「グーグルに勝つ広告モデル」とは勇ましいタイトルです。広告ビジネスが伸び悩む今日において、唯一の「勝ち組」と言っていい「Google」を苦々しく思う人も少なくないでしょう。だからこのタイトルを見て思わず本を買ってしまった人も多いと思います。
実は私もその口なのですが(笑)、ちょっと残念なことに、この本は「グーグルへの勝ち方」を述べた本ではありませんでした。今日のメディア環境変化の中で「負け組」に分類される(と言える)「マスメディア」の延命策を述べたものです。その意味では、少々「看板(タイトル)に偽りあり」なのですが、「延命策」以外のところで、意外に面白い論考がありましたので紹介したいと思います。
1.アテンション対インタレスト
まず、とても鋭い! と思ったのが、マス広告とグーグル広告モデルの違いの指摘。
「テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4マスメディアのビジネスモデルの本質は、大衆の注目の卸売りです。英語でいうアテンションを集めて卸売りしている、アテンション・エコノミー。これが20世紀型マスメディアの本質です。
一方、近年騒がれている21世紀型メディアとしてのグーグルが依拠する経済は、インタレスト(能動的な興味・関心)です。グーグルはアテンションではなく、インタレストの卸売りをするビジネスモデルです。」(p11-12)
この後筆者が説明しているのですが、AIDMA(AISASでも良いが)のようなアテンション→インタレストに移行する広告効果モデルを考えれば、アテンションをターゲットにするより、インタレストを直接ターゲットにしている方が、広告効果の効率性が高くなり、広告単価も高く設定できます。Googleの強みはそこにあると言うのです。さらにYahoo!にも触れていて、Yahoo!はバナー広告に依存しているからマス広告同様、20世紀のアテンション・エコノミーモデルに分類できるのだそうです。
なるほど、広告手法をこういう視点で理解するのは斬新ですね。もちろん、異論のある人もいるかと思いますが、なぜマス広告が限界を迎え(→人が使える時間量が変わらないのに、世の中の情報量が膨大になりすぎ、アテンションの獲得効率が低下してきたから、が答え)、グーグルが儲かっているのかを大まかに考える上で、こうした単純化した分類は役に立つと思いました。
2.コンテンツビジネスは、未来に行けば行くほど厳しい戦いを強いられる
これも面白い視点です。コンテンツビジネスは、将来は現在よりも必ず厳しい戦いを強いられる宿命にあると言うのです。
「テレビを含めたメディア/コンテンツ産業が、他の産業と異なる点の一つとして『過去のストックが競合になる』という点が挙げられます。(中略)ストックは時間の経過にともない、いずれ無限大まで増加します。(中略)加えて、名作とか傑作は一定の出現率に基づき生まれてきますから、時間がたてばたつほど過去のストック価値が増大していきます。つまり、常に『現代のコンテンツ』が歴史上どの時点と比較しても、より厳しい戦いを強いられるということになります。」(p16-17)
そしてこの傾向は、近頃のインターネットによる、モノ(コンテンツ)と情報(コンテンツのメタデータ)が分離することにより、探索コストが劇的に低下し、欲しいコンテンツがいつでも入手可能になることによって、加速されているというのです。確かに、アニメや漫画産業の近頃の勢いの衰えも、こうしたことと関係があるのかもしれません。
これはコンテンツビジネスに携わる人にとってはかなり暗い話だと思いますが。
というような鮮やかな分析が冒頭の方にあり、すごく期待が高まったのですが、最初に述べた通り、本書の大半はマスメディアの延命策が延々と述べられている内容でした。そのテーマに関心のある人なら参考になったのかもしれませんが、私はその内容自体についても、新鮮味が薄かったり、実現可能性という点で?の話が少なくなく感じたので、あまり興味を持てませんでした。
(*)上記で「延命策」と書いたのですが適切ではありませんね。別にマスメディアは「絶命」するようなものではありませんから。ビジネスを取り巻く環境が変わってきて、収益効率が悪くなってきているというのが問題点であり、著者はそれへの対応策を書いているというのが正しい説明です。「延命策」ではなくて、「生き残り策」ですかね?(同じか...)
グーグルに勝つ広告モデル (光文社新書 349)
話は変わりますが、今年もカンヌ国際広告祭が終わりました。ご存知のように日本からはユニクロの「UNIQLOCK」がサイバーとチタニウムでグランプリを取りました。関係者に敬意を表しまして、私のブログにも貼り付けさせてもらいました(笑)。カンヌでは今回のユニクロだけでなく、ここ数年インターネットを活用した新しい広告キャンペーンの領域で、日本の作品がコンスタントに賞を取っています。この領域での、日本の企画力の高さを改めて感じ、なかなか日本も捨てたものではないなと思いました。
一方で、フィルム部門のグランプリは2つあるそうで、そのうちの一つがこのゴリラのCM。イギリスキャドベリーのチョコレートの広告なのですが、正直私は何が“よい”のか分かりません。音楽を入れ替えたリミックスバージョンが多数消費者によって作られているようで(つまりUGC=勝手広告?)、そこも含めての表彰なのでしょうか?
どなたか分かる方がいたら教えてください!
実は私もその口なのですが(笑)、ちょっと残念なことに、この本は「グーグルへの勝ち方」を述べた本ではありませんでした。今日のメディア環境変化の中で「負け組」に分類される(と言える)「マスメディア」の延命策を述べたものです。その意味では、少々「看板(タイトル)に偽りあり」なのですが、「延命策」以外のところで、意外に面白い論考がありましたので紹介したいと思います。
1.アテンション対インタレスト
まず、とても鋭い! と思ったのが、マス広告とグーグル広告モデルの違いの指摘。
「テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4マスメディアのビジネスモデルの本質は、大衆の注目の卸売りです。英語でいうアテンションを集めて卸売りしている、アテンション・エコノミー。これが20世紀型マスメディアの本質です。
一方、近年騒がれている21世紀型メディアとしてのグーグルが依拠する経済は、インタレスト(能動的な興味・関心)です。グーグルはアテンションではなく、インタレストの卸売りをするビジネスモデルです。」(p11-12)
この後筆者が説明しているのですが、AIDMA(AISASでも良いが)のようなアテンション→インタレストに移行する広告効果モデルを考えれば、アテンションをターゲットにするより、インタレストを直接ターゲットにしている方が、広告効果の効率性が高くなり、広告単価も高く設定できます。Googleの強みはそこにあると言うのです。さらにYahoo!にも触れていて、Yahoo!はバナー広告に依存しているからマス広告同様、20世紀のアテンション・エコノミーモデルに分類できるのだそうです。
なるほど、広告手法をこういう視点で理解するのは斬新ですね。もちろん、異論のある人もいるかと思いますが、なぜマス広告が限界を迎え(→人が使える時間量が変わらないのに、世の中の情報量が膨大になりすぎ、アテンションの獲得効率が低下してきたから、が答え)、グーグルが儲かっているのかを大まかに考える上で、こうした単純化した分類は役に立つと思いました。
2.コンテンツビジネスは、未来に行けば行くほど厳しい戦いを強いられる
これも面白い視点です。コンテンツビジネスは、将来は現在よりも必ず厳しい戦いを強いられる宿命にあると言うのです。
「テレビを含めたメディア/コンテンツ産業が、他の産業と異なる点の一つとして『過去のストックが競合になる』という点が挙げられます。(中略)ストックは時間の経過にともない、いずれ無限大まで増加します。(中略)加えて、名作とか傑作は一定の出現率に基づき生まれてきますから、時間がたてばたつほど過去のストック価値が増大していきます。つまり、常に『現代のコンテンツ』が歴史上どの時点と比較しても、より厳しい戦いを強いられるということになります。」(p16-17)
そしてこの傾向は、近頃のインターネットによる、モノ(コンテンツ)と情報(コンテンツのメタデータ)が分離することにより、探索コストが劇的に低下し、欲しいコンテンツがいつでも入手可能になることによって、加速されているというのです。確かに、アニメや漫画産業の近頃の勢いの衰えも、こうしたことと関係があるのかもしれません。
これはコンテンツビジネスに携わる人にとってはかなり暗い話だと思いますが。
というような鮮やかな分析が冒頭の方にあり、すごく期待が高まったのですが、最初に述べた通り、本書の大半はマスメディアの延命策が延々と述べられている内容でした。そのテーマに関心のある人なら参考になったのかもしれませんが、私はその内容自体についても、新鮮味が薄かったり、実現可能性という点で?の話が少なくなく感じたので、あまり興味を持てませんでした。
(*)上記で「延命策」と書いたのですが適切ではありませんね。別にマスメディアは「絶命」するようなものではありませんから。ビジネスを取り巻く環境が変わってきて、収益効率が悪くなってきているというのが問題点であり、著者はそれへの対応策を書いているというのが正しい説明です。「延命策」ではなくて、「生き残り策」ですかね?(同じか...)
グーグルに勝つ広告モデル (光文社新書 349)
話は変わりますが、今年もカンヌ国際広告祭が終わりました。ご存知のように日本からはユニクロの「UNIQLOCK」がサイバーとチタニウムでグランプリを取りました。関係者に敬意を表しまして、私のブログにも貼り付けさせてもらいました(笑)。カンヌでは今回のユニクロだけでなく、ここ数年インターネットを活用した新しい広告キャンペーンの領域で、日本の作品がコンスタントに賞を取っています。この領域での、日本の企画力の高さを改めて感じ、なかなか日本も捨てたものではないなと思いました。
一方で、フィルム部門のグランプリは2つあるそうで、そのうちの一つがこのゴリラのCM。イギリスキャドベリーのチョコレートの広告なのですが、正直私は何が“よい”のか分かりません。音楽を入れ替えたリミックスバージョンが多数消費者によって作られているようで(つまりUGC=勝手広告?)、そこも含めての表彰なのでしょうか?
どなたか分かる方がいたら教えてください!