久々の更新になってしまいました。

 前回の更新が昨年の9月だったから、4カ月ぶりの更新です。
かなりサボってしまったのは、本業の仕事が忙しかったのと、いったんやめてしまうと怠けぐせがついてなかなか復帰できなかったからです。
 読んで面白かったからここで紹介しようと思っている本も、もうずっと机の上に積み上げてある状態なのです。

 以前みたいに毎週更新するのはできないかなぁと思いますが、またできるだけ続けてみようと思います。

 さて、久々に紹介する本ですが「マーケティング2.0」という本です。私もそうなのですが、正直もう「WEB2.0に関する話は食傷気味だ」と感じている人、少なくないのではないでしょうか。パラダイムの変換を促す非常に重要な概念であっても、既に多くの人が言っているし、本もたくさん出ているし、もういいよ、次に行こうよ! というのが、この話題に関心のある多くの人の気持ちなのではないかと思っています。
 WEB2.0の「WEB」の部分を別のものに言い換えて、「○○2.0」を名乗る本や相当出ました。もう私も馬鹿馬鹿しくてへどが出そうなくらいです。その意味ではこの本も、話題になった本のようでしたが、いかにもというタイトルです。私も、一応目を通しておくか、ぐらいの大変期待値の低い態度で読み始めたわけでした。

 大まかな印象で言うと、よく整理されて書いてあると思います。WEB2.0というのはWEB全体の新しい動きであるわけですが、それを前提とすると「マーケティング」のあり方がどう変わるのか? という議論が全体を通じてなされています。類書でも同じようなことを言っているので、この本のオリジナリティが高いとは思いませんが、まとまっていていい本だとは確かに思います。
 WEB2.0時代のマーケティングのあり方を考えたい人の入門書としていいかもしてません。

 しかしながら、私がこの本をここで取り上げたのは、こういう紹介がしたかったからではありません。この本の中に、非常に重要な指摘をしている部分があり、それを紹介したいと考えたからです。

 P172から、関西学院大学講師の柿原正郎氏による「ゲートキーピング戦略」という章があります。
 収益性をあげるための視点について書かれている部分です。氏の言いたいことを引用すると、 

 「マーケティングの実務者は、ネット上の消費者の情報行動へのアプローチだけに終始してしまってはいけません。Web2.0の時代だからこそ、マーケティングの本質である『収益への貢献』を目指して、リアルな世界との接続を明確に意識し、現場での実務の設計とマネジメントに取り組む必要があります。(p186)」

 要は、WEB2.0時代でもきちんとお金儲けができるようにビジネスモデルを設計しなさい、という当たり前のことなのですが、WEB2.0関係のビジネスを見ていると、この点が意外と盲点になっている気がするのですよね。WEB2.0の話をしている人はロングテールやら集合知やらといった、ネット上のユーザーの行動に注目するか、マッシュアップや広告テクノロジーの進化のようなネット技術の話ばかりします。共通しているのは、ネットの「あちら側」の議論をしているということです(この「あちら側」の意味がよくわからない人はこちら参照)。

 「Web2.0の時代になり『あちら側』はますます拡張し続けるでしょうが、人間の身体はこれからもずっと『こちら側』に存在し続けるからです。ですからこそ、この両世界をつなぐ『ゲート』の重要性は今後ますます高まってくることでしょう。(P187)」

 柿原氏が言いたいのは、Web2.0の風潮の中では「あちら側」、つまりネット関連の技術やシステムの話ばかり目立つけど、「こちら側」つまり生身の人間がお金を支払わないことには、ビジネスとして成立たない。だから「あちら側」と「こちら側」をつなぐ「ゲート」をうまく作ってやらねば、いけませんよということだと思います。「ゲート」とはもちろん、パソコンや携帯電話のインターフェースなど具象的なものを言っているのではありません。あちら側の技術を生身の人間がお金を出す仕組みの話をしているのです。

 私は、まさにその通りの視点だと思います。彼は成功例として、アップルのiTUNEとiPodを組み合わせたシステムによるビジネスの話をしているのですが、確かにアップルはネットと生身の人間と両方への目配せがうまいですよね。

 WEB2.0の掛け声に浮かれたように、関連するサービスを開始するネットベンチャーも多いと思いますし、彼らに投資するベンチャーキャピタルもいると思います。首尾よくどこかの会社が株式公開されたりすると、その株を買う投資家もいると思います。しかし、「本当に生身の人間が動くビジネスモデルなのか?」を吟味しないと、将来性は渋いと思います。メディアも何か新しい技術を持っている会社があったりすると、ただ「新しい」というだけで大げさに取り上げたりしますよね。目下「WEB2.0」という魔法の言葉に、何となく誰もが踊らされているような、そんなちょっと不安な気持ちに私はなってしまうのです。

みなさまご注意を!。

☆渡辺聡監修「マーケティング2.0」(2006年)翔泳社

マーケティング2.0