広告代理店の現場からみた読書案内

広告・マーケティング関連の書籍を、広告業務の一線で働いている立場から紹介・書評します。

October 2005

 「プレゼン」...広告業界にあまり馴染みのない方に説明をしますと、「プレゼンテーション」の略で、広告会社がクライアントに対して比較的あらたまった場で行う、自社プランを説明して採用を働きかける機会を言います。「プレテ」という人もいます。
 30分から2時間程度時間をもらって、2〜3人から、多い時には会議室を埋め尽くす20人以上の人に対して、いかに自分たちの提案内容が優れているのかをいろいろな手段を使って説得するわけですが、これが成功するか失敗するかで(つまり採用・不採用により)数十億円のアカウント(仕事の扱い)が左右されることがあるので、大変重要な機会です。

 そうしたものですから、広告会社にいる人は当然プレゼンを大切に考えているわけですし、プレゼンが上手な人(つまりその機会を上手に演出できる人)は、会社の中でも高い評価が与えられることが多いと思います。
 それだけ重要なプレゼンですから、他の人、とりわけ広告業界で活躍している人はどんなプレゼンをしているのだろう、ということは興味があります。あまりそうした話は表に出て来ないし、他社のプレゼンを見ることも通常ありません。自分に参考にできる部分があれば参考にしたいし、単純にのぞいてみたい気もします。

 今回紹介する本は、主に広告業界で活躍する19人のクリエイターが「私のプレゼン」をさまざまな角度から語ったアソート集です。
 読んでみて、なるほど〜、と興味深いところがいくつもありました。
 ちなみに、クリエイターの話なので、クリエイティブプランを提案する話がメインとなっています。これ、同じプレゼンに望むにしても営業やプランナーの立場ならば、まったく別の話があると思いますが、それは置いておきましょう。

 以下、印象に残った偉大な先達たちの金言(?)をいくつかピックアップしました。

・岡康道氏(タグボート)
 「うまいプレゼンなんかいらない。いい企画を考えることが重要だ。」(p40)
 「プレゼンが迫ってきたらやることはひとつしかない。直前までもっといい企画はないのか考えることだ」(p41)
 
 いいですね。一つ二つ出てきたアイデアに最後まで縛られてしまう人って、クリエイターに限らず少なくないと思うのですが、直前まで油断せず考え抜くことは大事にしたいです。意外と後からいいアイデア出ると、前に固執していたアイデアが陳腐に見えたりしますから。

・中島信也氏(東北新社)
 「パワーポイントを使った説明が始まると、突然プレゼンそのものがつまらなくなる。内容も理解できなくなってしまう。(中略)なぜ、つまらないと感じるのか、それは、プレゼンの主役が『資料』になってしまうことが最大の原因でしょう。」(p49)
 パワーポイントがイヤだという声は、おおむね共通していました。クリエイターは特にそうでしょうが、プランナーも心に留めるべき言葉ですね。

・團紀彦氏(建築家)
 「大切なのは、自分の意図を理解してもらうことではなく、クライアントが積極的に参加してくれる姿勢になることです。いわば、提案者である私たちの手を離れて、クライアントが内容に対していろんな解釈をして、イマジネーションを働かせながら参加してくれる状況を作り出すこと。」(p78) 
 團氏は建築家ですが、広告業にも全く当てはまる話です。こちらが詳しい説明をしないでも、聞き手がこんな風な効果がありそうだとか、こんな風に使えるとか、勝手に考え始めた時、それは提案物が送り手と受け手の共有物になった「いいプレゼン」の瞬間だと思うのです。こうなれば、間違いなく採用されそうです。
この話は、19人の中でもとりわけ大切にすべき視点だと思いました。

・佐々木宏氏(シンガタ)
 「ちょっとダサいですが、ぼくにとってプレゼンは『プレゼント』という感じがするんです。リボンをつけて人に贈り物をするのと同じで、靴下を欲しがっている相手に、そのままの靴下をわたしても、『私の欲しいものが買ってあったのね』程度の反応でしょうが、靴下型のダイヤモンドだったりとか、靴下だけど、その中に意外なものが入っていたりとか、ちょっとした工夫をしてあげれば喜んでもらえますよね。そのちょっとした工夫が、自分がひと晩徹夜をすることでできるならば、やってみたいと僕は思う。」(p89)
 正直言って「靴下」の比喩はわからないのですが(苦笑)、プレゼンはプレゼントという発想はいいですね。私も人にプレゼントを贈ることは好きで、悩んで工夫したりするもの好きなのですが、そう思うとプレゼンも相手に喜んでもらえるようする、という視点で工夫できると思います。「相手本位」というのは商売なら何でも大切な態度ですしね。

・多田琢氏(タグボート)
 「クライアントの方針はもちろん重視しますが、相手の好みなどはあまり考えない。要するに、どういうものが通りやすい、ということは考えないんです。そうではなくて、相手にとって一番必要なはずのものを提案したい。いい寿司屋は、お客さんの好みを事前に調べたりしないで、とりあえず一番いいネタで勝負しますよね。それと同じです。」(p133)
 私は多田氏のこうした主張に賛成ではなくて、むしろ反対です。お客の好みをさりげなく聞き出してネタを出してくれる寿司屋の方が、本当のいい寿司屋なんじゃないかなぁ、と思うからです。しかしいいアイデアで勝負をすべきという考えは、本当に優れたクリエイティブを生み出す秘訣として傾聴すべきだ、とも思うのです。特に広告がつまらなくなったといわれる今日においては。

・小沢正光氏(博報堂)
 「もちろんお客様(注:たぶん消費者)の声もよく聞きますし、クリエイティブの声を聞くのも当然ですが、最もその商品のことを考えているクライアントの声を聞けというのがぼくの主義なんです。だいたい、そのなかに答えがあります。」(p139)
 「企業のトップが考えていないことが切り口になるというケースは、まずありえないと思います。そんな企業はつぶれますよ」(p142)

 本の中で、多田氏と小沢氏は続けて紹介されているのですが、制作方針は真逆とも受け取れます。クリエイティブのやり方に決まりはないということを感じさせる上で、この対比は編集の妙ですね。私自身は小沢氏の発想に近しいものを感じますが。
 
 みなさんそれぞれ自分の考えや秘訣を持っていて、引き込まれます。「プレゼン」というものが身近な人にとっては、多くの発見があるのではないかと思います。

 さて、一人ひとりアプローチは個性もあってさまざまなのですが、そうした中にあって、奇妙なくらい、ほぼすべての人が共通して主張していた内容が一つだけありました。
 「競合コンペ」についてです。

 代表して、柴田常文氏(博報堂)の意見を紹介します。

 「大きなビジネス案件になると、ズラーッと何社もが競合でプレゼンするわけです。確かに、その中のどの会社が最もよく自分たちの悩みを聞いてくれるのだろうか、広く叡智を集めたい、という気持ちはわかります。でも取り組む側にすれば、いかにコンペに勝つかが優先になって、クライアントやその商品のことが二の次になりかねません。(中略)結果的に勝ったのはいいけど、物が売れなかった、広告がつまらなかったという事態にもなりかねないわけです。
 いいキャンペーンを長く続けている企業というのは、クリエイターとクライアントの信頼関係が非常にしっかりしています。膝を突きあわせて侃々諤々やる仕事のほうがうまくいくわけで、ぼくは競合のプレゼンというのはなくなればいいと願っていますけれど。」(p160)

 
 同感です。残念ながらわれわれも人間ですから、お客さん(クライアント)のことを考えた提案より、勝つための提案を優先することがあります。それに何より、競合コンペでは、お客さん課題や悩みを理解しきれないまま短期間で企画を立てなければならないことが多く、そうして作ったプランは、結局は無駄になることが少なくないですし、そのまま実制作に進んでもお客さんの課題に答えたものにならないリスクが高いと思います。
 このブログをご覧になっている方で、広告主の立場の方がいらっしゃいましたら、競合コンペの弊害について真剣に考えていただきたいと思います。

 いいキャンペーンのために大切なのは、出てくるアイデアの数ではなくて、信頼関係の強さだと、私は絶対思いますから。

☆眞木準編「ひとつ上のプレゼン。」(2005年)インプレス

ひとつ上のプレゼン。

 最近はやりの「コンテンツ」ですが(このブログでも以前「コンテンツマーケティング」という本を取り上げました)、ひと口に「コンテンツ」といってもいろいろな側面があります。一般的には無形の創作物(映画・音楽・アニメなど)がイメージされると思いますが、同時に複雑な権利関係が絡み合った扱いに細心の注意を必要とする著作物、という側面も持っています。
 今年の春ライブドアによるフジテレビの、そして最近(2005年10月)では楽天によるTBSの買収・経営統合問題が話題になりました。ポータルサイトを運営する企業にとって、放送局が制作・保有するコンテンツが、サイト利用者を増加させ、収益を拡大させるものとして魅力的なものになっているに違いありません。しかし、彼らが常に主張する「IT(通信)と放送の融合」というコンセプトに対しては、業界の多くの人が冷ややかに見ていたのも事実です。それは放送コンテンツ、特に過去のものは権利関係が複雑で、単純にインターネットに乗せられるようなものではない、ということがわかっていたからでした。

 昨今のように広告ビジネスの中でコンテンツを扱うシーンが増加して来るにつれ、その著作物としての法的側面に対してより注意深く対応することが求められてくるでしょう。ましてやコンテンツがデジタル化され「One Source Multi-Use」と呼ばれるような、インターネットを始めとしたさまざまなメディア展開が技術的に可能になって来ている中では、法的に何が出来てて何が出来ないかを知り、将来起き得るあらゆるケースを想定して事前に契約を取り交わしておくことは、自らのクライアントや、己自身を守る上でもとても重要だと言えます。もともと「広告マン」と呼ばれる人の中には、法律など難しい話はチョット苦手(^^; ...というような人が少なくないと思います。しかし、不注意にコンテンツを扱い「すいませんでした。何も知りませんでした...」ではすまない時代です。この分野においては無知であることは罪であるのです。

 今回紹介する本は、こうしたコンテンツビジネスにまつわるさまざまな法的な問題について、「著作権」(著作権法)を中心に据えながら、その概念や、実務上の問題点と対応法などを、実際の判例やアメリカのケースなどを通じてわかりやすく解説した本です。具体的には、著作者の問題、著作隣接権の問題、二次的著作物の問題、放映権や頒布権の問題、利用上の問題、海外利用の問題、保護期間の問題...などで、コンテンツビジネスに関して法的に問題になりやすい諸問題が網羅されていると言えそうです。おまけに、その取り上げられている判例が、宇宙戦艦ヤマト、キャンディキャンディ、ウルトラマン、ミッキーマウスなどについて争われた裁判のケースだったりするので、とても親しみやすく、そんな裁判があったのか!という意味で興味深くも読める本です。
 内容自体は抽象的・専門的な部分が少なくないですが、コンテンツビジネスにおける著作権のような世の中的にホットな話題を、一般の人でも興味を持って読めるように書き下ろされた本という意味では画期的であるし、意義深いと思いました。

 著者の八代英輝氏は、TBS系列日曜朝の番組「サンデージャポン」レギュラーメンバーのイケメン弁護士として知っている人も多いと思います(私も番組の中の紹介でこの本を知りました)。元判事で、日本の他にニューヨーク州の弁護士資格を持ち、こうしたコンテンツビジネス領域を中心に日米を股にかけて仕事をしている、と番組では紹介されていました。

 ざっとこんな感じの本なのですが、個人的に興味を引かれたのは、「第4章 コンテンツ資金調達の問題」でした。これは最近の不動産における証券化ビジネス同様、将来コンテンツから見込める収入に基づいてコンテンツを証券化し、広く投資家に販売することで、資産の流動化や資金調達をするというビジネスモデルです。
 広告代理店の収益環境が、コミッションビジネスの限界とともに厳しくなりつつあるという話は、以前コンテンツビジネスに触れた時もしました。広告代理店としては収益源の多元化というのが、どの代理店でも喫緊の課題だと思うのですが、こうした金融ビジネスに取り組んでみるのも面白いのではないかなあと思います。既に日本でもいくつも事例があるようですが(例えば、「SHINOBI」「北斗の拳」の映画ファンド、
アイドルファンドなどが実際に登場しています)、過去のコンテンツ(古いアニメや、映画など)についても、その財産権を証券化できたら、どこかに眠っていたような遊休資産が一気に宝の山に変わり、ちょっとエキサイティングです。もっとも今お金を生まないものが、証券にしたからといって売れるわけないかも知れませんが(笑)。

 ただコンテンツの証券化を紹介したこの章、そのビジネススキームのメリットもいろいろ紹介されていて、本当に興味深いものではあるのですが、全体の他の章に比べると、何だかとても肩に力の入っている感じを受けました。「証券化の際の法律相談は、是非私に!」ということなのかな? 著者は個人的に興味があるのでしょうね。それはそれでいいことでしょうが。

 最後にもう一つ。この本で「ブログの著作権」について興味深い指摘がありました。以前この話題もこのブログで取り上げましたが、その時は、ライブドアがブログの口コミ情報をネット関連企業の「ガーラ」に独占的に提供するという発表に対して、ライブドアでブログを書いているワタシとして「ブログの著作権はどうなっているのか??」と文句を言ったわけでした。しかし、この本によると、

 「2004年11月12日、ポータルサイト大手のライブドアが、自社が運営する『livedoor Blog』の利用規約について、コメントやトラックバックについてはライブドアがユーザーへの通知なしに無償で利用できること、ユーザーはライブドアに対して著作権等を行使しないことを内容とする改正を施し、多くのユーザーからひんしゅくを買ったのは記憶に新しいところです。」(p88)

 う〜ん、そうだったのか。そんなこと知らなかったし、そんな規約は読んだ覚えはありませんが...。そんなこと知ってたら、ライブドアではブログを始めなかったかも知りませんね。

 まさに、無知は罪です。

☆八代英輝著「コンテンツビジネス・マネジメント」(2005年)東洋経済新報社

コンテンツビジネス・マネジメント

 「インターネットの世界は気がついてみたら知らない言葉ばっかりになっていて、もう何がなにやらさっぱりわからないよ!!」...会社の中で“ベテラン”の域に達しているくらいの年齢の人の中には、会社の帰りの居酒屋でちょっとWEBに詳しい同僚を相手に、こんなグチをこぼしているような人、案外多いのではないでしょうか?
 
 しかし、メールやネットを使いこなしているような若い人でも、案外と中身については何も知らなかったりしますから、オジサン方はびくびくする必要はないのですが、まあ確かにインターネットビジネスの世界では、新しい機能や言葉がどんどん生まれていて、うっかりするとたちまち浦島太郎状態になってしまいますから、きちんとお付き合いをするのも大変です。
 とはいえ、例えば仕事で必要があってインターネットの世界にかかわらざるを得なくなったとき、知らない、関心がない、わからないでは済まされません。

 今回紹介する本は、まさにそんな人のための本だと思いました。

 この本の著者木村達也氏は、これまでコトラーやブランド関連の本の翻訳などを手がけているマーケティングの先生ですが、筆の運びから想像するに、恐らくご自分で「今のインターネットを使ったマーケティングとはどうなっているのだろう?」と感じたことが出発点で、自分で調た結果を自分なりにまとめた、という形で本を記されたのではないかと思います(間違っていたら済みません)。その意味では、まさに著者自身が「そんな人たち」の代表であり、それゆえ「そんな人たち」にとっては親しみやすいのではないかと思います。

 そういうことに関連して、この本の内容も次のような視点で書かれていて特徴的です。

 「インターネット・マーケティングの目的は、これまでのマーケティングとなんら変わるものではありません。企業をはじめとする組織が、競合とは異なる価値を創造、提供することで顧客との間の最適なマッチングを実現し、さらに顧客との長期的な関係を構築することで、双方の付加価値を最大化するための活動そのものなのです。そして、本書で述べるインターネット・マーケティングとは、情報技術としてのインターネット環境をもとにしたマーケティングの発想とそのための展開、および利用全般を指しています。」(p3「まえがき」きより)

 つまり、最新のインターネットビジネスそれ自体を単に紹介するというのではなく、マーケティングにおける新しいツールの一つとしてどう位置づけたらいいのかという課題への回答込みで紹介するという視点です。「インターネットを使ったマーケティングを、既存のマーケティングのフレームで分析し、これまでの他の方法との違いを紹介する視点」と言い換えてもいいかもしれません。

 既に、アフィリエイトやブログなど、一般のわれわれにとっても身近なインターネットの新技術やサービスを使って出来るようになったことはさまざまに紹介され、それをテーマにした類書も多いと思います。しかし、インターネットで出来ることを「マーケティング」というフレームの中に置き直して、分析してみるという視点を持つ本はあまりないのではないでしょうか。そうした意味で、この本はユニークですし、他と違う価値があると思います。

 構成は、
・インターネット・マーケティングにできること(これまでと何が変わり得るのか)
・インターネット・ビジネスの特性(従来のビジネススタイルとの違い)
・インターネットをマーケティングに活かす(調査、コミュニティなど)
・マーケティングミックス戦略(EC、広告など)
・インターネット・マーケティングの将来像(課題など)
 からなっています。

 このようなことですので、この本は「入門書」という位置づけですが、読み手としては大学生や新社会人のようにマーケティングもインターネットもまったくの初めてという人より、ある程度マーケティングの領域で仕事をし、マーケティングのバックグラウンドがある人で、「あれ、インターネットでのマーケティグって、今どうなってんだっけ?」と疑問を持ったような人向きなのだと思います。
 反対にマーケティングのバックグラウンドのない人や読むと、マーケティングの概念を考えながら読む必要があるので、多少難しいかも知れません。

 もっともインターネット技術・サービスの動きはとても早いので、この本の内容がいつまで鮮度のあるものか、というのは今の時点では予測できない、という問題点もはらんでいます。これはインターネットを紹介するすべての本に共通することでしょうが。少ないとも今の時点(2005年10月)では、価値のある本だと思います。

☆木村達也著「インターネット・マーケティング入門」(2005年)日本経済新聞社(日経文庫)
インターネット・マーケティング入門

 先日衆議院総選挙が終わりましたが、最近の選挙では、PR会社の介在がよく話題になります。今回は自民党がプラップジャパンを、民主党がFHJ(フライシュマン・ヒラード・ジャパン)をそれぞれ採用し、PR活動に当たらせたとされています。プラップジャパンは日本のPR業界の大手で、FHJはオムニコム系のPR会社Fleishman-Hillardの日本法人にあたります。両党がそれぞれPR会社を使ったので、プラップvsフライシュマンの代理戦争のように言われました。
 選挙結果からすると、今回はプラップジャパンの圧勝ということになるのかもしれませんが、民主党側のFHJという会社、実は前回(2003年)の衆議院選では「マニフェスト」という概念を導入して民主党の躍進に一役買った実力会社でもあります。

 そのFHJが書いた著作を見つけたので読んでみました。それがこの本です。

 前々回に同じPRがテーマの本(「クチコミで動かす」)を紹介しましたが、これがPR活動の中でもメディアリレーションのHow toに特化した、いわば「戦術論」だとすると、これはPR戦略を真正面から取り上げた「戦略論」に当ります。しかしながら、内容は平易(簡単ということではなく、分かりやすい)で、ケーススタディやイラストなども効果的に取り入れられており、読み終わる頃にはPR(ビジネスコミュニケーション)という領域の可能性や面白さを感じることができるのではないかと思います。

 さて、先ほど「PR戦略論」の本と紹介しましたが、そういう言い方は間違いではないにしろ、ひょっとしたら本書の狙いを少しはずしているのかも知れません。私は読み始めたとき、タイトルにPRの文字がないのを不思議に思い、読者に対して不親切だなだなと考えていました。しかし読み終えて内容を反芻するうちに感じたことがありました。それは、「これはPRの本だが、狙いはPRの説明ではない。『コミュニケーション』というサービスをいかにマーケティングするのか、という課題を説明した本だ」ということでした。

 通常、広告業で言うところの「コミュニケーション戦略」とは、マーケティングの4PのPromotionに属する分野を指します。つまり、ある商品・サービスを知らしめ、購買意向を喚起し、売上げを伸ばすための手段です。しかし、この本で言っているのは、「コミュニケーションサービス」というもの自体が商品であり、卓越した「コミュニケーションサービス」提供のためには、それ自体をマーケティングする必要がある、ということのようです。そのために、コミュニケーションサービス自体の4P的なマーケティングミックスも考えていく必要があるということも言っています。

 実際、この本の冒頭の部分では「コミュニケーション」の定義から始まっています。

 「コミュニケーションとは本来、メッセージをぶつけることによって、相手に影響を与えて動かす行為だ。影響を与えるつもりがなかったり、影響を与える仕組みになっていないコミュニケーションは、コミュニケーションとは言えない。」(p14)
 「ふだん私たちが行っているコミュニケーションというのは、次の四つの要素から成立っている。.咼献優垢量榲、対象となる相手、H信するメッセージ、ぅ瓮奪察璽犬瞭呂永、である。これらの要素のいづれかが欠けても、コミュニケーションは成立しない。」(p14)


 こうした捉え方は、通常のコミュニケーション論などの捉え方とは大きく異なっています。あくまで、ビジネスとしての「コミュニケーションサービス」が前提にあるからだと思います。そして、上に書かれているような 銑い陵彖任4Pにあたるものなのかも知れません、

 こうした視点はなるほどな、と考えされられました。広告代理店でも、普段からこうした視点でものを考えているわけではありますが、ここまで意識的に「コミュニケーション」ってなんだっけ? ということを考えることはないと思います。
 マーケティング4Pの1つとしての「コミュニケーション」の捉え方よりずっと深味のあるもので、われわれもこうした視点を考えてみる必要があると思います。「商品としてのコミュニケーションサービスの質を高める」という考え方に立てば、優れた広告表現を作って露出すればいいということではなくなりますし、近年のホリスティックなコミュニケーションサービスの考え方の理論的根拠にもなりえます。

 こうした説明が冒頭部分にありそこだけでも面白いと思ったのですが、読み進めていくと、さまざまなコミュニケーションの手法が紹介されていて、それの一つ一つが興味深いものになっています。例えば中立的「第3者」使うことでメッセージに信頼性を持たせるような方法(単なる新聞・雑誌での記事化だけでなく、NPOを使ったりする事例があるので注目です!)や、商品が解決する「問題」を顕在化させ、商品の注目度と価値を高める手法――例えば洗濯物にはばい菌がたくさん付着していることを世の中に浸透させることで、除菌成分入り洗剤の価値を高めようというような方法(イシューブランディング)――というような方法論が事例と共にバッチリ紹介されています。
 本書の帯に「すべての経営者、マーケター、広報・宣伝担当者、必読!」とありますが、決して大げさではないと思いました。少なくとも、ビジネスコミュニケーションサービスの領域で「プロ」であろうとする人にとっては、読んでおいて損はない本だと思いました。

 さてまた最初の選挙の話に戻りますが、週刊誌などでは、「外資系PR会社への丸投げ」が民主党の敗因の一つとして叩かれていました。しかし、それはちょっとPR会社がかわいそうだと思います。今回はどう考えても岡田前党首の民主党執行部の「コミュニケーションセンスのなさ」だったのではないでしょうか。まず、一度公にした「もっと大事なことがある」という選挙キャンペーンを、公示直前に「日本をあきらめない」という言葉に党首の判断で替えた、というあたりからして、党内の意思疎通の悪さと党首の頑迷さが見て取れます。まさに新聞のステレオタイプの言葉を借りれば「国民不在」なわけです。改善(?)したはずの、「日本をあきらめない」という言葉も意味不明だし、オンエアされたCMもかなり???でした。
 今回の選挙は小泉首相の話題づくりばかり目立ったようでしたが、それ以上に、私は民主党の不甲斐なさを感じた選挙でした。
 民主党の場合、PR会社がコントロールしようと思っても、言うこと聞いてもらえなかったのが実情だったのかなー、と思っているのですが、どうなのでしょう?

☆玉木剛、本田哲也著「影響力」(2004年)ダイヤモンド社

影響力小さな情報から「ブーム」を生み出す7つのマーケティング発想



2006年6月3日追記

 4月に就任した民主党の小沢一郎党首は、民主党とフライシュマン・ヒラード・ジャパンとの契約を打ち切ったそうです(FujiSankei Business i. 2006/4/8)。昨年の総選挙での敗戦が理由のようです。

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