この本、広告を扱った本ですが、これまで紹介してきたものとはちょっと毛色が違います。広告に登場する金融商品がテーマであり、広告での誘い水とは裏腹なその悪徳ぶりを半ば告発している本です。普段から銀行や証券会社に対して、にがにがしく思っている人や痛い思いをしたことがある人には、溜飲が下がる本かも知れません。
「はじめに」にこんなことが書いてあります。
「日本で営業している(外資系を含めた)銀行・証券会社・保険会社の大半は、『とりあえず、騙せる客は、できるだけ騙してぼったくる』ことを、経営の基本としています。そのことを正しく認識すべきです。」(p7)
「筆者は、銀行や証券会社や保険会社などの金融機関は、歓楽街にある“風俗産業”と同じような商売のやり方をしていると思っておけば、おおむね正しいイメージで付き合うことができる、と考えています。」(p7)
冒頭から過激な本です。しかし続いて、
「聖人君主ならぬふつうの人間にとって、カネと異性に対する欲望は、判断力を狂わせる魔力をもちます。そのため、銀行や証券会社や保険会社も、風俗店も、『欲望が判断を狂わせる』という点をうまくついて商売を行えば、ビジネスに成功することができます。とりわけ大切なのは、お客になりそうは人に対して、『同じような店(あるいは金融機関)はいろいろありますけど、うちが一番いいですよ』ということをいかにアピールするか、つまり“宣伝”です」(p8)
なるほど。そういうことであれば、言い得て妙です。
「預金や投資信託などの金融商品の広告を見ていると、顧客の欲望(楽してカネを増やしたいというスケベ心)を刺激するためのテクニックは、なかなか巧妙になってきたように感じられます。(中略)本書は、金融機関による金融商品広告を取り上げ、その読み方を解説するものです。(中略)金融広告商品のウソをみつける能力がよりいっそう身につくでしょう。」(p10-13)
筆者の意図が明らかになりました。
つまりこの本は「金融商品広告」の読み方を解説したものです。ただし、取り上げられている広告(すべてが実際に出稿されていた広告を元に作った架空の広告ですが)は悪質なものが多く、利用者に対する注意喚起とそれを出稿する(つまりその商品を売っている)金融機関への批判にもなっている、という本です。ちなみにこの本で紹介されている「金融広告」は、テレビCMでよく目にする消費者金融やローンの広告ではなく、ある程度の資産を持った人が投資運用のために銀行や証券会社から購入する、外貨預金、投資信託、年金保険などの金融商品の広告です。マネー雑誌や経済新聞などに出ている「利率○○%」「運用実績△△」などをうたった商品、といえばどんなものが想像していただけると思います。
中身の大半を占める具体的広告表現の読み解き方については、金融の専門的な話なので関心に応じて読んでいただければいいと思うのですが、例えば外貨預金の高金利の表示が年利換算すると低かったり、為替手数料を考えると利回りが低かったりする商品の例などは、なるほどと思いますし、外国国債をベースにして高利回りをうたった投資信託が、実は同じ期間その国の国債を直接購入した方が利回りもいいし、手数料も不要でかえってお得ということになると、そういう商品を平気で広告している会社は、なんだろなぁという気にさせられてしまいます。
全体を通じての筆者の主張を要約すると、金融広告は文字が小さくなっているところに注意が必要。デカデカと利回りの高さをうたう商品は実は、小さい注意書きの部分に書いてあることで、それほどお得なものになっていないことが多い。なお言うと、そもそも一般消費財と異なり、広告している金融商品は、顧客にとって不利なものがもともと多いので、欲につられてそういう商品は買わないほうがいい、というようなことになると思います。
もちろん販売している金融機関は、購入者の責任で購入するわけだし購入者が儲かる場合もあるから問題はない、と主張するのでしょう。しかし、本書での筆者の主張が正確だとすると、顧客に誠実なふり(儲けさせるふり)をして実は顧客の期待を最初から裏切るつもり(最初から儲けの大部分を自分たちが取るつもり)で商品を販売する、というのは他の商品カテゴリーでは考えにくいことだし、そうした商品の広告は、広告全体の信頼性にも関わる問題です。
昔の「株や」を彷彿とさせますね。一部だとは思いますが、今でも金融機関がこんなことをしていて、彼らの高収入がこんなことによりもたらされているのかと思うと、気が滅入ります。
さて、あとがきにもこんなことが書いてあります。
「広告の使い方がうまい金融機関は、エサに引っかかる客と引っかからない客を選別するための道具(学生のクラスを分けるためのテストのようなもの)として、金融広告を活用しているように思われます。(中略)ある程度は社会的な評判を気にしている金融機関であれば、はっきりとしたウソはつかないように(ただし、知られたくないことはなるべく知らせないように)気をつけながら、客の錯覚を誘う広告を作成しています。そういった広告に引っかかる客が一定以上存在し、金融機関に利益をもたらす限り、今後もぼったくり金融商品とその広告はなくならないと思われます。」(p497)
なるほど、こういう広告の使い方は凄いですね。きっと一度“ぼったくり商品”を購入した人はリスト化されて、DMや勧誘の電話が何度も来るようになるのでしょう。いくら“ぼったくり”な商品の広告を出稿していても、世の中全般から問題の声が上がらないのは、引っかかるのが一部の人に集中しているからなのかも知れません。
知能犯は人の欲につけ込もうとしているわけです。世にうまい話はなし、と思うべきなのでしょう。
とはいえ、実際にこうした商品を買った人のその後が知りたいです。筆者やワタシへの疑問も含めて、実際にこうした金融商品買った経験のある人は是非コメントをお寄せください。
☆吉本佳生「金融広告を読め」(2005年)光文社(光文社新書)
金融広告を読め どれが当たりで、どれがハズレか
「はじめに」にこんなことが書いてあります。
「日本で営業している(外資系を含めた)銀行・証券会社・保険会社の大半は、『とりあえず、騙せる客は、できるだけ騙してぼったくる』ことを、経営の基本としています。そのことを正しく認識すべきです。」(p7)
「筆者は、銀行や証券会社や保険会社などの金融機関は、歓楽街にある“風俗産業”と同じような商売のやり方をしていると思っておけば、おおむね正しいイメージで付き合うことができる、と考えています。」(p7)
冒頭から過激な本です。しかし続いて、
「聖人君主ならぬふつうの人間にとって、カネと異性に対する欲望は、判断力を狂わせる魔力をもちます。そのため、銀行や証券会社や保険会社も、風俗店も、『欲望が判断を狂わせる』という点をうまくついて商売を行えば、ビジネスに成功することができます。とりわけ大切なのは、お客になりそうは人に対して、『同じような店(あるいは金融機関)はいろいろありますけど、うちが一番いいですよ』ということをいかにアピールするか、つまり“宣伝”です」(p8)
なるほど。そういうことであれば、言い得て妙です。
「預金や投資信託などの金融商品の広告を見ていると、顧客の欲望(楽してカネを増やしたいというスケベ心)を刺激するためのテクニックは、なかなか巧妙になってきたように感じられます。(中略)本書は、金融機関による金融商品広告を取り上げ、その読み方を解説するものです。(中略)金融広告商品のウソをみつける能力がよりいっそう身につくでしょう。」(p10-13)
筆者の意図が明らかになりました。
つまりこの本は「金融商品広告」の読み方を解説したものです。ただし、取り上げられている広告(すべてが実際に出稿されていた広告を元に作った架空の広告ですが)は悪質なものが多く、利用者に対する注意喚起とそれを出稿する(つまりその商品を売っている)金融機関への批判にもなっている、という本です。ちなみにこの本で紹介されている「金融広告」は、テレビCMでよく目にする消費者金融やローンの広告ではなく、ある程度の資産を持った人が投資運用のために銀行や証券会社から購入する、外貨預金、投資信託、年金保険などの金融商品の広告です。マネー雑誌や経済新聞などに出ている「利率○○%」「運用実績△△」などをうたった商品、といえばどんなものが想像していただけると思います。
中身の大半を占める具体的広告表現の読み解き方については、金融の専門的な話なので関心に応じて読んでいただければいいと思うのですが、例えば外貨預金の高金利の表示が年利換算すると低かったり、為替手数料を考えると利回りが低かったりする商品の例などは、なるほどと思いますし、外国国債をベースにして高利回りをうたった投資信託が、実は同じ期間その国の国債を直接購入した方が利回りもいいし、手数料も不要でかえってお得ということになると、そういう商品を平気で広告している会社は、なんだろなぁという気にさせられてしまいます。
全体を通じての筆者の主張を要約すると、金融広告は文字が小さくなっているところに注意が必要。デカデカと利回りの高さをうたう商品は実は、小さい注意書きの部分に書いてあることで、それほどお得なものになっていないことが多い。なお言うと、そもそも一般消費財と異なり、広告している金融商品は、顧客にとって不利なものがもともと多いので、欲につられてそういう商品は買わないほうがいい、というようなことになると思います。
もちろん販売している金融機関は、購入者の責任で購入するわけだし購入者が儲かる場合もあるから問題はない、と主張するのでしょう。しかし、本書での筆者の主張が正確だとすると、顧客に誠実なふり(儲けさせるふり)をして実は顧客の期待を最初から裏切るつもり(最初から儲けの大部分を自分たちが取るつもり)で商品を販売する、というのは他の商品カテゴリーでは考えにくいことだし、そうした商品の広告は、広告全体の信頼性にも関わる問題です。
昔の「株や」を彷彿とさせますね。一部だとは思いますが、今でも金融機関がこんなことをしていて、彼らの高収入がこんなことによりもたらされているのかと思うと、気が滅入ります。
さて、あとがきにもこんなことが書いてあります。
「広告の使い方がうまい金融機関は、エサに引っかかる客と引っかからない客を選別するための道具(学生のクラスを分けるためのテストのようなもの)として、金融広告を活用しているように思われます。(中略)ある程度は社会的な評判を気にしている金融機関であれば、はっきりとしたウソはつかないように(ただし、知られたくないことはなるべく知らせないように)気をつけながら、客の錯覚を誘う広告を作成しています。そういった広告に引っかかる客が一定以上存在し、金融機関に利益をもたらす限り、今後もぼったくり金融商品とその広告はなくならないと思われます。」(p497)
なるほど、こういう広告の使い方は凄いですね。きっと一度“ぼったくり商品”を購入した人はリスト化されて、DMや勧誘の電話が何度も来るようになるのでしょう。いくら“ぼったくり”な商品の広告を出稿していても、世の中全般から問題の声が上がらないのは、引っかかるのが一部の人に集中しているからなのかも知れません。
知能犯は人の欲につけ込もうとしているわけです。世にうまい話はなし、と思うべきなのでしょう。
とはいえ、実際にこうした商品を買った人のその後が知りたいです。筆者やワタシへの疑問も含めて、実際にこうした金融商品買った経験のある人は是非コメントをお寄せください。
☆吉本佳生「金融広告を読め」(2005年)光文社(光文社新書)

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