニティ運営に乗り出そうとした時だけでなく、今運営しているネットコミュニティに問題が生じたような時などでも参考になるかもしれません。
ネット上での消費者、あるいは消費者発メディアを企業のマーケティング活動に巻き込み、コミュニケーションチャネルとして活用するのは難しいといわれます。しかしこの課題はインターネットの影響力が今以上に増し、マス広告の影響力が相対的に低下するにつれて、今後どの企業も直面する課題になるでしょう。
そのとき、本書で示されたような問題意識と視点は、いくつかのヒントを提供してくれると思いました。
☆池尾恭一編「ネットコミュニティのマーケティング戦略」(2003年)有斐閣

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