広告代理店の現場からみた読書案内

広告・マーケティング関連の書籍を、広告業務の一線で働いている立場から紹介・書評します。

 まただいぶ間が空いてしまいました。更新しない間でも、特にWEB関係の技術やサービスはどんどん進んでいく感じがしますね。例えばこのブログでもしばしば話題にしている「放送と通信の融合」問題でも、政府はインターネット通信(IP放送)を地上デジタル放送などと同時放送に限って著作権フリーにするという方向で動き出したようです(読売新聞5月31日)。小さな一歩でありますが、これらのことが積み重なって複雑な問題が解かれていくのだと思います。

 さて、今回もWEB2.0がらみの本を取り上げます。「WEB2.0」も専門家だけではなく、普通のビジネスマンの日常会話の範囲に入ってきたようです。最近もエコノミストで比較的まとまった特集が組まれていました。

 その中でも「RSS(RSSマーケティング)」に関する本を今回紹介します。

 「RSS」という言葉も、最近急に市民権を得た感じです。「半年ぐらい前は聞いたことあるくらいで何のことかさっぱりわからなかったけど、今は何となくわかる」 ...そう感じる人も多いのではないでしょうか。

 しかし、それでも「RSSマーケティング」というのはかなりニッチな感じがします。RSS自体がWEBコミュニケーションのツールとしてようやく普及し始めた段階なのに、もうマーケティングの道具、つまり金儲けの道具に使おうというのですから、ちょっと前のめりな感じがしないでもないですが、野心的な取り組みであることは間違いありません。

 それでもこの本を読むと確かにRSSの可能性に気づかされます(あくまでWEBコミュニケーションのツールとしての可能性で、マーケティングツールとしての直接的な可能性ではありませんが...)。

1.RSSの意義
 
 「1990年代後半からのインターネットの発展によって、私は『情報』に関して2つの大きな革命が起こったと考えている。ひとつはGoogleなどの検索サイトの進化やOvertureなどの検索連動型広告の普及に伴う情報の“検索革命”、そしてもうひとつが、ブログの普及に代表される情報の“発信革命”である。」(p8)

 ここまでの議論はみなさんおなじみの議論ですね。ここで言う「検索革命」の主役はYAHOO!、Googleなどの検索エンジン、「発信革命」の主役はブログ、SNSなどCGM(Consumer Generated Media)と呼ばれるメディアを活用した、普通の消費者の情報発信行動であるわけです。しかし、それに続けてこの本の著者の一人、滝日伴則氏は続けて主張します。

 「ただ、ブログ以外のウェブメディアを含めて何十ものウェブサイトの情報を読みこなすのは、ブラウザのブックマーク機能を駆使しても、非常に手間のかかる作業である。さらにせっかくアクセスしたものの、そのウェブサイトの内容が更新されていないこともある。時間と手間の両方であまりにもロスが大きく、決して効率的とはいえないだろう。
 そこで注目されたのがRSSである。」(p12)
 「RSSリーダーに、自分が取得したいブログのRSSファイルのアドレスを登録しておけば、更新された記事だけが表示される。これによりユーザーは、更新の有無を確認するためにわざわざブログなどのウェブサイトにアクセスする必要がなくなる。つまり、大量の情報を受信する時間を、大幅に削減してくれるのだ。」(p13)


 筆者はこれを、RSSによる情報の“受信革命”と名づけ、検索革命、発信革命に匹敵するWEB世界の大きな出来事と規定しています。

 もう使っている人も多いと思うのであまり説明しませんが、RSSはブログなどの更新情報などを発信するのに使われるXMLベースのフォーマットで、実際の更新情報を「RSSフィード」、RSSフィードを読み取るソフトを「RSSリーダー」と呼びます。

 確かにこの主張を聞くと、RSSというものが大きな革命のように思えます。RSSがWEBの情報が爆発的に増える中で手間をかけずに自分の欲しい情報が得られる手段である、と考えれば、大いに意義あるものです。Yahoo!などポータルサイトでもRSSリーダーを組み込むところが増えているし、マイクロソフトの次期IE7では、RSSリーダーが標準搭載になるとのことです。各社がこのサービスに注力するのも、RSSという機能の意義の大きさからでしょう。

2.RSSの特質...メルマガとの違い

 「情報受信の形態だけを見ればRSSは完全な『プッシュ型情報配信ツール』に見えるが、実情は少し違っている。(中略)更新された情報だけが自動的に表示されるという点では、RSSの役割はメールマガジンに似ているかもしれない。だが、情報収集手段としてのメールにはいくつかの問題点が生じている。そのひとつが、ほぼ無差別的に送りつけられてくるスパムメールである。(中略)一方のRSSは、あくまでユーザーが取得したいRSSを、RSSリーダーに登録して始めて配信される。(中略)RSSについて、よく使われるキーフレーズが『Consumer is in control』である。直訳すると『消費者が支配権を持っている』という意味になるが、RSSにおいては情報の受信決定権はあくまでユーザー側にあるため、企業が一方的に情報を配信することは不可能であるということ、すなわち、RSSが完全な消費者主導型メディアであることを意味している。」(p13-15)

 WEBを使って何か新しい情報を届けたいとき、受信者サイドではスパムメールでなくても、メール(メルマガ)であれば、次から次へと新しいメールが届き、忙しくてうっかりしていると読んでない大量のメールがメーラーに蓄積する、という自体が起きます。これは情報の発信側、受信側双方にとって都合のいいことではありません。しかしRSSならば更新情報だけ表示されるので、受信者は、読みたいときに読みに行けばいいので、受信者の負担はほとんどありません。
 RSSは、情報をメールで配信する行為に似てますが、まさに「消費者(受信側)主導」で、情報の配信がうけられる点で新しいものです。
 会社ではときどき、新聞の切抜きが回覧されてきますが、WEB上で自分の好きな記事を自動的に回覧してもらうような仕組みだといえるかも知れません。

3.RSSの媒体価値

 RSSが次期のコミュニケーションツールとして有望なものである以上、WEBサイトを運営する企業側では、RSSを活用したコミュニケーション戦略のありかた、というのが今後模索されるべきだと思います。この本にはそうした点にも若干触れられています。
 中でも、私自身興味を引かれたのは、RSSを(RSSフィード)を広告媒体として使おうという試みです。
 どういうことかというと、更新情報であるRSSフィードに、コンテンツマッチ技術によって関連ある広告(テキスト広告など)を表示させようという試みです。課金の方法はAdwords(仕組み的にはAdsenseの方が近いようです)などと同様、クリック課金を想定しているようです。「RSS広告社」という社名の会社まであるみたいです。
 まぁ正直言うと、ビジネスの先行きは今のところ?ですが、検索連動広告の盛り上がりを数年前までは誰も予測できなかったように、この業界では新しいサービスが数年後爆発的にヒットする、ということも十分あり得ます。
 新しい広告媒体として、その成長は見守っていきたいと思います。

 RSSのマーケティングツールとしての価値に関心のある方、あまり類書もないと思いますので、ぜひご一読ください。

☆塚田耕司、滝目伴則、田中弦、楳田隆、片岡俊行、渡辺聡著「RSSマーケティングガイド」(2006年)インプレス

RSSマーケティング・ガイド 動き始めたWeb2.0ビジネス

 この本、去年の10月に出版された本で、決して古い本ではないのですが、帯に「ライブドアVSフジテレビ」の次に来るものとは? など書かれているのを見ると、ずいぶん昔の本のような気がしてしまいます。

 この本は、このブログでもたびたび取り上げてきた「放送と通信の融合」をテーマにした本です。タイトルに「デジタル・コンバージェンス」とありますが、これは、

 「コンバージェンス(convergence)とは『収斂。一点に集まる』という意味であり、デジタル・コンバージェンスとは、デジタル技術の進展によって、通信と放送を含むメディアの業際が消えて融合することを指す。」(p2)

 とあるように、放送、通信などのメディアがデジタル技術により融合していくさまを表現しています。

 確かに、時代はこの方向に進んでいることは間違いありません。インターネットの無料配信GyaOの登録者数は900万を超え、5月中にも1千万に届きそうな勢いです。ネット業界の巨人Yahoo!も、動画ページで大量の無料動画コンテンツをそろえてきましたし、TV BANKというWEB上の動画の検索サービスも開始されました。今年4月にはワンセグ放送も始まり、携帯端末と放送との融合が静かに始まっています。またW杯が近づいていますが、インデックスなどはW杯のハイライトシーンのネット配信を予定しています。
 後から振り返ったとき、今年が「インターネット動画元年」になっているのは間違いないのではないでしょうか。

 ビジネスとして本当に独り立ちできるのかというのはおいておいたとしても、技術的にはデジタル化によるネットとメディアの融合がどんどん進んでいるのは事実でしょう。

 今回紹介する本も、その辺りに焦点を合わせている本ではあります。
 著者はデジタルハリウッド大学院大学の斉藤茂樹氏で、帯には「デジハリ大学院の講義をビジネスパーソン向けにわかりやすく書き下ろした一冊」とあります。

 ...というわけで、ある程度期待して読んだのですが、ちょっと著者の現状認識に賛同できなかったので、あまり読後感はよろしくありませんでした。
 そう感じたのは以下の点です。

 一つに、この本は一貫して「オンデマンドテレビ」の可能性について述べています。「オンデマンドテレビ」とは、視聴者が見たい番組をいつでも見ることができるという放送サービスのモデルです。
 しかし、今少なくとも私の知っている限り、放送と通信の融合問題を語る人で「オンデマンドテレビ」という言葉を使う人は、この著者以外聞きません。「オンデマンド」というのは、ちょっと前のブロードバンド放送が普及する前の言葉のような気がします。インターネット動画配信における「オンデマンド」というのは当然のものであり、あえてその言葉を使う必要がないからだと思います。最近では、むしろHDDレコーダーによるテレビ録画の方が、自由な時間にテレビを見られるわけで「オンデマンドテレビ」という名称にふさわしそうな気さえします。
 そういう古臭い言葉をあたかも重要キーワードのごとく堂々と使っているのが疑問を感じた理由の一つです。

 もう一つは、この斉藤氏はセットボックス型インターネットテレビの会社であるDNA社(デジタル・ネットワーク・アプライアンス社)の「でじゃ」を非常に高く評価して記述しています。それは斉藤氏がDNA社の取締役だからだと思います。しかし、このセットトップボックス型の動画配信サービスモデルは、今日のブロードバンド環境の一般への普及と、平行して進むストリーミング技術の進化の中で、将来性はあるのでしょうか? 少なくとも身近には使っている人を知りませんし、話題性の点でももはや???です。

 身内の会社のサービスを持ち上げるのは、自分の著書の中であれば別に構わないと思います。しかし、これが帯にある通り、「デジタルハリウッド大学院で行われている授業」だとしたら、デジハリ大学院は問題があるのではないですかね? 世の中の事情がよくわからない学生に洗脳するようでちょっと怖いです。

 大学というアカデミックな世界は、いい意味でも悪い意味でも商業主義とは一線を画していたために、経済活動に対して中立的な立場を従来とっていたのだと思います。規制緩和によって、企業の出資を受けた株式会社大学が生まれ、出資・支援企業の利害関係によって、大学で教えられることに極端な偏りが生じてしまうのならば、ちょっと恐ろしいことです。
 この本が、そのケースだとは言いませんが。

 全体にためにはなるとは思いますが、利害関係が入っている分だけ、差し引いて読むことをお勧めします。

 また、最近の放送と通信の融合問題についてのよいレポートが、このニュースサイトで読めますので、ご参照ください。

☆齋藤茂樹氏「デジタル・コンバージェンスの衝撃」(2005年)日経BP出版センター
デジタル・コンバージェンスの衝撃―通信と放送の融合で何が変わるのか

 「Web2.0」という言葉を最近よく耳にするようになりました。Webのバージョンアップとして新しく開ける未来を感じさせる言葉ではありますが、一方でジャーゴン(小難しい専門用語)の雰囲気をプンプン漂わせている言葉でもあります。
 もっとも、その意味するところを何となく感じ取ると、意外に便利な言葉です。今日も打ち合わせで、「それはWeb2.0的な仕組みで進めるといいと思う」などと自分でも使ってしまいました。全然伝わってなかったりして(苦笑)。

 それはさておきWebの世界ではホットなテーマであることは間違いなく、Web2.0をテーマにした本も何冊か出ています。今日はその中から最近読んだ2冊を紹介します。「ウェブ進化論」「Web2.0 Book」です。

 まず、そもそも「Web2.0」とは何なんでしょう? それぞれの本からそれを説明している文章を引用します。

 「Web2.0の本質とは何なのか。(中略)『ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービスの享受者でなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢』がその本質だと私は考えている。」(ウェブ進化論 p120)

 「Web2.0とは、『インターネット上でのこの数年間に発生したWebの環境変化とその方向性(トレンド)をまとめたもの』です。特定の技術やサービス、製品などをさすものではありません。第二世代のWebという意味です。(中略)ではWeb2.0時代のトレンドとはなんでしょう? それは『Webのネットワーク化、すなわち構造化が進む』ことです。」(Web2.0 Book p18)


 わかります? よく読めば何となくわかるような気がしますが、わかりにくいですよね。その大きな理由というのは、Web2.0というのが、何か具体的なモノを指し示す語ではなくて、Webに関わる大きな変化のあり方を指しているというところに起因するのだと思います。この2つの文章「Web2.0の本質とは」と「Web2.0とは」についても、全然違うことが書いてあるような気もしますよね。こういうところも、Web2.0がもともと抽象的な概念で、捉えにくいものだからだと思います。ただし、前者がより社会的な視点から、後者がより技術的視点から捉えていると考えることはできそうです。それは前者の著者梅田氏が主にコンサルタントとしてのキャリアの中でWebに関わってきた人であり、後者の著者小川氏と後藤氏がどちらも現にITベンチャーに技術的側面から関わっている人である、という立場の違いが反映しているのかも知れません。

 さて、1冊目「ウェブ進化論」ですが、これはWebの最近の動きがもたらすネット社会全体の大きな変化について書いた本であり、その動きの重要なキーワードとしてWeb2.0が紹介されています。Web2.0がタイトルになってはいませんが、Web2.0という言葉が表現しようとしてる、Webの新しい動きをまとめた本だといえます。
 全体の感想から言うと、新書で薄い本ではありますが、大変内容の詰まった良書だと思いました。非常に大きな視点から書かれていますし、内容もWeb2.0的なものがもたらす希望と課題の両面が語られていてバランスが取れています。Web2.0がらみで、私が漠然と感じていた違和感がいくつかあったのですが、それが解消されるような記述も随所にありました。あのSBIホールディングス北尾吉孝CEOが「ウェブ進化論を全社員の必読書にした」というニュースが流れましたが、それくらいされていい本だと私も思います。

 本書の中でも、いくつか面白いと思ったポイントをまとめました。

・Googleとチープ革命で情報環境が変わる
 ネットを通じて普通の人が情報を発信するコストは劇的に低下しています(チープ革命)。しかし彼らからネット上に発信された情報(コンテンツ)は玉石混交だったため、全体としての影響力はこれまで限られていました。しかし筆者は言います。Googleがコンテンツの価値付けを「民主的」に行う仕組み(Page Rank)を普及させたために、ユーザーは“玉”のコンテンツだけを選び出してアクセスすることが可能になった。その結果、ネット上の情報(消費者発信情報)の影響力が飛躍的に高まるようになるだろう、と。
 なるほど! 確かにネット上にころがっている情報は玉石混交です。そのままの形で情報が増え続けるだけなら、みんなネットから情報を得ることに価値を感じなくなるでしょう。Googleにそれをする明確な意図があるのかどうかわかりませんが、結果として「検索エンジン」というフィルターをかけることで、より人気のあるもの(=価値のある情報)とそうでないものとに分けられていくのでしょう。しかし本書で指摘しているように、もしGoogleが本気でそれを意図しているとしたら、Googleとは凄い会社であり、同時に怖い会社でもあります。

・デジタルコンテンツの著作権問題に見る、交わりがたき2つの立場

 「『総表現社会の到来』とは、著作権に鈍感な人の大量新規参入(ブログの書き手やグーグルのようなサービス提供者の両方)を意味する。新規参入者の大半は、表現それ自体によって生計を立てる気がない。別に正業を持っていて、表現もする書き手などはそういう範疇に入る。そして総表現社会のサービス提供者とは、『表現そのものの政策によってではなく、表現されたコンテンツの加工・整理・配信を事業化する』人たちで、既存の著作権の仕組みを拡大解釈するか、新しい時代に合わせて改善すべきだと考える。Web2.0はそういう方向性を技術面からさらに後押しするのだ。著作権をめぐるさまざまな議論が、感情的かつ平行線をたどりやすい真因はここにある。」(ウェブ進化論 p183) 

 そうなんです。デジタルコンテンツに関わる立場の人を2つに分けるとすると、制作者(クリエイター)と加工者(ネット配信等の事業者)に分かれると思います。私は仕事柄制作者側にシンパシーを感じるわけではありますが、同時に加工者側に対しては、彼らの無形の制作物(コンテンツ)に対するある種のリスペクトのなさや権利関係への鈍感さを感じてしまうときがあります。しかし加工者側は、普段はオープンソース環境でソフト開発を行っているような人であるのでしょうから、「作ったものは共有化してみんなでより良いものを作っていけばいい」「制約されるとやりづらい」という文化が体に染み付いているのかも知れません。そうすると彼らの考え方もちょっとは理解できるような気がしてきます。それでもそれがいいことだとは思えませんが。

・Web2.0のユーフォリア(多幸症)的雰囲気
 さらに、私が気になっていることは「Web2.0」が語られる時の、一種独特のユーフォリア(多幸)的雰囲気です。Web2.0を語る人は、ワクワクしてまさにこれから新しいことが始まるという高揚感と共に語っているようなことが多い気がします。決して悪いことではないですが、そうした雰囲気は批判を封じ込め、新しいことへ盲信や価値の押し付けを伴いがちです。
 だから私は、正面切って「Web2.0は...」というような言い方には違和感があるし、そういうことを言う人には胡散臭さを感じてしまいます。

 このことに関連して筆者はこんなことを書いています。

 「シリコンバレーにあって日本にないもの。それは若い世代の創造性や果敢な行動を刺激する『オプティミズムに支えられたビジョン』である。全く新しい事象を前にして、いくつになっても前向きにそれを面白がり、積極的に未来志向で考え、何かに挑戦したいと思う若い世代を明るく励ます。それがシリコンバレーの『大人の流儀』たるオプティミズムである。もちろんウェブ進化についての語り口はいろいろあるだろう。でも私はオプティミズムを貫いてみたかった。これから直面する難題を創造的に解決する力は、オプティミズムを前提とした試行錯誤以外からは生まれ得ないと信ずるからである。」(p247)
 
 私が違和感を感じるようなことを筆者は「日本にない、シリコンバレー流のよいところ」と言っているような気がします。そう言われれば、私も知らず知らず“守り”に入っているかも知れないと思いました。ちょっと反省です。

 こんな指摘をするあたりでも、この本はバランスの取れたいい本だと思うわけです。他にもWeb2.0的なあり方への課題提起的なテーマとして、Wikipediaを取り上げ、そこに見られる「信頼性」の問題や「管理されないものを管理する人」の問題、「大衆の知恵」の問題などに触れており、考えされられるポイント満載です。


 さて次に、もう一つの本「Web2.0 Book」ですが、これは「ウェブ進化論」に比べ、より技術寄りであり具体的です。Web2.0の背景となっている新しいテクノロジーや、それを活用した新たなサービス、そしれその代表的企業(Google、Amazon、テクノラティ、はてなど)についてページを割いて紹介しています。「本書の読者対象」として、「インターネットビジネスやIT技術に興味を持つビジネスパースンを主な対象としています」とあり、入門書という位置づけではなく、Webを中心としたビジネスにある程度携わっている人向けといえます(技術的な専門用語もたくさん出てきます)。

 ウェブ進化論に比べて、ユーフォリア感が強く、私はそこが少し馴染めませんでしたが、Web2.0で具体的に何ができるの? ということを手短に知りたい人にはいい本だと思います。

 私は逆から読みましたが、最初に「ウェブ進化論」、次に「Web2.0 Book」という順で2冊合わせて読むといいと思いました。最初にWeb2.0が大体どんなことで、どんな社会的インパクトがあるのかということがわかり、次に具体がわかる、ということで、頭の整理もできるし、社会的視点と技術的視点の2つの視点からWeb2.0を考えることができると思うからです。こういう読み方をおススメします。

 今回本当は、Web2.0時代とコミュニケーションビジネスについても少し書こうと思っていたのですが、話が長くなってしまったので、それは機会を改めて触れたいと思います。

☆梅田望夫「ウェブ進化論」(2006年)ちくま新書
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる


☆小川浩、後藤康成「Web2.0 Book」(2006年)インプレス
Web2.0 BOOK

 約1ヵ月ぶりの更新となってしまいました。仕事の方が忙しく、帰りが遅い上に家に持ち帰って仕事をするような時期がしばらく続いたので、さぼってしまいました。
 定期的に訪問されていた方、申し訳ありません。

 さて、今回はGoogleのビジネスの話です。これを読んでる人でGoogleを知らない人はいないと思いますが、Googleのビジネスについては知らない人は少なくないと思います。
 Googleは何で儲けているのか? 
 ちょっと前までは実は、私もよく知りませんでした。

 例えば同じ検索エンジンでもYahoo!ならばポータルサイトだし、バナー広告もあるし、Yahoo!オークションなどに参加するにも手数料をとられたりするので、そういう部分がビジネスになっているのだろうなと想像できるわけです。Googleはバナー広告もないし、検索すると確かに画面の横とか上にスポンサー表示がでるので、この部分が広告になっているのだろうとはわかるのですが、そんなので儲かるのか?と思ってしまうわけです。
 しかし米国でナスダックに上場しているGoogleの時価総額は1100億ドル(3月現在...12兆円以上!)にも達し、インテルやIBMと肩を並べるといいます。つまりGoogleは安定的に収益を上げ、将来もっと伸びる会社として高く評されているわけです。

 その"儲け"の秘密は...知っている方は知っての通り「広告」であるわけです。それも主力は検索と同時に画面の上や横に表示されるあれで、「リスティング広告」と呼ばれるものです。
 まあ、検索と同時に表示されるので検索連動型広告とも呼ばれるわけですが、これは実はアメリカでは既にオンライン広告の40%(市場規模自体は昨年で1兆円を超えている)を占め、年率20%以上の成長しているめるネット広告の主力分野となっているものでもあります。日本ではアメリカほどではありませんが、インターネット広告市場2,700億円のうち590億円(約22%)を占めているとされており(電通総研推定)、やはりインターネット広告の中でも成長分野です。
 リスティング広告の仕組みは簡単。表示されるキーワードがクリックされるに応じて広告主に課金される仕組みで、クリック1回あたりの単価も一般的に低額です(Googleのリスティング広告サービス"Adwords"の場合最低1円から)。つまり、広告主にとってはクリックにより自社のサイトに誘引するという確実な効果のある広告活動を低価格(低リスク)でできるという非常に大きいメリットがある、という仕組みなわけです。
 こうした新しい広告サービスは、次の動きにつながります。それはこれまで広告費の絶対額が高かったために広告活動ができなかった多くの中小の企業が、新たな広告主として広告活動を始めることができることです。特にECサイトでビジネスをしようとする広告主にはこの仕組みは福音だといえます。
 ただしGoogle側にとっても、一回のクリックによる収入は場合によっては数円ということもあります。非常に小さい単位の広告費を集めて運営しなければなりません。ところが新しく参加するようになった多くの広告主と、世界中で一日何億回と検索される検索機会を通じて、その数円単位の広告費がつもりにつもり、実際には巨額の収益があがる構造になっているわけです(こうした小額の広告費を集めることにより成立つ広告ビジネスモデルをロングテール広告などという言い方をすることがあります)。しかもリスティング広告は巨大なシステムを必要とする装置産業であり、売上げは検索エンジン自体の人気度に比例しますから、参入障壁は意外と高く、世界で検索シェアの過半を占めているGoogleにとっては新しい市場を一人勝ち的に獲得することができるというわけです(ただし、日本ではGoogleよりYahoo!の方が検索エンジンとして使われているため、Yahoo!にリスティング広告サービスを提供しているオーバーチュアも有力です)。アメリカで投資先としてGoogleの将来性が評価されるのもうなづけるわけです
 なおGoogleでは検索連動型広告の他に、コンテンツ連動型広告という、いろいろなWEBサイトやブログなどに「Ads by Google」と表示される広告も提供しています。これはWEBサイトやブログなどの記事内容と連動して、関連した広告が自動的に配信される、という仕組みです(今のところはあまり精度が良くないと聞いていますが...)。

 まとめると、検索エンジンの成長とともにリスティング広告という新しい広告マーケットも急成長しており、日本でも世界でもその主要プレーヤーがGoogleである、ということなのです。
 広告ビジネスに関するこのような動きは広告会社にとっては非常に興味深いものなのです。

 というわけで、広告ビジネスの新領域を開拓する企業としてGoogleに興味を持った私が、今回手にしたのが「ザ・サーチ」という本でした。この本はGoogleの創生期から今日までを関係者のインタビューなどに基づいて構成したノンフィクションです。スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学ぶ学生だったラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの2人の若者が、何を考えどういう経緯でGoogleという会社を興していったのか、そしてどこへ向かおうとしているのか、課題は何なのか、というようなことが、インターネット検索の歴史とともに書かれています。

 例えば、Google以前の検索サービスの勃興と衰退、「ページランク」というユーザーの有用性基準に基づく検索結果の表示、収益モデル開発への苦闘、リスティング広告導入、ナスダック上場など、Googleが巨大企業に成長していく上でトピックとなった出来事などが紹介され、なるほどこういうピンチ(チャンス)をこう考えて乗り切ってきたのか、ということが分かり興味深いものです。

 この本を読んで私のGoogleの印象は変わりました。ある部分ではポジティブに、またある部分ではネガティブにです。

 例えば、Googleのグーグル上場時のこんなエピソードがあったそうです。

 「2004年4月29日、グーグルは証券取引委員会に新規株式公開の申請書S1を正式に提出したが、それは近来にない内容で、売却株数は2,718,281,828ドル相当だった。この額は一見口からでまかせの数字に思えるが、これはパイと同じようなeの概念(自然対数の底)で、数学マニアによく知られている。この新規株式公開にあたって、専門馬鹿にしかわからないユーモアをふりまくことで、実はグーグルはギーグが管理していることを宣言したかったにちかいない。」(p318)

 このエピソードに象徴されるのですが、Googleは、何か、世の中、例えば政府とか銀行とか産業社会とかエスタブリッシュメントに対して反旗を翻している、という感じが全編を通じて感じられました。「俺たちはお前らの作ったルールには従わないよ!」「ルールは私たちが作る(Web2.0的な言い方をすると利用者が作る、ということになるのでしょうか)」と言いたいかのようです。
 もともとビジネスを起こそう(つまりお金儲けをしよう)という意志からではなく、いいものを作ろう、役に立つものを作ろうという強烈な研究開発への問題意識から会社を起こした部分があるようなので、こうした社風のようなものが出来上がっているのでしょう。実際これまでにも検索領域を中心にして、画期的なサービスを次々に作ってきているわけです。Googleの、信念を持って信じる道を突き進む姿はある種清々しく、こういうのは私は嫌いではありません。

 しかしこうした既存社会に対する挑戦的な姿勢には一方では危うさを感じるのも確かです。
 例えば本の後半では、リスティング広告で入札されるキーワードの商標権に関する問題が触れられています。現状リスティング広告では誰でもどんなキーワードでも入札することができるわけですが、これでは有名ブランド名を全く関係ない会社が購入して広告するようなこともできてしまうわけです。これは、商標権の保護という観点から、いかがなものか? というのが問題点です。
 この問題に関しては既にいくつか訴訟が起きています。アメリカ国内では今のところGoogleに不利な判決が出てはいないようですが、フランスではルイ・ヴィトンなどが訴訟を起こしGoogle側が敗訴しています。この件ではGoogleが"Louis Vuitton"のような商標を第3者(例えば偽造品販売のECサイト)に販売することに制限が加えられ、罰金の支払いも命ぜられました。
 また、クリック詐欺の問題も触れられています。クリック詐欺はコンテンツ連動型広告"Adsense"の仕組みにとっては深刻な問題です。AdsenseではGoogleから個人のブログなどに自動的に広告が配信されますが、そこで掲出された広告はクリックされるごとにわずかばかりの広告掲載料がそのブログサイトにも支払われる構造になっています。この場合、話を単純化して言うとその広告掲載料を取得するため自分のサイトの広告を自らクリックするような詐欺行為が起きる可能性があるということです。もちろんこんな単純なケースはすぐ見つかり広告配信がストップされるとは思いますが、ネットにおける不正技術はいたちごっこの面があるため、不正を行うものが技術を動員した場合には対応にも限界があります。

 「詐欺師はロボットを利用するか、インドや東欧の低賃金労働者を使って、自分とグーグル以外のものは削除し、集中的にクリックする。こうして不注意な広告主はその費用を払うことになる。クリック詐欺はペイドサーチが始まった時から存在し、1990年終わり頃には、ゴートゥー・ドットコム(引用者注:リスティング広告手法を開発した会社で、オーバーチュアの前身)がこの問題に悩まされていた。当時の検索エンジンは詐欺行為の発信元を発見するや、ただちにアカウントを取り消せばすんだが、グーグルのアドセンスは流通範囲が広く、何十万という発信元に対応しなければならず、新たな詐欺の機先を制するのはほとんど不可能に近かった。多くの広告主は、広告予算の25〜30パーセントをクリック詐欺にかすめ取られているという(注:太字は引用者)。」(p275)

 深刻です。

 これらの問題はGoogle1社だけの問題ではなく、リスティング広告というビジネスモデル全体の問題ではあります。しかしGoogleがそこでの主要プレーヤーであり、広告主に対してはこれら負の問題にも応える義務があります。新しいものには負の面がつきものですが、ビジネスをしていく上では、こうした面では「自分がルールを作る」という姿勢は許されるものではないはずく、Googleの存在感が意図せずともどんどん大きくなって来れば来るほど、既存社会のルールや社会の公正さに自らを馴染ませる努力を不断にしていかないといけない、というのも事実でしょう。
 
 「広告」というものに限ってみても、Googleのモデルが新しいあり方を持ち込んだのは間違いありません。最近の論調(例えばWEB2.0的な論調)の中では、新しさや良いところばかり強調する人が多いようにも感じます。しかし、この本を読むとGoogle、あるいはGoogleを中心に開かれていっている、検索をコアにしたビジネスの光の面と陰の面の両方を見ることができます。
 インターネットでのビジネスのこれからのあり方を考えたい人にはお勧めです。

☆ジョン・バッテル、中谷和男訳「ザ・サーチ」(2005年)日経BP
ザ・サーチ グーグルが世界を変えた

 トリノオリンピックも終わりました。女子フィギュアで荒川選手が金メダルを取るまでは、日本勢は全く振るわず、世の中のオリンピックへの関心も下向き加減でしたから、あの金メダルでまた盛り上がって本当に喜んだ人がいると思います。

 JOCなどオリンピック関係者でも、スルツカヤ選手が転倒して喜んだ某大臣でも、地元応援団のことでもありません。例えば、直接・間接的に選手を支援し、そのことを通じて宣伝活動を行っているスポーツ用品メーカー。例えば、オリンピック特番を放送した民放各局。それに番組提供した広告主。直接JOCやIOCとスポンサーシップ契約を結んだ企業もそうでしょう。そしてまた、選手をCMに起用した会社。もちろん諸々に関わっている広告業界関係者もです。もっとも、選手をCMに起用した会社は、選手が活躍した場合は良かったと思いますが、残念ながら活躍できなかった場合はそれをするためにかかった費用のことを考えるとかなりブルーになったかも知れませんね。荒川選手をCMに起用し、金メダルをまさに予知していたかのようなトーヨーライス「金芽米」は、飛ぶように売れてうれしい悲鳴だそうですし、女子フィギュアの3選手を揃えて起用したロッテなどもまあ満足していると思います。一方上村愛子選手を起用した日清オイリオなどは、ちょっと落胆というところでしょうね。選手に罪はありませんが。

 つまり「喜んだ人」というのは、オカネを投じてオリンピックの行く末を見ていたような人、つまりオリンピックを使って自らのビジネスを展開していた人々です。彼らにとってはオリンピックが盛り上がって、関連して消費活動が活発になり、結果として自社への波及効果が高まることが理想的なシナリオで、支払った巨額のスポンサーシップやライセンシング費用を考えると、盛り上がらないで終了してしまうなんて、絶対にあってはならない事態だからです。

 こうした「スポーツ」にまつわるビジネスの側面を「スポーツマーケティング」という概念で考えます。スポーツマーケティングは、いわゆるコンテンツビジネスの一つでもあり、国際的には「スポーツ」が最も有力な(つまりカネを生み出す)コンテンツとして扱われたりもします。
  
 今回紹介する本は、その「スポーツビジネス」を取り上げた本です。

 スポーツビジネスといっても、大きく2つの視点があります。一つは「スポーツそのもの」のビジネス。つまりサッカークラブ経営、スポーツイベントの運営など、スポーツを商品として扱う視点です。もう一つは、「スポーツを使った」ビジネス。オリンピックへのスポンサードであったり、スポーツイベントへの協賛、広告活動での有名スポーツ選手の起用など、自社商品をスポーツを使って効果的に販売しようという視点です。

 この本では、主に前者の視点に立って書かれているようですが、章を割いてスポンサーシップの問題やライセンシングの問題にも触れています。
 私もあまりこういう領域になじみがあったわけではないのですが、中身を読むと、いわゆるマーケティングの理論が非常にわかりやすくスポーツに適用して説明してあって、スポーツも他の商品カテゴリー同様にマーケティングの基本的な考え方が適用できるものなんだなぁ、と思うと同時に、説明自体もわかりやすかったので、スポーツに直接関心のない人でもためになる本だな、とも思いました。

 とはいえ、スポーツは通常の商品とは全く異なる点もあって、それも面白かったのでちょっと取り上げてみたいと思います。それはスポーツを商品と見立てた場合のターゲットに当たる「ファン」の存在です。

 「一般的な消費者においては、購入したモノの品質が悪い、あるいは享受したサービスの質が悪ければ、再び同じ消費を繰り返す可能性は極めて低くなり、代案を検討することになる。(中略)しかし、見るスポーツの消費者の中には、質の悪いパフォーマンスを何度見せられても、継続して消費するものが多く存在する。つまり、チームがどんなに負け続けてもチームから離れることなく応援し、スタジアムへ足を運んだり、テレビで見たりする消費行動を続けるのである。」(p79) 

 面白い心理ですよね。阪神ファンとかを思い浮かべました。オリンピックでも日本選手がどんなに弱体でもその選手を応援してしまいますものね。対象物に対する絆を特に深く感るのがスポーツなのかもしれませんね。

 さて、もう一つ面白い話を取り上げたいと思います。スポーツも今やオリンピックなどは巨額な金の動くビジネスシーンですが、スポーツとビジネスとの結びつきは、そんなに歴史があるわけではないようなのです。

 「かつてアマチュアリズムが支配的であったスポーツ界では、『スポーツ』と『ビジネス』は水と油のように異質な概念であり、時に選手生活を脅かす危険な関係であった。たとえば1972年、オーストリアのスキー選手であったカール・シュランツは、自分の使用したスキー(クライスル社製)を両手で掲げ、マスコミにロゴを露出したという理由だけで、IOCから札幌冬季オリンピック出場停止の処分を受けた。彼はこの事件によって、偏狭なアマチュアリズム最後の犠牲者として歴史に名を刻むことになった。」(はじめに)

 今から考えれば驚きですね。今ならば選手がTVに映る際は、スポンサーロゴが露出するようにさせることが当然のマナーとされています。
 もっともこの事件を教訓にIOCでは選手の金銭授受が可能となるという大きな方針転換が図られ、ついに1980年ロス五輪、――大会委員長ピーター・ユベロスのもとで全面的な民間資金の導入が図られた初のオリンピック、で、‘叛衒映権販売、公式スポンサー・サプライヤー制度、商品ライセンシングによるマーチャンダイジングを核とした、今日まで引き継がれるオリンピックビジネスの基本形態が作られたわけです。

 実は今年は日本はスポーツイベントの当たり年で、オリンピックを皮切りに、ワールド・ベースボール・クラシック、サッカーワールドカップ、男子バスケットの世界選手権、バレーの世界選手権など、大きなイベントが続きます。
 商業主義化してしまったスポーツのあり方の是非については、人により意見が分かれるかも知れません。しかし、経済活性化と世の中の盛り上げに一役も二役もかっているのは間違いありませんよね。

☆原田宗彦編著、藤本淳也・松岡宏高著「スポーツマーケティング」(2004年)大修館書店

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