この本、去年の10月に出版された本で、決して古い本ではないのですが、帯に「ライブドアVSフジテレビ」の次に来るものとは? など書かれているのを見ると、ずいぶん昔の本のような気がしてしまいます。
この本は、このブログでもたびたび取り上げてきた「放送と通信の融合」をテーマにした本です。タイトルに「デジタル・コンバージェンス」とありますが、これは、
「コンバージェンス(convergence)とは『収斂。一点に集まる』という意味であり、デジタル・コンバージェンスとは、デジタル技術の進展によって、通信と放送を含むメディアの業際が消えて融合することを指す。」(p2)
とあるように、放送、通信などのメディアがデジタル技術により融合していくさまを表現しています。
確かに、時代はこの方向に進んでいることは間違いありません。インターネットの無料配信GyaOの登録者数は900万を超え、5月中にも1千万に届きそうな勢いです。ネット業界の巨人Yahoo!も、動画ページで大量の無料動画コンテンツをそろえてきましたし、TV BANKというWEB上の動画の検索サービスも開始されました。今年4月にはワンセグ放送も始まり、携帯端末と放送との融合が静かに始まっています。またW杯が近づいていますが、インデックスなどはW杯のハイライトシーンのネット配信を予定しています。
後から振り返ったとき、今年が「インターネット動画元年」になっているのは間違いないのではないでしょうか。
ビジネスとして本当に独り立ちできるのかというのはおいておいたとしても、技術的にはデジタル化によるネットとメディアの融合がどんどん進んでいるのは事実でしょう。
今回紹介する本も、その辺りに焦点を合わせている本ではあります。
著者はデジタルハリウッド大学院大学の斉藤茂樹氏で、帯には「デジハリ大学院の講義をビジネスパーソン向けにわかりやすく書き下ろした一冊」とあります。
...というわけで、ある程度期待して読んだのですが、ちょっと著者の現状認識に賛同できなかったので、あまり読後感はよろしくありませんでした。
そう感じたのは以下の点です。
一つに、この本は一貫して「オンデマンドテレビ」の可能性について述べています。「オンデマンドテレビ」とは、視聴者が見たい番組をいつでも見ることができるという放送サービスのモデルです。
しかし、今少なくとも私の知っている限り、放送と通信の融合問題を語る人で「オンデマンドテレビ」という言葉を使う人は、この著者以外聞きません。「オンデマンド」というのは、ちょっと前のブロードバンド放送が普及する前の言葉のような気がします。インターネット動画配信における「オンデマンド」というのは当然のものであり、あえてその言葉を使う必要がないからだと思います。最近では、むしろHDDレコーダーによるテレビ録画の方が、自由な時間にテレビを見られるわけで「オンデマンドテレビ」という名称にふさわしそうな気さえします。
そういう古臭い言葉をあたかも重要キーワードのごとく堂々と使っているのが疑問を感じた理由の一つです。
もう一つは、この斉藤氏はセットボックス型インターネットテレビの会社であるDNA社(デジタル・ネットワーク・アプライアンス社)の「でじゃ」を非常に高く評価して記述しています。それは斉藤氏がDNA社の取締役だからだと思います。しかし、このセットトップボックス型の動画配信サービスモデルは、今日のブロードバンド環境の一般への普及と、平行して進むストリーミング技術の進化の中で、将来性はあるのでしょうか? 少なくとも身近には使っている人を知りませんし、話題性の点でももはや???です。
身内の会社のサービスを持ち上げるのは、自分の著書の中であれば別に構わないと思います。しかし、これが帯にある通り、「デジタルハリウッド大学院で行われている授業」だとしたら、デジハリ大学院は問題があるのではないですかね? 世の中の事情がよくわからない学生に洗脳するようでちょっと怖いです。
大学というアカデミックな世界は、いい意味でも悪い意味でも商業主義とは一線を画していたために、経済活動に対して中立的な立場を従来とっていたのだと思います。規制緩和によって、企業の出資を受けた株式会社大学が生まれ、出資・支援企業の利害関係によって、大学で教えられることに極端な偏りが生じてしまうのならば、ちょっと恐ろしいことです。
この本が、そのケースだとは言いませんが。
全体にためにはなるとは思いますが、利害関係が入っている分だけ、差し引いて読むことをお勧めします。
また、最近の放送と通信の融合問題についてのよいレポートが、このニュースサイトで読めますので、ご参照ください。
☆齋藤茂樹氏「デジタル・コンバージェンスの衝撃」(2005年)日経BP出版センター
デジタル・コンバージェンスの衝撃―通信と放送の融合で何が変わるのか
この本は、このブログでもたびたび取り上げてきた「放送と通信の融合」をテーマにした本です。タイトルに「デジタル・コンバージェンス」とありますが、これは、
「コンバージェンス(convergence)とは『収斂。一点に集まる』という意味であり、デジタル・コンバージェンスとは、デジタル技術の進展によって、通信と放送を含むメディアの業際が消えて融合することを指す。」(p2)
とあるように、放送、通信などのメディアがデジタル技術により融合していくさまを表現しています。
確かに、時代はこの方向に進んでいることは間違いありません。インターネットの無料配信GyaOの登録者数は900万を超え、5月中にも1千万に届きそうな勢いです。ネット業界の巨人Yahoo!も、動画ページで大量の無料動画コンテンツをそろえてきましたし、TV BANKというWEB上の動画の検索サービスも開始されました。今年4月にはワンセグ放送も始まり、携帯端末と放送との融合が静かに始まっています。またW杯が近づいていますが、インデックスなどはW杯のハイライトシーンのネット配信を予定しています。
後から振り返ったとき、今年が「インターネット動画元年」になっているのは間違いないのではないでしょうか。
ビジネスとして本当に独り立ちできるのかというのはおいておいたとしても、技術的にはデジタル化によるネットとメディアの融合がどんどん進んでいるのは事実でしょう。
今回紹介する本も、その辺りに焦点を合わせている本ではあります。
著者はデジタルハリウッド大学院大学の斉藤茂樹氏で、帯には「デジハリ大学院の講義をビジネスパーソン向けにわかりやすく書き下ろした一冊」とあります。
...というわけで、ある程度期待して読んだのですが、ちょっと著者の現状認識に賛同できなかったので、あまり読後感はよろしくありませんでした。
そう感じたのは以下の点です。
一つに、この本は一貫して「オンデマンドテレビ」の可能性について述べています。「オンデマンドテレビ」とは、視聴者が見たい番組をいつでも見ることができるという放送サービスのモデルです。
しかし、今少なくとも私の知っている限り、放送と通信の融合問題を語る人で「オンデマンドテレビ」という言葉を使う人は、この著者以外聞きません。「オンデマンド」というのは、ちょっと前のブロードバンド放送が普及する前の言葉のような気がします。インターネット動画配信における「オンデマンド」というのは当然のものであり、あえてその言葉を使う必要がないからだと思います。最近では、むしろHDDレコーダーによるテレビ録画の方が、自由な時間にテレビを見られるわけで「オンデマンドテレビ」という名称にふさわしそうな気さえします。
そういう古臭い言葉をあたかも重要キーワードのごとく堂々と使っているのが疑問を感じた理由の一つです。
もう一つは、この斉藤氏はセットボックス型インターネットテレビの会社であるDNA社(デジタル・ネットワーク・アプライアンス社)の「でじゃ」を非常に高く評価して記述しています。それは斉藤氏がDNA社の取締役だからだと思います。しかし、このセットトップボックス型の動画配信サービスモデルは、今日のブロードバンド環境の一般への普及と、平行して進むストリーミング技術の進化の中で、将来性はあるのでしょうか? 少なくとも身近には使っている人を知りませんし、話題性の点でももはや???です。
身内の会社のサービスを持ち上げるのは、自分の著書の中であれば別に構わないと思います。しかし、これが帯にある通り、「デジタルハリウッド大学院で行われている授業」だとしたら、デジハリ大学院は問題があるのではないですかね? 世の中の事情がよくわからない学生に洗脳するようでちょっと怖いです。
大学というアカデミックな世界は、いい意味でも悪い意味でも商業主義とは一線を画していたために、経済活動に対して中立的な立場を従来とっていたのだと思います。規制緩和によって、企業の出資を受けた株式会社大学が生まれ、出資・支援企業の利害関係によって、大学で教えられることに極端な偏りが生じてしまうのならば、ちょっと恐ろしいことです。
この本が、そのケースだとは言いませんが。
全体にためにはなるとは思いますが、利害関係が入っている分だけ、差し引いて読むことをお勧めします。
また、最近の放送と通信の融合問題についてのよいレポートが、このニュースサイトで読めますので、ご参照ください。
☆齋藤茂樹氏「デジタル・コンバージェンスの衝撃」(2005年)日経BP出版センター
デジタル・コンバージェンスの衝撃―通信と放送の融合で何が変わるのか