広告代理店の現場からみた読書案内

広告・マーケティング関連の書籍を、広告業務の一線で働いている立場から紹介・書評します。

May 2005

「アンチ広告」の本を2冊続けて紹介してきましたが、この本もその流れに位置づけられます。私と同業者の人の著作です。

まずこの本は2003年の本ですが、「はじめに」に書かれている以下のことが、現在の広告業界における共通の問題意識と言えます。

1990年代からはインターネット・携帯電話などのパーソナルメディアやデジタル放送などの多メディア化が進み(中略)、これまでのマス広告に偏ったコミュニケーションのあり方への疑問も高まり、近年、世界中で新しいマーケティングの手法の模索が一斉に始まっている。(P1)

この本ではこの問題意識への著者なりの回答として「ライブマーケティング」という概念を提案しています。

“ライブマーケティング”では、「マスメディア主導で、非マスメディアで補完する」という従来のマーケティングフレームとは逆の発想をもとに、メディアの「フレーム」を定めている。つまり非マスメディアによる体感性創出がコア(主導)で、それをマスメディアで補完するのである。(P56)

この主張は以前紹介した「ブランドは広告では作れない」という本の主旨に似ていますね。こうしたコンセプトは今の時代、非常に考慮すべきコンセプトだといえるのです。

他にこの本には「T型志向生活者」など彼らの若者研究から導かれたユニークな概念も提唱されていますが、私がここで取り上げて紹介したかった最も大きな理由は、この本の「非マス広告」についての豊富な事例です。

例えば、数年前に「BMW Films」というのが話題になりました。これはBMWのサイトだけで見られたショートフィルムで、その後のショートフィルムブームのさきがけになったものです。
このショートフィルム、制作料が噂では5億円かかったと聞いていましたが(通常のCMは高くても数千万円)、WEBサイトだけでしか見せないものに、そんなに大金をかけてどうするのだ? と当時思っていました。
しかし、この本によるとBMW側は、そもそもBMW購入者の85%は事前にWEBサイトを見るから、そこで魅力的な体験を提供するのが重要で、それで十分ペイすると考えていたようです。

なるほど、と思いました。

こうした事例や裏話が、手際よく分類整理されています。

こんな簡潔にまとめられた事例があれば、「いやぁ、最近では非マス広告に注目するのがトレンドなんですよ。こんな事例がありまして...」というお客さまへのセールストークの際のネタ本(笑)にバッチリです。

ただ「マス広告」をあんまり否定すると、実は今の日本の大きな広告代理店はすべて自分の首をしめる事になるのですが。


★田中双葉、小野彩「ライブマーケティング」(2003年)東洋経済新報社

ライブマーケティング―「見せる」広告から「まきこむ」広告へ

前回PRの機能について取り上げましたが、実際に優れたPR業務をしている会社をとりあげた本を紹介します。

「サニーサイドアップ」...
「中田英寿」選手のマネジメントをしている会社として、知っている人は知っている会社だと思います。中田選手の他に、北島康介、杉山愛など一流のスポーツ選手のマネジメントをしていることが本書でも紹介されています。

実は私は不見識にも、そういうスポーツ選手などのマネジメント会社としては知っていましたが、本来はPR会社として出発しているそうで、そうした側面は知りませんでした。

本書では、彼らの業務の2本柱である、PR業務とマネジメント業務について、実例を取り上げつつ紹介されています。

前回『ブランドでは広告はつくれない』という本を紹介しましたが、この本の注目点は、実際にPRを通じてブランドを作っていく事例が紹介されていることです。例えばそれは、「東ハト」再建の過程で成し遂げた「キャラメルコーン」のリニューアルや「暴君ハバネロ」の市場導入で見られるものであり、個人を「ブランド」として作り上げ、それをマネジメントするという意味では「中田英寿」のマネジメント過程がまさにそれにあたります。

「広告を使わないでブランドを作る」ことへの、一つの答えがあると思います。またPRといえども、ただ記事として露出されればいいというわけではなく、広告表現を作るのと同様(あるいはそれ以上の)、戦略性やアイデアが大事だ、ということも感じられます。そういう意味で学ぶところが多く一読をお勧めします。

しかし、彼らのような仕事は、大きい広告代理店ではなかなか難しいのですよね。彼らの仕事が「うらやましい」と思いつつ、「当社では難しい」と感じる広告代理店の人、多いと思いますよ。絶対。
なんとかせねば...

★峰如之介著、山崎祥之監修「サニーサイドアップの仕事術」(2005年)日経BP

サニーサイドアップの仕事術

さて、最初に取り上げたのは、自分の仕事を否定するかのような、刺激的なタイトルの本です。

実は「広告」の限界、というテーマは少し前からいろいろな形でなされていて、今もその風潮は収まっていません。その中でもこの本は原題が“The Fall of Advertising & The Rise of PR(広告の落日、PRの台頭)”となっているように、特に「PR」の意義を述べたものです。
 *PRとは新聞・雑誌などに「記事」として掲載される商品の情報です。

「よくよく考えて見れば、ヒット商品は,最初に派手な広告なんかやってないじゃないか。雑誌や新聞の記事に取り上げられて、次第に話題になったものばかりだ!」と言われれば、広告代理店としては立つ瀬がありませんが、そういうケースも実際には少なくありません。例えばスターバックスはテレビ広告をまったくやらずに成功しましたし、反対に数年前の「.COM」ブームの時は、たくさんのIT系企業がテレビ広告をしましたが、それが今や無残なほど残っていません(堀江社長が買収する前の「ライブドア」も派手な広告をしていましたね)。これは日本もアメリカも同じようです。

 無名から有名になるにはどうしたらよいだろうか。広告でそれを達成するには困難を極める。これには2つの理由がある。一つは広告が信頼されていないこと。もう一つは聞いたこともないブランドは信頼されないということだ。(P81)

つまり、「広告には決定的な欠点がある。それは『信頼されにくい』ということだ。一方記事には信頼性を持ってもらえる」。著者のアル・ライズ、ローラ・ライズはこのように主張します。記者・編集者といった第三者が介在する方が、客観性があるということのようです。しかし、だからといって広告それ自体を否定するのではなく、広告とPRの役割について次のように主張します。曰く、
「最初にPR、次に広告」

新しいブランドを市場に導入したいのならば、最初は信頼性のあるPRによって世の中にブランド名を浸透させ、次に広告で広めろ、というわけです。そしてその反対はダメだと。もっとも、消費者に信頼(支持)されない商品・サービスであれば、PRをいくらやってもダメであることは変わりないとは思いますが。

まあ、本書ではこうした主張を裏付ける事例が豊富に紹介されています。

ところで、この本の主張,まさに正論だと思うのですが、自分の担当しているブランドをうまく記事にしてもらうこと(PR)自体が一番難しいのですよね。私たちの仕事の現場でも、PRの重要性をみんなわかっていても、さてどうしよう? というところでいつも悩んでしまいます。


★アル・ライズ、ローラ・ライズ、共同PR翻訳監修「ブランドは広告でつくれない」(2003年)翔泳社


ブランドは広告でつくれない 広告vsPR

みなさんこんにちは。

仕事柄、広告・マーケティング関連の本は月に何冊も読んでいます。
現在、ある広告代理店の研究部門に勤めていて、新しい情報を得ること自体が仕事の一環だからです。

毎年、似たようなテーマでたくさんの本が出版されます。
厚くて高いわりに内容の薄い本から、普通のビジネス書なのに得るものの多い本まで、まさに玉石混交です。

いろいろな立場で本は読まれるのでしょうが、自分の頭の中の整理と、せっかく集めた情報を、広告(マーケティング)の一線で仕事をしている人たちに役に立てるように提供できればなあ、と考えブログを始めることにしました。

広告代理店や企業のマーケティング部門で働き始めて数年経ち、もっと勉強してみたいと思っているような人を想定して書いてみるつもりです。

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