2005年も終わろうとしていますが、振り返ってみると今年は広告コミュニケーション上、いくつか大きな動きがあったと思います。今回はそんな中から「メディアの構造変革」というテーマで3つの話題を取り上げて、来年の展望を考えてみたいと思います。
1.CGM(Consumer Generated Media)マーケティング
今年一番の話題は、ブログ、SNS、掲示板など「CGM」を活用したマーケティングコミュニケーションの領域が新たに開発されてきたことだと思います。
例えばブログについては、私の実感で言うと、今年の初め頃は周りで始めた人がちらほらいた程度でした。広告と結びつけて考える人もほとんどいなかったと思います。しかし年末には、ブログを使ったコミュニケーション戦略について見解が語れないようだと、広告会社の人間として見くびられかねないような感じになっています。1年でこんなに環境が変化した例はこれまでなかったのではないかと思います。
今年は具体的には「キャンペーンブログ」という形で、企業側が期間限定のブログサイトを構築し、そこにコメントやトラックバックなどを通じて一般の消費者を巻き込む、という形で実施する例が多く見られました。例えば、昨年からやっていますが日本のキャンペーンブログの先駆けとも言える、日産の「TIIDA BLOG」のようなものです。あるいはもうブログは閉じてしまいましたが、この夏大塚製薬が行った、「POCARI SWET Sky Messageキャンペーン」(サーバーエージェントのリクルートページにその詳細が紹介されています)などは、消費者のトラックバックをベースにコンテンツを作っていくというブログならではのキャンペーンであり、なおかつクロスメディア施策でもあったので、とてもスケールの大きなユニークなキャンペーンでした。
こうした「消費者が自ら発信する情報をうまく取り込みながら企業のマーケティング活動を行う」という発想は、掲示板として先発の「価格.COM」や「@cosme」なども同様ですが、PRやクチコミといったものに関心の集まる昨今の広告業界にしてみれば興味深いものであり、新しい試みや挑戦が来年以降も継続しそうです。
一方で、この手法にはいくつか課題も見えてきて来ています。一つは「効果」の問題。例えば「Sky Messageキャンペーン」のケースでは、WEBのアクセス数も増加し、トラックバックも多かったのですが、肝心の商品の売上げは期待ほどではなかったと言われています。今年は話題性だけでも注目されましたが、来年は費用対効果や他の施策との役割分担などを明確にするよう、クライアントからは求められるでしょう。
さらに、CGMマーケティングにまつわるネガティブ面、例えばネガティブな書き込みや犯罪やトラブルによる個人情報の漏洩、スパムブログ・スパムトラックバックの問題なども、CGMを利用するマーケティング手法が広まるにつれ、同時に対応が迫られるでしょう。
2.放送と通信の融合
ホリエモンが2月にニッポン放送の株を買い占めてフジテレビに経営統合を迫った際、ホリエモンが言い出して一躍知られるようになったのが「放送と通信(インターネット)との融合」という問題でした。さらに楽天が秋にTBSの株式を取得してTBSに同じことを言ったので、一層世の中の人の記憶に残ったのではないかと思います。
要は、インターネット側にすればコンテンツの宝庫であるテレビ局の番組(過去の制作物も含む)をネットで流して、アクセス数を稼いだり、課金して収益源にしたいということであり、テレビ局側もネットを使えばリサーチができたり番組に登場した商品の物販ができたりしてメリットがあるのではないか、ということでした。
テレビ局のコンテンツをネットで流す(二次利用する)のは、肖像権や著作権などの権利関係から難しい、ということで、ホリエモン騒動の際はややネガティブな受け止め方が大勢だったと思います。しかしその後、USENの「Gyao」が登場して、インターネットと放送の融合をそのままカタチにしましたし、放送局側も例えば日本テレビが「第2日本テレビ」を始めたりして、この問題は一気に現実化しました。さらに来春にはソフトバンクとYahoo!が、電通、博報堂、ADKなど大手代理店を巻き込んで「TV BANK」を開始するとも発表しました。
来年はかなり盛り上がりそうです。
この動き、CGMと並んでマスメディアのあり方の構造変革を引き起こす鍵になり得ます。配信される動画それ自体を見てみたいとも思いますが、こうした動きには来年も目が離せません。
3.HDR(ハードディスクレコーダー)の普及により変わるテレビ視聴
マスメディアの主役といえば「テレビ」です。それは広告でも同じ。日本の広告費の1/3はテレビ広告が占めています(2004年電通調べ)。
しかし若者のテレビ離れなどがあって、近年は「テレビ広告が効かなくなってきた」と言われ、海外でもP&Gなどこれまでテレビ広告を多用してきた大手広告主が、広告の一部をインターネットなど他のメディアに振り分ける方針を示したりしています。
そんな中で搦め手から登場し問題を複雑にしているのが、HDRの普及による録画視聴習慣の広まりと「CM飛ばし問題」の顕在化です。
HDRを使うことにより視聴者は「放送時間」の制約から解放されて、好きな時間にテレビ番組を視聴すること(タイムシフト視聴)が従来に比べても一層容易になりました。一方そういう場合CMは早送り(CMスキップ)して見てしまいがちです。これに対して、今年5月野村総合研究所が「HDRの普及に伴うCMスキップによる広告損失540億円」という衝撃的なレポートを発表してちょっとした騒ぎになりました。もっともこのレポートは、もともと録画によるCM視聴は広告費の計算外になっているのに「損失」と言うのはおかしい(つまり「損失540億円」ではなく、「広告費換算で540億円分」という表記が正しい)と指摘されたり、そもそもの計算方法におかしなところがあるのではと指摘されたりするなど、センセーショナルを狙って緻密さにかけていたようにも見受けられますが、広告業界に対する問題提起としては大きかったのではないかと思います。
アメリカでも、TIVOというHDRが普及していて自動的にCMをスキップして録画した番組を視聴できる機能を持っていて、同じようにCMスキップが問題になっています。
まだ日本では深刻に捉えている様子でもないのですが、機械の進歩と生活の便利さへの欲求は止まらないわけですから、来年に向けてテレビ広告のあり方の見直しが、広告主側でも、広告代理店側でも出てくると思います。(テレビ局は、今のあり方をあまり変えたくないようですが...)
3つあげてみたら「メディアの構造変革」というテーマが
全体的に、メディアの大きな構造変革の進行を感じる1年でした。この流れはきっと変わることはないので、来年はもっと顕在化した何かが見られるかもしれません。
では、来年に期待して。みなさま、良いお年を。
1.CGM(Consumer Generated Media)マーケティング
今年一番の話題は、ブログ、SNS、掲示板など「CGM」を活用したマーケティングコミュニケーションの領域が新たに開発されてきたことだと思います。
例えばブログについては、私の実感で言うと、今年の初め頃は周りで始めた人がちらほらいた程度でした。広告と結びつけて考える人もほとんどいなかったと思います。しかし年末には、ブログを使ったコミュニケーション戦略について見解が語れないようだと、広告会社の人間として見くびられかねないような感じになっています。1年でこんなに環境が変化した例はこれまでなかったのではないかと思います。
今年は具体的には「キャンペーンブログ」という形で、企業側が期間限定のブログサイトを構築し、そこにコメントやトラックバックなどを通じて一般の消費者を巻き込む、という形で実施する例が多く見られました。例えば、昨年からやっていますが日本のキャンペーンブログの先駆けとも言える、日産の「TIIDA BLOG」のようなものです。あるいはもうブログは閉じてしまいましたが、この夏大塚製薬が行った、「POCARI SWET Sky Messageキャンペーン」(サーバーエージェントのリクルートページにその詳細が紹介されています)などは、消費者のトラックバックをベースにコンテンツを作っていくというブログならではのキャンペーンであり、なおかつクロスメディア施策でもあったので、とてもスケールの大きなユニークなキャンペーンでした。
こうした「消費者が自ら発信する情報をうまく取り込みながら企業のマーケティング活動を行う」という発想は、掲示板として先発の「価格.COM」や「@cosme」なども同様ですが、PRやクチコミといったものに関心の集まる昨今の広告業界にしてみれば興味深いものであり、新しい試みや挑戦が来年以降も継続しそうです。
一方で、この手法にはいくつか課題も見えてきて来ています。一つは「効果」の問題。例えば「Sky Messageキャンペーン」のケースでは、WEBのアクセス数も増加し、トラックバックも多かったのですが、肝心の商品の売上げは期待ほどではなかったと言われています。今年は話題性だけでも注目されましたが、来年は費用対効果や他の施策との役割分担などを明確にするよう、クライアントからは求められるでしょう。
さらに、CGMマーケティングにまつわるネガティブ面、例えばネガティブな書き込みや犯罪やトラブルによる個人情報の漏洩、スパムブログ・スパムトラックバックの問題なども、CGMを利用するマーケティング手法が広まるにつれ、同時に対応が迫られるでしょう。
2.放送と通信の融合
ホリエモンが2月にニッポン放送の株を買い占めてフジテレビに経営統合を迫った際、ホリエモンが言い出して一躍知られるようになったのが「放送と通信(インターネット)との融合」という問題でした。さらに楽天が秋にTBSの株式を取得してTBSに同じことを言ったので、一層世の中の人の記憶に残ったのではないかと思います。
要は、インターネット側にすればコンテンツの宝庫であるテレビ局の番組(過去の制作物も含む)をネットで流して、アクセス数を稼いだり、課金して収益源にしたいということであり、テレビ局側もネットを使えばリサーチができたり番組に登場した商品の物販ができたりしてメリットがあるのではないか、ということでした。
テレビ局のコンテンツをネットで流す(二次利用する)のは、肖像権や著作権などの権利関係から難しい、ということで、ホリエモン騒動の際はややネガティブな受け止め方が大勢だったと思います。しかしその後、USENの「Gyao」が登場して、インターネットと放送の融合をそのままカタチにしましたし、放送局側も例えば日本テレビが「第2日本テレビ」を始めたりして、この問題は一気に現実化しました。さらに来春にはソフトバンクとYahoo!が、電通、博報堂、ADKなど大手代理店を巻き込んで「TV BANK」を開始するとも発表しました。
来年はかなり盛り上がりそうです。
この動き、CGMと並んでマスメディアのあり方の構造変革を引き起こす鍵になり得ます。配信される動画それ自体を見てみたいとも思いますが、こうした動きには来年も目が離せません。
3.HDR(ハードディスクレコーダー)の普及により変わるテレビ視聴
マスメディアの主役といえば「テレビ」です。それは広告でも同じ。日本の広告費の1/3はテレビ広告が占めています(2004年電通調べ)。
しかし若者のテレビ離れなどがあって、近年は「テレビ広告が効かなくなってきた」と言われ、海外でもP&Gなどこれまでテレビ広告を多用してきた大手広告主が、広告の一部をインターネットなど他のメディアに振り分ける方針を示したりしています。
そんな中で搦め手から登場し問題を複雑にしているのが、HDRの普及による録画視聴習慣の広まりと「CM飛ばし問題」の顕在化です。
HDRを使うことにより視聴者は「放送時間」の制約から解放されて、好きな時間にテレビ番組を視聴すること(タイムシフト視聴)が従来に比べても一層容易になりました。一方そういう場合CMは早送り(CMスキップ)して見てしまいがちです。これに対して、今年5月野村総合研究所が「HDRの普及に伴うCMスキップによる広告損失540億円」という衝撃的なレポートを発表してちょっとした騒ぎになりました。もっともこのレポートは、もともと録画によるCM視聴は広告費の計算外になっているのに「損失」と言うのはおかしい(つまり「損失540億円」ではなく、「広告費換算で540億円分」という表記が正しい)と指摘されたり、そもそもの計算方法におかしなところがあるのではと指摘されたりするなど、センセーショナルを狙って緻密さにかけていたようにも見受けられますが、広告業界に対する問題提起としては大きかったのではないかと思います。
アメリカでも、TIVOというHDRが普及していて自動的にCMをスキップして録画した番組を視聴できる機能を持っていて、同じようにCMスキップが問題になっています。
まだ日本では深刻に捉えている様子でもないのですが、機械の進歩と生活の便利さへの欲求は止まらないわけですから、来年に向けてテレビ広告のあり方の見直しが、広告主側でも、広告代理店側でも出てくると思います。(テレビ局は、今のあり方をあまり変えたくないようですが...)
3つあげてみたら「メディアの構造変革」というテーマが
全体的に、メディアの大きな構造変革の進行を感じる1年でした。この流れはきっと変わることはないので、来年はもっと顕在化した何かが見られるかもしれません。
では、来年に期待して。みなさま、良いお年を。