最近はやりの「コンテンツ」ですが(このブログでも以前「コンテンツマーケティング」という本を取り上げました)、ひと口に「コンテンツ」といってもいろいろな側面があります。一般的には無形の創作物(映画・音楽・アニメなど)がイメージされると思いますが、同時に複雑な権利関係が絡み合った扱いに細心の注意を必要とする著作物、という側面も持っています。
 今年の春ライブドアによるフジテレビの、そして最近(2005年10月)では楽天によるTBSの買収・経営統合問題が話題になりました。ポータルサイトを運営する企業にとって、放送局が制作・保有するコンテンツが、サイト利用者を増加させ、収益を拡大させるものとして魅力的なものになっているに違いありません。しかし、彼らが常に主張する「IT(通信)と放送の融合」というコンセプトに対しては、業界の多くの人が冷ややかに見ていたのも事実です。それは放送コンテンツ、特に過去のものは権利関係が複雑で、単純にインターネットに乗せられるようなものではない、ということがわかっていたからでした。

 昨今のように広告ビジネスの中でコンテンツを扱うシーンが増加して来るにつれ、その著作物としての法的側面に対してより注意深く対応することが求められてくるでしょう。ましてやコンテンツがデジタル化され「One Source Multi-Use」と呼ばれるような、インターネットを始めとしたさまざまなメディア展開が技術的に可能になって来ている中では、法的に何が出来てて何が出来ないかを知り、将来起き得るあらゆるケースを想定して事前に契約を取り交わしておくことは、自らのクライアントや、己自身を守る上でもとても重要だと言えます。もともと「広告マン」と呼ばれる人の中には、法律など難しい話はチョット苦手(^^; ...というような人が少なくないと思います。しかし、不注意にコンテンツを扱い「すいませんでした。何も知りませんでした...」ではすまない時代です。この分野においては無知であることは罪であるのです。

 今回紹介する本は、こうしたコンテンツビジネスにまつわるさまざまな法的な問題について、「著作権」(著作権法)を中心に据えながら、その概念や、実務上の問題点と対応法などを、実際の判例やアメリカのケースなどを通じてわかりやすく解説した本です。具体的には、著作者の問題、著作隣接権の問題、二次的著作物の問題、放映権や頒布権の問題、利用上の問題、海外利用の問題、保護期間の問題...などで、コンテンツビジネスに関して法的に問題になりやすい諸問題が網羅されていると言えそうです。おまけに、その取り上げられている判例が、宇宙戦艦ヤマト、キャンディキャンディ、ウルトラマン、ミッキーマウスなどについて争われた裁判のケースだったりするので、とても親しみやすく、そんな裁判があったのか!という意味で興味深くも読める本です。
 内容自体は抽象的・専門的な部分が少なくないですが、コンテンツビジネスにおける著作権のような世の中的にホットな話題を、一般の人でも興味を持って読めるように書き下ろされた本という意味では画期的であるし、意義深いと思いました。

 著者の八代英輝氏は、TBS系列日曜朝の番組「サンデージャポン」レギュラーメンバーのイケメン弁護士として知っている人も多いと思います(私も番組の中の紹介でこの本を知りました)。元判事で、日本の他にニューヨーク州の弁護士資格を持ち、こうしたコンテンツビジネス領域を中心に日米を股にかけて仕事をしている、と番組では紹介されていました。

 ざっとこんな感じの本なのですが、個人的に興味を引かれたのは、「第4章 コンテンツ資金調達の問題」でした。これは最近の不動産における証券化ビジネス同様、将来コンテンツから見込める収入に基づいてコンテンツを証券化し、広く投資家に販売することで、資産の流動化や資金調達をするというビジネスモデルです。
 広告代理店の収益環境が、コミッションビジネスの限界とともに厳しくなりつつあるという話は、以前コンテンツビジネスに触れた時もしました。広告代理店としては収益源の多元化というのが、どの代理店でも喫緊の課題だと思うのですが、こうした金融ビジネスに取り組んでみるのも面白いのではないかなあと思います。既に日本でもいくつも事例があるようですが(例えば、「SHINOBI」「北斗の拳」の映画ファンド、
アイドルファンドなどが実際に登場しています)、過去のコンテンツ(古いアニメや、映画など)についても、その財産権を証券化できたら、どこかに眠っていたような遊休資産が一気に宝の山に変わり、ちょっとエキサイティングです。もっとも今お金を生まないものが、証券にしたからといって売れるわけないかも知れませんが(笑)。

 ただコンテンツの証券化を紹介したこの章、そのビジネススキームのメリットもいろいろ紹介されていて、本当に興味深いものではあるのですが、全体の他の章に比べると、何だかとても肩に力の入っている感じを受けました。「証券化の際の法律相談は、是非私に!」ということなのかな? 著者は個人的に興味があるのでしょうね。それはそれでいいことでしょうが。

 最後にもう一つ。この本で「ブログの著作権」について興味深い指摘がありました。以前この話題もこのブログで取り上げましたが、その時は、ライブドアがブログの口コミ情報をネット関連企業の「ガーラ」に独占的に提供するという発表に対して、ライブドアでブログを書いているワタシとして「ブログの著作権はどうなっているのか??」と文句を言ったわけでした。しかし、この本によると、

 「2004年11月12日、ポータルサイト大手のライブドアが、自社が運営する『livedoor Blog』の利用規約について、コメントやトラックバックについてはライブドアがユーザーへの通知なしに無償で利用できること、ユーザーはライブドアに対して著作権等を行使しないことを内容とする改正を施し、多くのユーザーからひんしゅくを買ったのは記憶に新しいところです。」(p88)

 う〜ん、そうだったのか。そんなこと知らなかったし、そんな規約は読んだ覚えはありませんが...。そんなこと知ってたら、ライブドアではブログを始めなかったかも知りませんね。

 まさに、無知は罪です。

☆八代英輝著「コンテンツビジネス・マネジメント」(2005年)東洋経済新報社

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