このブログで何度も苦言を呈して来たことがあります。それは「邦訳書のタイトルが原著タイトルと全く異なるものがある」ということの問題です。意訳程度なら許容できますが、過度な売らんがため精神や特別利害関係により、全く違ったものになることがあり、それは日本の読者に対して失礼だし、やるべきでないという主張です。
この本タイトルは「クチコミで動かす」です。私はクチコミに関心があるものですから、つい買ってしまいました。しかし中身はPRの本であり、それもPRの中でも比較的特殊なMedia Releationのノウハウを紹介した本です。「まえがき」こそクチコミの拡大にPRが寄与するという話をしていますが、その他はクチコミの話題など、これっぽっちも出てきません。単に「クチコミを流行らせたければPRが大事→だから以下PRのやり方説明」というロジック展開の基に、PRの話、それも記者にどうアプローチするべきかという話が延々と続いているだけなのです。例えば、PRされたものがすべてクチコミに乗るわけでもない、という事実もあるわけで、その辺りの問題意識についてはまるきり触れられていません。
タイトルだけでなく、帯の宣伝文句にまでこう書いてあります。
「バズ(クチコミ)を効果的に広めて、あなたの商品を大ヒットさせる! 米国流『バズマーケティング』の実践的入門書。」(帯より)
まあ、中身とタイトルの不一致は、原題を見ると納得できます。"Full Frontal PR"・・・「PRの最前線」ぐらいの意味でしょうか? PRに関心がないわけではないので最後まで読みましたが、クチコミの本かと思って買った人は裏切られた気持ちになるでしょう。ちょっと待ってくれよ! という気になります。
ところが、文中にはこんな記述もあります。PRマンが記者に接すべき態度を述べたところです。
「自社の話題をより魅力的に見せるために、不正確であったり、誤解を招くような情報を提供することは、深刻な問題を自ら招いているようなものだ。うそ、誇張、あいまいな情報はすべて必ず露呈する。活字媒体に載ったことであれば、とくにそうだ。(中略)正直に話をしなければ、あなたが不誠実な人であるという評判を人づてに聞くことになるだろう。このことは声を大にして強調しておきたい。そうしないと、何もかもが台なしになってしまうからだ。」(p55) *太字筆者
邦訳書のエディターにはこの一節を見直して欲しいと思いました。
この本の価値の「何もかもが台なしに」なりかねません。
さて、とはいうもののPR、特にあまり触れられることのなかったMedia Relationのノウハウを書いた本としては中身の充実した本といえます。読者の中にはPR=Public Relationということで、何となくカッコイイ印象をお持ちの人も少なくないと思います。そこでは密かな戦略性が重視され、流行を作り出したり世論をコントロールする黒幕のようなものかなぁ、というイメージがあるのではないでしょうか? しかし、目標はそうであったとしても、実際やっていることはイメージとは異なり、とーっても泥臭い、Media Relation=つまり記者と仲良くなっていかに自分に都合のいい記事を書いてもらうのか、という活動の日々の積み重ねなわけです(私の知る限り)。これはアメリカでも日本でも同じような気がします。
著者は、臆することなく「泥臭い仕事のためのノウハウ」を懇切丁寧に書き記し、結果として「PRにまつわる神秘のベール」剥ぎ取りに一役買っています。
ペンを持っているだけで自分が偉いと思ってしまう類の人種が多い「記者」(特に新聞記者)たちの、ご機嫌を損ねないようにお付き合いしていくのがPRの仕事かぁ、と思うと幻滅してしまいますが、著者は「腐らずうまくやれ、それが仕事だから」と励まして(?)もいるようにも感じられます。
クチコミに関心がある人にとっては裏切られた気がすると思いますが、PRに実際携わっている人、PRに関心がある人には役に立つマニュアル集だと言えるかと思います。
☆リチャード・レアマー、マイケル・プリチネージョ著、高橋眞人訳「クチコミで動かす」(2005年)PHP研究所
クチコミで動かす!―思い通りにウワサを生み出すPR術
この本タイトルは「クチコミで動かす」です。私はクチコミに関心があるものですから、つい買ってしまいました。しかし中身はPRの本であり、それもPRの中でも比較的特殊なMedia Releationのノウハウを紹介した本です。「まえがき」こそクチコミの拡大にPRが寄与するという話をしていますが、その他はクチコミの話題など、これっぽっちも出てきません。単に「クチコミを流行らせたければPRが大事→だから以下PRのやり方説明」というロジック展開の基に、PRの話、それも記者にどうアプローチするべきかという話が延々と続いているだけなのです。例えば、PRされたものがすべてクチコミに乗るわけでもない、という事実もあるわけで、その辺りの問題意識についてはまるきり触れられていません。
タイトルだけでなく、帯の宣伝文句にまでこう書いてあります。
「バズ(クチコミ)を効果的に広めて、あなたの商品を大ヒットさせる! 米国流『バズマーケティング』の実践的入門書。」(帯より)
まあ、中身とタイトルの不一致は、原題を見ると納得できます。"Full Frontal PR"・・・「PRの最前線」ぐらいの意味でしょうか? PRに関心がないわけではないので最後まで読みましたが、クチコミの本かと思って買った人は裏切られた気持ちになるでしょう。ちょっと待ってくれよ! という気になります。
ところが、文中にはこんな記述もあります。PRマンが記者に接すべき態度を述べたところです。
「自社の話題をより魅力的に見せるために、不正確であったり、誤解を招くような情報を提供することは、深刻な問題を自ら招いているようなものだ。うそ、誇張、あいまいな情報はすべて必ず露呈する。活字媒体に載ったことであれば、とくにそうだ。(中略)正直に話をしなければ、あなたが不誠実な人であるという評判を人づてに聞くことになるだろう。このことは声を大にして強調しておきたい。そうしないと、何もかもが台なしになってしまうからだ。」(p55) *太字筆者
邦訳書のエディターにはこの一節を見直して欲しいと思いました。
この本の価値の「何もかもが台なしに」なりかねません。
さて、とはいうもののPR、特にあまり触れられることのなかったMedia Relationのノウハウを書いた本としては中身の充実した本といえます。読者の中にはPR=Public Relationということで、何となくカッコイイ印象をお持ちの人も少なくないと思います。そこでは密かな戦略性が重視され、流行を作り出したり世論をコントロールする黒幕のようなものかなぁ、というイメージがあるのではないでしょうか? しかし、目標はそうであったとしても、実際やっていることはイメージとは異なり、とーっても泥臭い、Media Relation=つまり記者と仲良くなっていかに自分に都合のいい記事を書いてもらうのか、という活動の日々の積み重ねなわけです(私の知る限り)。これはアメリカでも日本でも同じような気がします。
著者は、臆することなく「泥臭い仕事のためのノウハウ」を懇切丁寧に書き記し、結果として「PRにまつわる神秘のベール」剥ぎ取りに一役買っています。
ペンを持っているだけで自分が偉いと思ってしまう類の人種が多い「記者」(特に新聞記者)たちの、ご機嫌を損ねないようにお付き合いしていくのがPRの仕事かぁ、と思うと幻滅してしまいますが、著者は「腐らずうまくやれ、それが仕事だから」と励まして(?)もいるようにも感じられます。
クチコミに関心がある人にとっては裏切られた気がすると思いますが、PRに実際携わっている人、PRに関心がある人には役に立つマニュアル集だと言えるかと思います。
☆リチャード・レアマー、マイケル・プリチネージョ著、高橋眞人訳「クチコミで動かす」(2005年)PHP研究所

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