今回は、広告業界に籍を置いていれば誰でも一度は聞いたことがある、わかったようでわからない言葉、「インサイト」をテーマにした本です。
本の紹介の前に「インサイト」について簡単に説明したいと思います。
「コンシューマーインサイト」とも呼ばれ、直訳すると「(消費者)洞察」となります。欧米では以前より普通に使われていたようですが、日本では90年代末ごろから広がってきた言葉です。消費者への商品の購入を促すための、消費者に関する発見点で、消費者の「心のツボ」などと呼ばれています(押すと反応する、という意味ですね)。
「心のツボ」と言われても「???」ですが、実はこの言葉定義が曖昧で、人により言う内容が異なっている状態です。輸入語を曖昧なまま使うのは、広告業界だけではないでしょうが、日本人の悪いところです。ちなみに、私は「ある行動を起こす隠れた(無意識的な)動機」と理解するようにしています。モノを買う行為だったら、ある特定のモノを買う表に出ない動機ですね。(無意識にアプローチすることについては以前紹介した「心脳マーケティング」という本を参照してください。)
広告業界で「インサイト」が注目されるのは、インサイトが優れた広告コミュニケーションに直結するからです。
インサイト発見に携わる職種の人を、欧米では「アカウントプランナー」と呼んでおり、営業、制作と共に広告開発のための重要な職種と考えられています。欧米でアカウントプランナーがインサイトを発見して優れた広告キャンペーンを生み出したケースが、有名な"Got Milk"キャンペーン(調査対象者にミルクを2週間飲まずに過ごすよう依頼し反応を見たところ、クッキーやシリアルがおいしく食べられないなどの意見が出たことから、ミルクはそうしたものをおいしく食べるのに不可欠の飲み物だったというインサイトを基にしたアメリカのキャンペーン)を始め、いくつも知られています。この本の中でも、そうした例が紹介されています。ちなみに日本では伝統的に「マーケ」と呼ばれていた職種がアカウントプランナーに近いとされています。
それだけではなくインサイトが注目される理由は、あまりこういう言い方をする人はいないのですが、プランナーにとっては、これを発見する瞬間が「生理的快感」であることです。私も「マーケ」と呼ばれる職種の経験が長いのですが、インサイトを発見すると何かもやもやしていたものが急に晴れてすべての見通しが立つような気がするものです。以前私のところに会社訪問に来た学生に、「あなたが仕事をしていて一番面白いと思うときはどんな時ですか?」と尋ねられ、「コンペで勝利するのもいい気持ちだけど、消費者の何か大事なものを見つけ出して、ああこれで行けそうだ!という企画の見通しが立った時」と答えたことがあります。発見したインサイトが真実かどうかは検証できるものではないので、一種のひらめきなのですが、何か自信に満ち溢れる瞬間となります。詰まっていたものが取れてとてもすっきりする感じです。
さて、前置きが長くなりましたが、この「インサイト」についてなぜそれが重要なのか、どうしたら発見できるのか、また著者が実際に携わったケースなどについて書かれているのがこの本です。特に筆者が直接関わった事例(ハーゲンダッツとシックカミソリのケース)は、こんな風にしてインサイトが実際の広告キャンペーンに生きてくるんだ、ということが分かって面白いと思います。
最後に、本題からまたまたそれますが、私がこの本を読んでなるほど!と納得した部分を抜き出します。いわゆる「おもしろいCM」についての見解で、昔から「CMが面白くても商品が売れないケースがいっぱいあるから、面白CMは悪だ」という論調がありまが、それに対して、
たしかに「おもしろい」だけでは「売れない」だろう。ただ、いまどきの消費者は、製品とまったく結びついていないような、単なる受け狙いの広告を「おもしろい」とは感じなくなっている。何を言いたいのかわからない、独りよがりの広告と感じてしまう。単なるイメージ広告に関心を持たないのと同じである。
製品やベネフィットをうまく伝えるからこそ「おもしろい」と感じるのだ。つまり、消費者が「おもしろい」と感じる広告は「売れる」広告なのだ。(p189)
なるほど。独特の解釈です。作り手の考える面白さと受けての考える面白さは分ける必要があるということかも知れませんが、CMはエンタテインメントの側面もありますから、それを忘れてはいけないのだと思います。
☆桶谷功「インサイト」(2005年)ダイヤモンド社
インサイト
本の紹介の前に「インサイト」について簡単に説明したいと思います。
「コンシューマーインサイト」とも呼ばれ、直訳すると「(消費者)洞察」となります。欧米では以前より普通に使われていたようですが、日本では90年代末ごろから広がってきた言葉です。消費者への商品の購入を促すための、消費者に関する発見点で、消費者の「心のツボ」などと呼ばれています(押すと反応する、という意味ですね)。
「心のツボ」と言われても「???」ですが、実はこの言葉定義が曖昧で、人により言う内容が異なっている状態です。輸入語を曖昧なまま使うのは、広告業界だけではないでしょうが、日本人の悪いところです。ちなみに、私は「ある行動を起こす隠れた(無意識的な)動機」と理解するようにしています。モノを買う行為だったら、ある特定のモノを買う表に出ない動機ですね。(無意識にアプローチすることについては以前紹介した「心脳マーケティング」という本を参照してください。)
広告業界で「インサイト」が注目されるのは、インサイトが優れた広告コミュニケーションに直結するからです。
インサイト発見に携わる職種の人を、欧米では「アカウントプランナー」と呼んでおり、営業、制作と共に広告開発のための重要な職種と考えられています。欧米でアカウントプランナーがインサイトを発見して優れた広告キャンペーンを生み出したケースが、有名な"Got Milk"キャンペーン(調査対象者にミルクを2週間飲まずに過ごすよう依頼し反応を見たところ、クッキーやシリアルがおいしく食べられないなどの意見が出たことから、ミルクはそうしたものをおいしく食べるのに不可欠の飲み物だったというインサイトを基にしたアメリカのキャンペーン)を始め、いくつも知られています。この本の中でも、そうした例が紹介されています。ちなみに日本では伝統的に「マーケ」と呼ばれていた職種がアカウントプランナーに近いとされています。
それだけではなくインサイトが注目される理由は、あまりこういう言い方をする人はいないのですが、プランナーにとっては、これを発見する瞬間が「生理的快感」であることです。私も「マーケ」と呼ばれる職種の経験が長いのですが、インサイトを発見すると何かもやもやしていたものが急に晴れてすべての見通しが立つような気がするものです。以前私のところに会社訪問に来た学生に、「あなたが仕事をしていて一番面白いと思うときはどんな時ですか?」と尋ねられ、「コンペで勝利するのもいい気持ちだけど、消費者の何か大事なものを見つけ出して、ああこれで行けそうだ!という企画の見通しが立った時」と答えたことがあります。発見したインサイトが真実かどうかは検証できるものではないので、一種のひらめきなのですが、何か自信に満ち溢れる瞬間となります。詰まっていたものが取れてとてもすっきりする感じです。
さて、前置きが長くなりましたが、この「インサイト」についてなぜそれが重要なのか、どうしたら発見できるのか、また著者が実際に携わったケースなどについて書かれているのがこの本です。特に筆者が直接関わった事例(ハーゲンダッツとシックカミソリのケース)は、こんな風にしてインサイトが実際の広告キャンペーンに生きてくるんだ、ということが分かって面白いと思います。
最後に、本題からまたまたそれますが、私がこの本を読んでなるほど!と納得した部分を抜き出します。いわゆる「おもしろいCM」についての見解で、昔から「CMが面白くても商品が売れないケースがいっぱいあるから、面白CMは悪だ」という論調がありまが、それに対して、
たしかに「おもしろい」だけでは「売れない」だろう。ただ、いまどきの消費者は、製品とまったく結びついていないような、単なる受け狙いの広告を「おもしろい」とは感じなくなっている。何を言いたいのかわからない、独りよがりの広告と感じてしまう。単なるイメージ広告に関心を持たないのと同じである。
製品やベネフィットをうまく伝えるからこそ「おもしろい」と感じるのだ。つまり、消費者が「おもしろい」と感じる広告は「売れる」広告なのだ。(p189)
なるほど。独特の解釈です。作り手の考える面白さと受けての考える面白さは分ける必要があるということかも知れませんが、CMはエンタテインメントの側面もありますから、それを忘れてはいけないのだと思います。
☆桶谷功「インサイト」(2005年)ダイヤモンド社
インサイト
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