今から10年以上前、「Hな企画書」なる冊子が業界中に出回っていました。それは電通の作成した社内資料で、当時生活総研を擁し業界内で存在感を増大させていた博報堂に対し、危機感を感じた電通が社内で分析チームを立ち上げ博報堂のコミュニケーション戦略企画書を分析した、というものでした。それを読むと、分析されている博報堂の企画書のロジックの進め方はとてもクリアで、これをみんながやっているとしたらスゲーなーと思ったものです。もっとも博報堂の企画書を的確に分析してみせた電通の分析力も見事でしたが。

 この本を読んで、その「Hな企画書」を思い出しました。
 著者の山本直人氏は現在フリーのようですが、元は博報堂に在籍していた方です。もともとコピーライター出身とのことですが、研究開発セクションや博報堂ブランドコンサル在籍中に、ブランドやリサーチに関する発表をいろいろな本や雑誌にしており、私はそこで名前を知りました。後に山本氏は人事局に移り、そこで非常にユニークな新人研修をしていた、と聞いています。制作、マーケ・研究開発、人事と渡り歩いた異能の人ですね。

 その山本氏が、それはそれは懇切丁寧にプランニングの進め方(マニュアル?)を書いています。これは、われわれの業界、そしてプランニングという職種にいる人にとっては、本当に貴重な本と言えます。こんなリアリティのある本は過去見たことがありません。きっとご自分のマーケ的な経験と、人事で研修を担当していたときの経験とが両方生かされているのだと思いますから、その意味でも稀有な本です。

 中身は、情報収集の視点から、プランニングの進め方、陥りやすい注意点、最後には企画書の書き方、プレゼンの仕方まで書いてあり、本当に至れりつくせりです。
 どこをとってもなるほどと思えますが、特に印象的な内容を2つ取り出します。

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 デモグラフィック/サイコグラフィック/消費行動
 

 「いくら絵に描いたようなターゲットであっても、売ろうとしている商品カテゴリーについて行動がわからなくては本当のターゲットにはならない。(p92-93)」

 ターゲットセグメントをする際、デモグラでは切れないといわれて久しいです。しかいサイコグラフィックでも意外と切れません。なぜなら、人は場所や機会に合わせて、いろいろな「心の顔」を見せるので、アンケートなどでの価値観を聞いても、今やあまり意味がないのです。しかし「行動」というのは比較的安定しており、行動を分析することで実際の施策に結び付けやすい、というメリットもあります。以前このブログでも触れましたが、WEB広告などで行われている「行動ターゲッティング」がクリック率を高めるのに有効な方法論だという認識も広まっています。「消費行動」は、これからの時代のマーケティングでは重要な視点なのです。ちなみに、本書にあるように(p95-100)、消費行動を基準にしてセグメントし、ターゲットイメージをデモグラやサイコグラフィック情報で描いてやると、とてもわかりやすいですね。

∪験莠團ぅ鵐汽ぅ箸らコンセプトを発見する

 新製品開発の仕事の依頼が代理店に舞い込んで来ることがたまにあります。特に菓子や飲料など、新商品の投入が活発で、商品サイクルの短いようなものが多いようで、それこそ代理店の知恵も借りたいということでしょう。
 新商品のコンセプトを開発する際に、シーズ発想とニーズ発想という2つの視点があります。シーズ発想とは何らかの新しい技術を中核にしてコンセプトを開発することで、ニーズ発想とは現在の消費者が漠然と求めていることをベースにコンセプトを開発するものです。広告代理店には後者のニーズ発想でのコンセプト開発を期待されることが多いのですが、これが意外と容易ではありません。どんなに調査しても、ありきたりのコンセプトか荒唐無稽のコンセプトかのどちらかになりがちなのです。
 しかし、この本ではそれの進め方の例が紹介されています。飲料のコンセプト開発なのですが、「飲み物へのニーズ」から発想するのではなく、「カフェに期待するもの」という視点から、例えば「ありのままを味わう」「悩み、考える/何かを作り出す」「自分のペースを取り戻す」など5つの概念を引き出し、それを「あるがままに」「生まれる」「鎮まる」などシンプルな言葉に置き換えて、その言葉にマッチする機能は何で、緑茶なら何で...というようにアイデアを整理して行っています。(わかりにくかった人は、本を見てください。p161-165)。このメソッドは、明快です。明日からでも使えそうです(笑)。

 さてこの本ですが、私は面白いと思いましたが、これ、実際の経験がないと価値はわからないかも知れません。細かいところにさりげなく書いてある重要な指摘を、10年前の私が読んだら気がつかなかったでしょう。

 マニュアル本て、本当に必要としている人には、意外と使えなかったりするのですよね。送り手の期待するレベルと受け手のレベルが違いすぎて。
 うっかり読み飛ばすともったいない部分が多々ありますから、これから読む人は心して読んだ方がいいかも知れません。。。

☆山本直人「マーケティング企画技術 マーケティング・マインド養成講座」(2005年)東洋経済新報社

マーケティング企画技術―マーケティング・マインド養成講座