先日衆議院総選挙が終わりましたが、最近の選挙では、PR会社の介在がよく話題になります。今回は自民党がプラップジャパンを、民主党がFHJ(フライシュマン・ヒラード・ジャパン)をそれぞれ採用し、PR活動に当たらせたとされています。プラップジャパンは日本のPR業界の大手で、FHJはオムニコム系のPR会社Fleishman-Hillardの日本法人にあたります。両党がそれぞれPR会社を使ったので、プラップvsフライシュマンの代理戦争のように言われました。
 選挙結果からすると、今回はプラップジャパンの圧勝ということになるのかもしれませんが、民主党側のFHJという会社、実は前回(2003年)の衆議院選では「マニフェスト」という概念を導入して民主党の躍進に一役買った実力会社でもあります。

 そのFHJが書いた著作を見つけたので読んでみました。それがこの本です。

 前々回に同じPRがテーマの本(「クチコミで動かす」)を紹介しましたが、これがPR活動の中でもメディアリレーションのHow toに特化した、いわば「戦術論」だとすると、これはPR戦略を真正面から取り上げた「戦略論」に当ります。しかしながら、内容は平易(簡単ということではなく、分かりやすい)で、ケーススタディやイラストなども効果的に取り入れられており、読み終わる頃にはPR(ビジネスコミュニケーション)という領域の可能性や面白さを感じることができるのではないかと思います。

 さて、先ほど「PR戦略論」の本と紹介しましたが、そういう言い方は間違いではないにしろ、ひょっとしたら本書の狙いを少しはずしているのかも知れません。私は読み始めたとき、タイトルにPRの文字がないのを不思議に思い、読者に対して不親切だなだなと考えていました。しかし読み終えて内容を反芻するうちに感じたことがありました。それは、「これはPRの本だが、狙いはPRの説明ではない。『コミュニケーション』というサービスをいかにマーケティングするのか、という課題を説明した本だ」ということでした。

 通常、広告業で言うところの「コミュニケーション戦略」とは、マーケティングの4PのPromotionに属する分野を指します。つまり、ある商品・サービスを知らしめ、購買意向を喚起し、売上げを伸ばすための手段です。しかし、この本で言っているのは、「コミュニケーションサービス」というもの自体が商品であり、卓越した「コミュニケーションサービス」提供のためには、それ自体をマーケティングする必要がある、ということのようです。そのために、コミュニケーションサービス自体の4P的なマーケティングミックスも考えていく必要があるということも言っています。

 実際、この本の冒頭の部分では「コミュニケーション」の定義から始まっています。

 「コミュニケーションとは本来、メッセージをぶつけることによって、相手に影響を与えて動かす行為だ。影響を与えるつもりがなかったり、影響を与える仕組みになっていないコミュニケーションは、コミュニケーションとは言えない。」(p14)
 「ふだん私たちが行っているコミュニケーションというのは、次の四つの要素から成立っている。.咼献優垢量榲、対象となる相手、H信するメッセージ、ぅ瓮奪察璽犬瞭呂永、である。これらの要素のいづれかが欠けても、コミュニケーションは成立しない。」(p14)


 こうした捉え方は、通常のコミュニケーション論などの捉え方とは大きく異なっています。あくまで、ビジネスとしての「コミュニケーションサービス」が前提にあるからだと思います。そして、上に書かれているような 銑い陵彖任4Pにあたるものなのかも知れません、

 こうした視点はなるほどな、と考えされられました。広告代理店でも、普段からこうした視点でものを考えているわけではありますが、ここまで意識的に「コミュニケーション」ってなんだっけ? ということを考えることはないと思います。
 マーケティング4Pの1つとしての「コミュニケーション」の捉え方よりずっと深味のあるもので、われわれもこうした視点を考えてみる必要があると思います。「商品としてのコミュニケーションサービスの質を高める」という考え方に立てば、優れた広告表現を作って露出すればいいということではなくなりますし、近年のホリスティックなコミュニケーションサービスの考え方の理論的根拠にもなりえます。

 こうした説明が冒頭部分にありそこだけでも面白いと思ったのですが、読み進めていくと、さまざまなコミュニケーションの手法が紹介されていて、それの一つ一つが興味深いものになっています。例えば中立的「第3者」使うことでメッセージに信頼性を持たせるような方法(単なる新聞・雑誌での記事化だけでなく、NPOを使ったりする事例があるので注目です!)や、商品が解決する「問題」を顕在化させ、商品の注目度と価値を高める手法――例えば洗濯物にはばい菌がたくさん付着していることを世の中に浸透させることで、除菌成分入り洗剤の価値を高めようというような方法(イシューブランディング)――というような方法論が事例と共にバッチリ紹介されています。
 本書の帯に「すべての経営者、マーケター、広報・宣伝担当者、必読!」とありますが、決して大げさではないと思いました。少なくとも、ビジネスコミュニケーションサービスの領域で「プロ」であろうとする人にとっては、読んでおいて損はない本だと思いました。

 さてまた最初の選挙の話に戻りますが、週刊誌などでは、「外資系PR会社への丸投げ」が民主党の敗因の一つとして叩かれていました。しかし、それはちょっとPR会社がかわいそうだと思います。今回はどう考えても岡田前党首の民主党執行部の「コミュニケーションセンスのなさ」だったのではないでしょうか。まず、一度公にした「もっと大事なことがある」という選挙キャンペーンを、公示直前に「日本をあきらめない」という言葉に党首の判断で替えた、というあたりからして、党内の意思疎通の悪さと党首の頑迷さが見て取れます。まさに新聞のステレオタイプの言葉を借りれば「国民不在」なわけです。改善(?)したはずの、「日本をあきらめない」という言葉も意味不明だし、オンエアされたCMもかなり???でした。
 今回の選挙は小泉首相の話題づくりばかり目立ったようでしたが、それ以上に、私は民主党の不甲斐なさを感じた選挙でした。
 民主党の場合、PR会社がコントロールしようと思っても、言うこと聞いてもらえなかったのが実情だったのかなー、と思っているのですが、どうなのでしょう?

☆玉木剛、本田哲也著「影響力」(2004年)ダイヤモンド社

影響力小さな情報から「ブーム」を生み出す7つのマーケティング発想



2006年6月3日追記

 4月に就任した民主党の小沢一郎党首は、民主党とフライシュマン・ヒラード・ジャパンとの契約を打ち切ったそうです(FujiSankei Business i. 2006/4/8)。昨年の総選挙での敗戦が理由のようです。