この本の帯にこんなことが書いてあります。
茂木健一郎氏 絶賛!
時代を突き動かす衝動のど真ん中に、「文化」の総合力を見る。卓越した論考は、現代における「マーケティングの新約聖書」と呼ぶべきにふさわしい。読め。感じろ。そして跳べ。日本人に大いなる勇気と希望を与えてくれる本が登場した。(帯より)
気恥ずかしくなってしまうような売り文句です。茂木氏は本気でそう思ってこの文を寄せたのでしょうか? 不思議です。しかし「マーケティングの新約聖書」ともなれば、これは読まないわけには行きません。
...ということで読み始めましたが、読んでいる途中、筆者の「思いの深さ」のようなものは伝わってくるのですが、言葉が空回りしている感じで、正直言って何が言いたいのかいまひとつよく分かりませんでした。
「日本文化」を歴史的に紐解きそのユニークネスを語ったり、一般的な文化論を語ったり、「豊かさ」とは何かについて語ったり、「豊かさ」を取り戻そう! と叫んだり...。それを20世紀末にブームとなった「ポストモダン」思想家の言説、――例えば記号論とか、構造主義とか、現象学とかに当てはめたりして説明するわけです。その合間合間にマーケティングの話が出てきたりするわけですが。
「マーケティングの新約聖書」? 言い過ぎでは?
ただ、難しい言葉を使ってはいるものの、決して人を煙にまこうとする議論をしているわけではありません。筆者の問題意識は真摯であり、その意味では筆者の態度の誠実さは全編を通じて感じられるものです。
では、要は何が言いたいのか?
あとがきの文章を読んで、何となく分かった感じがしました。
「私は、広告、ブランド研究が専門である。にもかかわらず、専門違いである私が蛮勇をふるって本書を執筆したのは、現在こそビジネス、教育において総合的な意味での『教養』が必要だという思いからである。」(p313)
「単なる学術書でもなければノウハウ本でもない新しい形の教養書を出したい筆者のわがまま」(p315)
なるほど。「教養」かぁ。考えてみれば我々の仕事の中では“欠けがち”なものですね。お得意様の課題に合わせて、新しい仕事を日々“こなすこと”を我々の仕事の形としてしまっている中で、何か足りないことがあるとは感じていました。「教養」というのはおかしな話ですがそれを埋めるピースかもしれません。
そう思ってもう一度始めの部分を読んでみると、ちゃんと筆者の問題意識が書いてありました。
「これまで『マーケティング』と『文化』は、実務と教養という相容れない領域であった。しかし、文化パワーが台頭する時代において、これまで水と油であった両者が融合し、新たな理論、思想が求められるようになった。ビジネスの世界にあって文化への理解とセンスが必要とされ、文化の世界にビジネス知識が求められているのである。言い換えれば、文化全般についての教養力がビジネスパワーへとつながる時代になったということである。(中略)本書は、これまで分断されてきた『マーケティング』と『文化』の間の架け橋となるものであり、新たなマーケティング原理としての『カルチュラル・マーケティング』を提唱するものである。」(p12)
この発想には共感します。「商品を企画開発し、販売する」という広義のマーケティング活動を行う上で、売り手・買い手の背景にある文化を理解しようとするのは正しいことだと思うし、マーケターが文化を理解しようとする試みの中で、同じように「人間」「文化」を理解しようとしてきた歴史や美術史・社会学・心理学・人類学などの教養を身につけ、より深く人間や文化を理解すべきだという考え方も、これまで軽視されてきたように思いますが、重要なことでしょう。実践できるかどうかは別としても。
「単純におざなりのアンケート調査やグルインをやっているばかりでは、薄っぺらな仕事しかできないよ。本当はもっと豊かな仕事があるのだよ」、と筆者は言いたいのかも知れません。
筆者は、彼の提唱する「カルチュラル・マーケティング」の方法論として、いくつか具体的なやり方の提言もしています。それはこの本を手に取って皆さんそれぞれがご確認ください。納得できることも、疑問なこともあるかも知れませんが、批判的に理解して取り入れてみるというのは、最もふさわしい態度だと思います。
この本がマーケティングの新約聖書がどうかは分かりませんが、筆者のような視点でのマーケティング研究はもっとなされていいと思います。その意味では筆者の試みを強く支持します。
そしてできれば、筆者の言う「カルチュラル・マーケティング」について、理論だけではなく、それを活用した実際のケースも読んでみたいところです。また、私個人的にはアメリカで話題のCCT(Consumer culture Theory)と呼ばれる一連の実践研究に興味があるのですが、そうした研究動向との関連性についての議論も期待したいところです。
問題提起にとどまらず、「実践篇」的な続編を期待しています。
☆青木貞茂『文化の力 カルチュラルマーケティングの方法』(2008年)NTT出版
文化の力――カルチュラル・マーケティングの方法 (NTT出版ライブラリーレゾナント 44)
茂木健一郎氏 絶賛!
時代を突き動かす衝動のど真ん中に、「文化」の総合力を見る。卓越した論考は、現代における「マーケティングの新約聖書」と呼ぶべきにふさわしい。読め。感じろ。そして跳べ。日本人に大いなる勇気と希望を与えてくれる本が登場した。(帯より)
気恥ずかしくなってしまうような売り文句です。茂木氏は本気でそう思ってこの文を寄せたのでしょうか? 不思議です。しかし「マーケティングの新約聖書」ともなれば、これは読まないわけには行きません。
...ということで読み始めましたが、読んでいる途中、筆者の「思いの深さ」のようなものは伝わってくるのですが、言葉が空回りしている感じで、正直言って何が言いたいのかいまひとつよく分かりませんでした。
「日本文化」を歴史的に紐解きそのユニークネスを語ったり、一般的な文化論を語ったり、「豊かさ」とは何かについて語ったり、「豊かさ」を取り戻そう! と叫んだり...。それを20世紀末にブームとなった「ポストモダン」思想家の言説、――例えば記号論とか、構造主義とか、現象学とかに当てはめたりして説明するわけです。その合間合間にマーケティングの話が出てきたりするわけですが。
「マーケティングの新約聖書」? 言い過ぎでは?
ただ、難しい言葉を使ってはいるものの、決して人を煙にまこうとする議論をしているわけではありません。筆者の問題意識は真摯であり、その意味では筆者の態度の誠実さは全編を通じて感じられるものです。
では、要は何が言いたいのか?
あとがきの文章を読んで、何となく分かった感じがしました。
「私は、広告、ブランド研究が専門である。にもかかわらず、専門違いである私が蛮勇をふるって本書を執筆したのは、現在こそビジネス、教育において総合的な意味での『教養』が必要だという思いからである。」(p313)
「単なる学術書でもなければノウハウ本でもない新しい形の教養書を出したい筆者のわがまま」(p315)
なるほど。「教養」かぁ。考えてみれば我々の仕事の中では“欠けがち”なものですね。お得意様の課題に合わせて、新しい仕事を日々“こなすこと”を我々の仕事の形としてしまっている中で、何か足りないことがあるとは感じていました。「教養」というのはおかしな話ですがそれを埋めるピースかもしれません。
そう思ってもう一度始めの部分を読んでみると、ちゃんと筆者の問題意識が書いてありました。
「これまで『マーケティング』と『文化』は、実務と教養という相容れない領域であった。しかし、文化パワーが台頭する時代において、これまで水と油であった両者が融合し、新たな理論、思想が求められるようになった。ビジネスの世界にあって文化への理解とセンスが必要とされ、文化の世界にビジネス知識が求められているのである。言い換えれば、文化全般についての教養力がビジネスパワーへとつながる時代になったということである。(中略)本書は、これまで分断されてきた『マーケティング』と『文化』の間の架け橋となるものであり、新たなマーケティング原理としての『カルチュラル・マーケティング』を提唱するものである。」(p12)
この発想には共感します。「商品を企画開発し、販売する」という広義のマーケティング活動を行う上で、売り手・買い手の背景にある文化を理解しようとするのは正しいことだと思うし、マーケターが文化を理解しようとする試みの中で、同じように「人間」「文化」を理解しようとしてきた歴史や美術史・社会学・心理学・人類学などの教養を身につけ、より深く人間や文化を理解すべきだという考え方も、これまで軽視されてきたように思いますが、重要なことでしょう。実践できるかどうかは別としても。
「単純におざなりのアンケート調査やグルインをやっているばかりでは、薄っぺらな仕事しかできないよ。本当はもっと豊かな仕事があるのだよ」、と筆者は言いたいのかも知れません。
筆者は、彼の提唱する「カルチュラル・マーケティング」の方法論として、いくつか具体的なやり方の提言もしています。それはこの本を手に取って皆さんそれぞれがご確認ください。納得できることも、疑問なこともあるかも知れませんが、批判的に理解して取り入れてみるというのは、最もふさわしい態度だと思います。
この本がマーケティングの新約聖書がどうかは分かりませんが、筆者のような視点でのマーケティング研究はもっとなされていいと思います。その意味では筆者の試みを強く支持します。
そしてできれば、筆者の言う「カルチュラル・マーケティング」について、理論だけではなく、それを活用した実際のケースも読んでみたいところです。また、私個人的にはアメリカで話題のCCT(Consumer culture Theory)と呼ばれる一連の実践研究に興味があるのですが、そうした研究動向との関連性についての議論も期待したいところです。
問題提起にとどまらず、「実践篇」的な続編を期待しています。
☆青木貞茂『文化の力 カルチュラルマーケティングの方法』(2008年)NTT出版
文化の力――カルチュラル・マーケティングの方法 (NTT出版ライブラリーレゾナント 44)