広告代理店の現場からみた読書案内

広告・マーケティング関連の書籍を、広告業務の一線で働いている立場から紹介・書評します。

May 2005

インターネット広告市場が昨年(2004年)1,814億円に達し、とうとうラジオを抜いたと言われています(電通調べ)。この統計の中には企業が作るWEBサイトへの投資金額は含まれていないそうで、「インターネット」領域への企業投資額はもっとはるかに大きいようです。

インターネット広告については、日本に初登場したのが1996年だそうで、8年あまりでの急激な成長です。広告技術も進んでいて、かつては単純なバナー広告だけでしたが、最近はリッチメディアを使った、例えばホームページにアクセスすると画面の真ん中を絵が動くような(実にウザイ!)広告も普通になってきました。一方でGoogleのアドセンスのような手法により、われわれ普通の人がWEB広告の恩恵を簡単に受けることも出来るようにもなってきました。
実感としても、インターネット上の広告は盛況であり進化しています。

しかしこの本を読むと、さらに今ではいろいろなことが出来るのだ、ということを教えられます。著者の横山隆二さんはインターネット広告のメディアレップ(広告販売代理業)大手であるDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)副社長です。まさに第一線の立場から、インターネット広告の“いま”と“これから”について書かれたものです。

個人的に興味を感じたのは次の2点です。
1つは「行動ターゲティング」の概念。

そもそもインターネットというメディアは、ユーザーがその時の関心事の文脈を辿ってハイパーリンクしていくものであり、文脈(コンテキスト)を意識することは、広告に対する反応をより多く獲得するためにはたいへん重要なこととなる。(p118)

この考え方重要ですね。アメリカではこうした考え方に基づいた広告サービスが既に普及しており、効果も高いようです。この考え方に立つと、いろいろ面白いマーケティング企画が考えられそうです。
もっとも個人のアクセスログを元にターゲティングする技術だそうで、個人の情報が拾われているのは、ちょっと気持ちが悪いですが。

2つめは、この本の副題にもなっている「クロスメディア」という概念です。

複数のメディアを組み合わせて効果的なキャンペンを展開することを、従来「メディアミックス」と言っていた。これに対し、インターネットを組み合わせるメディアプランを「クロスメディア」と呼ぶ。足し算の「メディアミックス」に対して、「クロスメディア」は掛け算だという考え方だ。(p131)

私自身は十分なじみのある概念なので、フムフムと読みましたが、このブログで初回からずっと取り上げている「非マス広告コミュニケーション」あるいは「メディア横断的プランニング」という考え方に関心ある人は参考になると思います。特にインターネットをコアにした場合どんなことができるか理解できそうです。

難を言えば、多少全体的に広告コミュニケーションにおけるインターネットの役割・価値を伝えたくて肩に力が入りすぎている感じがしないでもないのですが、この領域を理解する格好の本だと言えます。

☆横山隆治「インターネット広告革命」(2005年)宣伝会議

インターネット広告革命―クロスメディアが「広告」を変える。

「口コミマーケティング」の新たな本をご紹介します。

前々回「ファンサイトマーケティング」という本を紹介しましたが、今回紹介するのは同じ著者、日野佳恵子さんの2003年出版の本です。前作に当たります。
しかし気づかされることが多く、とても参考になります。

特に参考になった点を3つに整理しました。

仝コミマーケティングに重要なのは「体験談」であるということ。

クチコミとは「他人の体験談」が聞けるというほかのメディアでは絶対にない説得力を持っている。(p67)

よい体験ができれば、自然と口コミも増えるという仕組みがあるわけですね。同じようなことは、「クチコミはこうしてつくられる」という本の著者のエマニュエル・ローゼンも言っていました。また、「うわさ」との違いについてもこんなことを言っています。

クチコミが体感型だとすれば、ウワサはすべてが伝聞型だ。(p88)

するどい指摘です。

口コミマーケティングは「コミュニティ」がベースであること。

多くの企業が挑戦してきたクチコミの仕掛けは、(中略)人が集まっている電車の中や球場で、わざとクチコミをするサクラの仕込み、流行らせたいファッションを着せた人たちを原宿や渋谷で歩かせる、といったような方法だった。(p92)
クチコミ情報の発信者に「接触」し、「生の声」を聞いた人たち。すなわち「第一次受信者」の数が多ければ多いほど、その情報はリアリティのある話題として外に広がり、クチコミの連鎖が繰り返されていく。(p91)


なるほど。多分、世の中のマーケティング関係者で「口コミ」というものを誤解している人が多いと思います。奇抜な服装の人を渋谷で歩かせて話題を集めるのも口コミ戦略の一種だとは思いますが、本質ではないということですね。日野さんが提唱するように、コミュニティ(あるいは一定の人間関係)があるから口コミが広がるわけで、マーケティング戦略としては「コミュニティ」に対してどうアプローチするのか、という視点抜きでは本質には迫れないということでしょう。

まさに「目ウロコ」です。(これが重要だからこの本の題名になっているのでしょうね。)

クチコミ効果テスト

口コミを「マーケティング」と捉える以上、効果を問われるのは宿命です。慈善事業ではないのですから、投資したお金がどう返ってくるのか(難しく言うとROIですね)、少なくともクチコミマーケティング仕掛ける側は(例えば広告代理店は)、お金を出す人(例えば広告主)に説明する責任があるわけです(これも難しくいうとアカウンタビリティですね)。この本の中ではいくつか実施した効果テストとその結果を載せており、参考になります。
とはいえ、いくらクチコミで広げることができても、購入に至るためには商品力が一番大事、という広告主さまにとっては耳の痛い指摘もありました。


日経ビジネスでも特集が出ましたから、今頃は、ウチの会社でも口コミだ!とお考えのところ少なくないと思います。(上司がそう言い出して困っている若手の方もいるかもしれません!)

しかし、口コミへのアプローチというのは、決して安易な話題作りではなくて、もっと地道なもののようだ、というのがこれまでいろいろ調べた私なりの印象です。

☆日野佳恵子「クチコミュニティ・マーケティング2」(2003年)朝日新聞社

クチコミュニティ・マーケティング2-実践編 あなたの会社がクチコミで伸びる!

「消費者を理解する」−これは現代マーケティングの基本思想です。しかし「消費者調査をしても結局通り一遍の答えしか出てこない」「消費者調査ではイケルという感触だったのに、実際には買ってくれなかった」...こんな問題意識を持つ人も多いと思います。本書でも「新製品の80%は6カ月以内に失敗する」という数字を紹介しています。みなそれなりに満を持して投入した商品ばかりだとは思いますが。

こうしたことについて、この本の著者ジェラルド・ザルトマン(ハーバード大学経営大学院心脳研究所〈Mind of the Market Laboratory〉所長)は端的にこう言います。
「消費者を理解するやり方がまずいのだ!」と。

例えばこんな主張をしています。(私なりの要約です)

「人の意思決定の95%は無意識的に行われる。残りの5%が意識的なものだ。しかし従来はこの5%を対象にした調査に終始していなかったか? 残りの95%の領域にアプローチしないことには、真の消費者理解などできない。」

過去10年間の間に、人間の脳や心に関する理解は飛躍的に増大したといわれます。この本では、近年明らかにされてきた新たな消費者像の上に立って、消費者(顧客)を理解することの必要性とその方法を示しています。

具体的には、人間は自分の考えを“メタファー”を用いて表現するという認識に立った、「ZMET」と呼ばれるビジュアル刺激を媒介とした消費者の無意識的な考えを探る調査方法や、調査で抽出した消費者の考えをマッピングして表現する方法などについて書かれています。さらに最新の方法論として、MRIなどで脳の反応を直接把握する調査法などについても言及しています。

全体として学術的かつ抽象的で理解が難しいと感じる人も多いと思います。今の調査方法の批判はわかるが、ではどうすればいいのか?という点についてもはっきり理解できる答えが書かれているわけでもありません。何か実務で使えるハウ・ツーがあるのか、という視点で読むと欲求不満を感じるかも知れません。

そういう意味でこの本は読み手を選びます。例えば「グループインタビューなど繰り返しても結局わかることなど限られているのだけど、クライアントがやれって言うし、時間もお金もないから仕方なしに(自分をだましだまし)やっている」という人、インサイトを導き出すにはどうしたらよいのか実は真面目に考えている人、最新の脳神経科学や認知心理学などの新しい視点から消費者を理解したいという人などには、悩みや問題意識をブレークスルーする上で大きな手がかりを与えてくれる本であると思います。

私個人としても非常に大きな刺激を受けました(ところどころ?な主張もありましたが)。今年上半期のマイベストと言える本です。

☆ジェラルド・ザルトマン著、藤川佳則、阿久津聡訳「心脳マーケティング」(2005年)ダイヤモンド社

心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press

最近クチコミの勉強をしています。(もちろん仕事です)

クチコミマーケティングにもいろいろな方法がありますが、今日紹介するのは、そのうち「コミュニティマーケティング」と呼ばれるものを紹介した本です。前回紹介した本(「クチコミはこうしてつくられる」)が理論篇とすると、これは実践篇です。
作者はハー・ストーリィの日野佳恵子さん。このハー・ストーリィという会社はいち早くクチコミマーケティングに取り組んだ会社らしく、Googleで「クチコミ」という言葉を検索するとたくさんの関連語が上位に出てきます。

さて、「ファンサイトマーケティング」という書名ですが、要は企業の会員サイトです。この手のサイトをうまく運営することは、企業のファンを作り、企業にとって望ましい「クチコミ」や「評判」を誘発するのに最適な方法と言え、ネット上のマーケティング手法としては、もはやトラディッショナルなものです。既に多くの会社がこの機能を持たせたサイトを開設していると思いますが、必ずしもうまくいっていないところもあるでしょう。
この本では、成功している事例の分析を通じて、その「成功のコツ」のようなものをまとめています。

そのエッセンスを私なりに要約すると「企業と顧客との絆づくりの場として位置づける」ということになると思います。「ブランドロイヤルティ」「企業ロイヤルティ」の重要性がずっと言われていますが、それを形成するための課題は人間関係と同じで、いかに企業が「顧客との距離を縮めるか」です。企業の会員制サイトは、顧客一人ひとりが参加できる、インタラクティブな関係が作れるなどの機能により、企業と顧客との距離を縮める場として最適であり、うまく活用しましょうということです。

さらにこの本では重要な指摘として、会員サイトを「広告宣伝」つまり企業からの情報発信の場として捉えるのではなく、むしろ顧客の声に耳を傾ける場と捉えるべきとも提案しています。企業情報を提供する窓口であるから、まずは自社の情報をいろいろ取り揃えて流したくなるのが人情ですが、WEBサイトの強みを生かす、顧客の声に耳を傾けることを重視すべきだ、という指摘はたしかにその通りだと思います。顧客の声をうまく生かすことができれば、商品開発のプロセスを変え、より消費者アクセプタンスの高い商品を生み出すことができる、という可能性も指摘しています。

まあ、昔ラジオ番組との共同企画による商品開発というのがありましたね。それ自体はメジャーにはならないのですが、開発の過程で消費者の声をうまく反映できれば、よりよい商品が生み出されるということもあるでしょう。「自分が作った商品」という気持ちも生まれて、人に薦めたり(クチコミ)、ファンになったりすることも期待できるでしょうから。

だから、こういうサイトでは訪問者に対する誠実さが絶対必要です。ウソ・隠し事・ぞんざいな扱いは絶対にいけません。必ず見破られますから。

この本、言ってみれば当たり前のことが書いてあるのですが、それをなかなかやり通すのはが難しく、でもやはりやる必要がある、というようなことをきちんと指摘していると思います。その意味で良書だと思います。

☆日野佳恵子「ファンサイトマーケティング」(2005年)ダイヤモンド社



ファンサイト・マーケティング

現在、「口コミマーケティング」がかつてないほど注目されています。
アメリカでは今年の初め「Word of Mouthマーケティング協会」なるものが設立され、有名大手企業が多数参加しているようです。日経ビジネスでも特集をしているのを見ました(2005.5.9号)

「口コミマーケティングって、渋谷の女子高生の“トレンドリーダー”(笑)に新しいチョコレートの口コミをしてもらったりするやつでしょ? 胡散臭〜〜い!」

これが、数年前までの常識的な広告マインドを持つ人の反応でした。

しかし時代は変わりつつあります。
携帯電話や、ネット・ブログ(まさにこれです!)の技術的進化により、フツーの人の発言が大勢の人に影響を与えうる環境が出来上がってきました。それにより、今まで「口コミ」の影響力の及ぶ範囲が、ある小さなコミュニティ(例えば学校の友人関係や会社のOL仲間など)内で収まっていたものが、地域を超え、一度に多いときは数千から数万人という規模に広がりました。それだけでなく、従来は「言い捨て」(その場限りの情報)であったものが、ネット上に「記録」され、いつでも参照できるようになったのです。
さらに一般には、そうした情報には「本音」があり、「信頼性」が高く、広告などで提供される情報よりも価値があると思われています。

そうなると企業はこうした「口コミ」を無視できなくなります。時には企業の意図とは関係なしにネガティブ情報が広まったりもします。そこで「口コミネットワーク」を利用して新しいカタチの広告宣伝をしようしたり、ネット上の評判をチェック、コントロールしようとするわけです。

それが「口コミマーケティング」が今注目される背景です。

この本は、口コミについての原理的な情報を提供してくれます。口コミを広める人とはどんな人か、口コミを広げる上で大切なこと、やってはいけないことなど。アメリカの事例ですが口コミにより効果をあげたケースなども紹介されています。

この本の元の出版年は2000年であり、今実際にネット上で行われているマーケティング活動は、既にこの本の内容を超えているかもしれません。しかし、人間の自然なコミュニケーション活動である「口コミ」の原理原則を理解するうえでは、有益な本だと思います。その意味でお勧めです。

しかし、最近知ったのですが、ネット上の「口コミマーケティング」というのは何でもありですね。法に反しているとは言えないまでも、情報操作すれすれ、完全にマナー違反のことが平気で行われているようです。何が信頼できるのか、本当にわからなくなります... みなさんが何気なく読んでいるネット上の情報も、誰かが操作している情報かも知れませんよ!!


★エマニュエル・ローゼン、濱岡豊訳「クチコミはこうしてつくられる」(2002年)日本経済新聞社

クチコミはこうしてつくられる―おもしろさが伝染するバズ・マーケティング

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