本屋でこの本を見つけて思わず手にとりました。
 「CGMイベント」という聞きなれない言い方に引っかかりました。

 そもそも「イベント」といえばアナログの極致。片やCGMはみなさんご存知の通り今流行のあれです。矛盾しているものをくっつけてどうよ、ということですが、案外内容はまっとうで提案性のあるものでした。

 要は「イベント(リアルイベント)」と「CGM」を組み合わせて考えることで、従来にない効果的なコミュニケーションができるのでは、という提案です。
 例えば最近の流れで言うと、広告の費用対効果に対する見方がシビアになってきておいます。すると単純に考えると、展示会のようなイベントは費用の割りにリーチする(メッセージが届く)範囲が狭く、極めて効率の悪いプロモーション手段だということになります。しかし、イベントには「臨場感や双方向性といったイベントプロモーションにしか提供できない価値がある(p15)」というのは事実ですし、イベント来場者がその内容をクチコミすることで、より広い範囲にメッセージが広がるのでは、という視点を組み込むと、従来とは違う視点でイベントの効果・効率を捉えることができそうです。

 「イベントプロモーションのありかたも、従来の集客数やアンケートによる満足価値を評価ポイントとして設計していたプランニング方法だけでは、費用対効果という観点から難しい状況となってきた。『イベントもかわらなくちゃ』である。イベント単体の評価ではなく、イベントと接触した来場者を媒介に、BUZZ(口コミ効果)がいかに効率よく生み出されるかがプロモーションの成否にかかる非常に重要な評価となってきたのだ。この口コミ効果の最大化というお題に対して、イベントプロモーション単体での施策提案だけではなく、昨今爆発的にその存在感を示し始めてきたWeb上での施策と上手に組み合わせることによって生まれる新しいコミュニケーションアプローチを『CGMイベント』として定義し、本書のタイトルとした」(p15)

 こうした組み合わせの視点はユニークだし、私もこの前面賛成です。メディア環境は日々変化しているのですから、環境変化を嘆くのではなく、新しい視点から従来のプロモーション活動のあり方を再検討し、お客さん(クライアント)に対し、時代に合った高付加価値のサービスを提供していくということは、今の広告ビジネスに携わるものに求められる姿勢かなとも思います。
 その意味でこの本は、こうした可能性について気づかせてくれる良書です。多少理屈っぽいところや、対談を入れて多少“水増し”している感のある部分もないではないですが、Web2.0時代におけるイベントのあり方、というテーマが整理されており、イベント分野の仕事をしている人に限らず読んで損はないと思います。

 ただ、最後に一つだけ気になった点を。筆者な、こうした筆者が主張する「Web+リアルイベントプロモーションの好例」として、2005年夏に行われた「ポカリスエットスカイメッセージキャンペーン」を紹介しています。このキャンペーン、飛行機で空に「POCARI SWEAT」という文字を雲で描き出すというイベントを全国各地で実施するというものでしたが、当時非常に話題になりました。またこのキャンペーンを有名にしたのは当時まだ活用が始まったばかりだったブログをキャンペーンに用いた点でした。まずWebサイトを開設し飛行機の飛ぶ場所・日時を発表し、キャンペーンブログでは「POCARI SWEAT」と描かれた雲を撮影したフォトをトラックバックの形で募集し、最優秀作品を表彰するという消費者参加型のキャンペーンを実施したのでした。キャンペーンブログの非常に巧みな使い方と言われました。

 しかし、問題はその先です。このキャンペーン、大変なコスト(マーケティングコスト)がかかったと思うのですが、その夏のポカリスエットの売上げは競合(アクエリアスなど)が大きく伸ばした中で、ほとんど伸びなかったというのです。つまり、「キャンペーンとしては成功したけど、売上げには貢献しなかった」というまずいケースだったわけです。
 これはどう考えればいいのでしょうね。確かにキャンペーンの仕掛けとしては「Web+リアルイベント」の上手な組み合わせでしたが、売上げにはつながらないのであれば、そもそも「Web+リアルイベント」をやる価値を証明する根拠が失われてしまいます。
 そういう意味では本書でこうしたケースを「好例」として紹介するのは疑問ですし、単純に「Webとイベントをくっつければいい」ということでもなさそうですね。そのあたりの詰め、つまり単純に「Web+イベント」ではなくて、それを前提としつつも「効果をあげるためにはどうしたらいいのか」「成功したケースはどううまくやったのか」ということを含めて論理を展開してもらえればもっとよかったかも知れません。
 まぁ、難しいことだとは思いますけど。

 それにしても大塚製薬という会社は、このキャンペーンのような新しい試みへのチャレンジが積極的ですね。昨年もファイブミニで、「体内怪獣キャンペーン」というCGMを活用したユニークなキャンペーンをやり、話題になりました。もっともこれもキャンペーンが話題になった割には商品は動かなかったらしいですが。。。

☆川本達人「CGMイベントがプロモーションを変える」(2007年)日経BP
CGMイベントがプロモーションを変える―今、広告周辺ビジネスがアツイ