広告代理店の現場からみた読書案内

広告・マーケティング関連の書籍を、広告業務の一線で働いている立場から紹介・書評します。

この本、変なタイトルですが、「紫の牛」とは、要するに「ありえないもの」のこと。ありえないもの、つまりすごく目立つようなものを売っていかないと、競争過多で、いつもお腹いっぱいの現代社会では消費者に買ってもらえないし、結果として生き残れないという主張です。さらに、ありえないものだから、最初は「イノベーター」層、つまり市場の5%にも満たない「オタク層」に受け入れられるようにしなさい、とも言っています。

この主張、前回紹介した「ポストモダンマーケティング」の主張と似ていますね。でもこの本のほうが過激なことをずっとお行儀よく言っているので、気持ちよく読むことができます。

著者のセス・ゴーデンは、かの一世を風靡した「パーミッション・マーケティング」の著者でもあります。ありえないものを「紫の牛」(!)に例えるあたり、シニカルでセンスありますね。

二〜三年前、家族でフランスをドライブ旅行していたときのこと、高速道路のすぐそばの絵のように美しい草原で何百頭もの牛が草を食んでいる様子に魅了された。(中略)だが、二〇分もしないうちに、牛のことを気にとめなくなった。どの牛も同じようで、驚きはなくなってしまった。もっと悪いことにうんざりしたのだ。牛というのは、しばらく見ていれば退屈するものだ。(中略)しかし、「紫の牛」がいる。それなら興味を引くだろう(しばらくは・・・・・・)。(p10-11)

そりゃそうですね。最後の「しばらくは・・・」というところがいいです。「紫の牛」とはいえ、やはり限度があるもの。しかしそれでもチャレンジしないとダメなわけです。マーケティングはいつも理想と現実との板ばさみであって(きっとなんでもそうですね)、それをわきまえながら過激なこというスタイルがとても私的にはいい感じです。

もともとこの本の存在は、会社の同僚(女性)の話がきっかけで知りました。新規で担当することになったある化粧品メーカーさんへの訪問から帰って来た彼女いわく、「あのー、クライアントさんが、『あなたたち、紫の牛を見つけるのよ! ムラサキノウシ! わかった!!』っていうんですよー。『ムラサキノウシ』って何ですか?」。「ムラサキノウシ???」・・・。そこでネットで検索して、それは本の名前であり、上記で書いたようなものであることがわかりました。(しかし、突然「紫の牛を見つけるのよ」と言われた彼女は、困ったお客さんを担当することになったな、と思ったでしょうね。その後の経過は聞いていませんが・・・。)
クライアントさんが言いたくなるくらい、いい本ではあると思います。

とはいえ、著者はこんなことも書いています。

それではつねに「紫の牛」を生み出す絶対確実な方法が方法があるだろうか?(中略)もちろん、ない。
妙案はない。「紫の牛」をつくり出した会社もほとんどが、やがては不景気に見舞われているのを見ると、必ず実を結ぶものを列挙しているルール・ブックなどないことがわかる。この「紫の牛」を見抜くのがきわめて難しいのは、そのためでもある。(p110)


「紫の牛」は生み出すのも、維持するのも難しいということなのでしょう。
それだけに「マーケティング」というものは、データ解析ではなくて、絶えざるクリエイティビティの方がより重要だということになるのだと思います。

☆セス・ゴーディン、門田美鈴訳「『紫の牛』を売れ!」(2004年)ダイヤモンド社

「紫の牛」を売れ!

著者のスティーブン・ブラウンは「マーケティング」を激しく攻撃しています。訳者前書きに彼の主張が整理されているのですが、こういうことのようです。

・マーケティングで偉そうに言う「顧客第一主義」はうんざりだ。モノを売ることはきれいごとではないだろう? 顧客の奴隷になるのはやめた方がいい。
・コトラーなどの学者が本来創造的でエキサイティングだったマーケティングをビジネスライクで退屈なものにした。もはや「差別化」「セグメンテーション」「3C」「4P」などは役に立たない。くだらない商品やキャンペーンが次から次へと出てくるだけだ。
・顧客を無視したり、じらしたり、びっくりさせたり、目立つトリッキーな方法こそが大事なのだ!

マーケティングに慣れっこになった現代の消費者像として、サンフランシスコの広告代理店創業者のこんな言葉も引用しています。

「消費者はまるでコギブリのようです。われわれがマーケティングをスプレーすると、しばらくは効果があります。でも、彼らは必ず、免疫力、抵抗力を育成するのです」(p38-39)

批判されたコトラーとスティーブン・ブラウンとが「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌で派手に論争をしたこともあるようで、彼は学会の反逆児としても有名なようです。

本書を読むと随所に彼の異端児ぶり、反逆ぶりが出ており、今のマーケティングって何か難しくてつまらないと日々感じている人にとっては、ひょっとすると面白いかもしれません。

しかし正直言うと、私はまるで共感できませんでした。例えばコトラーも言っているのですが、少々退屈な商品やキャンペーンが量産される現状があるとしても、それは「マーケティング」や「顧客主義」のせいではなく、単にそれをやっている人のせいです。マーケティングの知識を身につけたとしてもヒット商品が出ないのは誰でも知っており、マーケティングという活動ではレベルの高いクリエイティビティが要求される、というのは実際に携わった人なら誰でもわかる事です。

スティーブン・ブラウンの批判精神はよしとしたいし、もっとエキサイティングに! もっとクリエイティビティを! という主張は正論だと思うのですが、実際にはそれは「マーケティング」の基本的な考えの上にプラスオンされるべきもので、「マーケティング」それ自体を否定するのは課題の設定が間違っているとしか言いようがありません。「言いがかり」に聞こえてしまいます。

そもそも、マーケティング的な知識やものの考え方は、仕事をしていく上での「基礎体力」です。私が新卒で今の会社に入社した時、すぐ上についた上司はこの言葉をよく使っていました。スポーツで基礎体力がない選手が勝ち続けられないように、マーケティングでも基本的な訓練の乏しい人はまぐれで成功することはあっても、それを続けるのは難しいのではないかと思います。まずは身に着けることです。その上で、彼の言うような実践を試してみるのがいいのではないでしょうか。

言いがかり的に「偉そうなマーケティングを攻撃する」彼の姿勢は、まじめに誠実に日々の仕事に向き合っている多くのマーケティング担当者を愚弄するかのようで、かえってとても「偉そう」に見え、その矛盾が共感できない(胸くそ悪くなる)最も大きな部分だったのかも知れません。

それから、この本の邦訳題ですが、現題は"Free Gift Inside"となっていて、「ポストモダンマーケティング」とはどこにも書いてありません。出版社は「ポストモダンマーケティング」とした方が売れると思ったのでしょうが、これを読んだ人が、これがポストモダンマーケティングなんだ、と思ってしまったら、「ポストモダンマーケティング」という概念がかわいそうですし、これまでこの概念を日本に紹介してきた人もかわいそうですね。現代マーケティングに対する問題意識は共通していても、アプローチはかなり違うような気がしますから。私自身はもともと「ポストモダンマーケティング」には懐疑的ですが、この本の主張よりはもっと課題に真摯だと思いますから。

☆スティーブン・ブラウン著、ルディー和子訳「ポストモダンマーケティング」(2005年)ダイヤモンド社

ポストモダン・マーケティング―「顧客志向」は捨ててしまえ!

今回は、広告業界に籍を置いていれば誰でも一度は聞いたことがある、わかったようでわからない言葉、「インサイト」をテーマにした本です。

本の紹介の前に「インサイト」について簡単に説明したいと思います。

「コンシューマーインサイト」とも呼ばれ、直訳すると「(消費者)洞察」となります。欧米では以前より普通に使われていたようですが、日本では90年代末ごろから広がってきた言葉です。消費者への商品の購入を促すための、消費者に関する発見点で、消費者の「心のツボ」などと呼ばれています(押すと反応する、という意味ですね)。
「心のツボ」と言われても「???」ですが、実はこの言葉定義が曖昧で、人により言う内容が異なっている状態です。輸入語を曖昧なまま使うのは、広告業界だけではないでしょうが、日本人の悪いところです。ちなみに、私は「ある行動を起こす隠れた(無意識的な)動機」と理解するようにしています。モノを買う行為だったら、ある特定のモノを買う表に出ない動機ですね。(無意識にアプローチすることについては以前紹介した「心脳マーケティング」という本を参照してください。)

広告業界で「インサイト」が注目されるのは、インサイトが優れた広告コミュニケーションに直結するからです。

インサイト発見に携わる職種の人を、欧米では「アカウントプランナー」と呼んでおり、営業、制作と共に広告開発のための重要な職種と考えられています。欧米でアカウントプランナーがインサイトを発見して優れた広告キャンペーンを生み出したケースが、有名な"Got Milk"キャンペーン(調査対象者にミルクを2週間飲まずに過ごすよう依頼し反応を見たところ、クッキーやシリアルがおいしく食べられないなどの意見が出たことから、ミルクはそうしたものをおいしく食べるのに不可欠の飲み物だったというインサイトを基にしたアメリカのキャンペーン)を始め、いくつも知られています。この本の中でも、そうした例が紹介されています。ちなみに日本では伝統的に「マーケ」と呼ばれていた職種がアカウントプランナーに近いとされています。

それだけではなくインサイトが注目される理由は、あまりこういう言い方をする人はいないのですが、プランナーにとっては、これを発見する瞬間が「生理的快感」であることです。私も「マーケ」と呼ばれる職種の経験が長いのですが、インサイトを発見すると何かもやもやしていたものが急に晴れてすべての見通しが立つような気がするものです。以前私のところに会社訪問に来た学生に、「あなたが仕事をしていて一番面白いと思うときはどんな時ですか?」と尋ねられ、「コンペで勝利するのもいい気持ちだけど、消費者の何か大事なものを見つけ出して、ああこれで行けそうだ!という企画の見通しが立った時」と答えたことがあります。発見したインサイトが真実かどうかは検証できるものではないので、一種のひらめきなのですが、何か自信に満ち溢れる瞬間となります。詰まっていたものが取れてとてもすっきりする感じです。

さて、前置きが長くなりましたが、この「インサイト」についてなぜそれが重要なのか、どうしたら発見できるのか、また著者が実際に携わったケースなどについて書かれているのがこの本です。特に筆者が直接関わった事例(ハーゲンダッツとシックカミソリのケース)は、こんな風にしてインサイトが実際の広告キャンペーンに生きてくるんだ、ということが分かって面白いと思います。

最後に、本題からまたまたそれますが、私がこの本を読んでなるほど!と納得した部分を抜き出します。いわゆる「おもしろいCM」についての見解で、昔から「CMが面白くても商品が売れないケースがいっぱいあるから、面白CMは悪だ」という論調がありまが、それに対して、

たしかに「おもしろい」だけでは「売れない」だろう。ただ、いまどきの消費者は、製品とまったく結びついていないような、単なる受け狙いの広告を「おもしろい」とは感じなくなっている。何を言いたいのかわからない、独りよがりの広告と感じてしまう。単なるイメージ広告に関心を持たないのと同じである。
製品やベネフィットをうまく伝えるからこそ「おもしろい」と感じるのだ。つまり、消費者が「おもしろい」と感じる広告は「売れる」広告なのだ。(p189)


なるほど。独特の解釈です。作り手の考える面白さと受けての考える面白さは分ける必要があるということかも知れませんが、CMはエンタテインメントの側面もありますから、それを忘れてはいけないのだと思います。

☆桶谷功「インサイト」(2005年)ダイヤモンド社

インサイト

インターネット広告市場が昨年(2004年)1,814億円に達し、とうとうラジオを抜いたと言われています(電通調べ)。この統計の中には企業が作るWEBサイトへの投資金額は含まれていないそうで、「インターネット」領域への企業投資額はもっとはるかに大きいようです。

インターネット広告については、日本に初登場したのが1996年だそうで、8年あまりでの急激な成長です。広告技術も進んでいて、かつては単純なバナー広告だけでしたが、最近はリッチメディアを使った、例えばホームページにアクセスすると画面の真ん中を絵が動くような(実にウザイ!)広告も普通になってきました。一方でGoogleのアドセンスのような手法により、われわれ普通の人がWEB広告の恩恵を簡単に受けることも出来るようにもなってきました。
実感としても、インターネット上の広告は盛況であり進化しています。

しかしこの本を読むと、さらに今ではいろいろなことが出来るのだ、ということを教えられます。著者の横山隆二さんはインターネット広告のメディアレップ(広告販売代理業)大手であるDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)副社長です。まさに第一線の立場から、インターネット広告の“いま”と“これから”について書かれたものです。

個人的に興味を感じたのは次の2点です。
1つは「行動ターゲティング」の概念。

そもそもインターネットというメディアは、ユーザーがその時の関心事の文脈を辿ってハイパーリンクしていくものであり、文脈(コンテキスト)を意識することは、広告に対する反応をより多く獲得するためにはたいへん重要なこととなる。(p118)

この考え方重要ですね。アメリカではこうした考え方に基づいた広告サービスが既に普及しており、効果も高いようです。この考え方に立つと、いろいろ面白いマーケティング企画が考えられそうです。
もっとも個人のアクセスログを元にターゲティングする技術だそうで、個人の情報が拾われているのは、ちょっと気持ちが悪いですが。

2つめは、この本の副題にもなっている「クロスメディア」という概念です。

複数のメディアを組み合わせて効果的なキャンペンを展開することを、従来「メディアミックス」と言っていた。これに対し、インターネットを組み合わせるメディアプランを「クロスメディア」と呼ぶ。足し算の「メディアミックス」に対して、「クロスメディア」は掛け算だという考え方だ。(p131)

私自身は十分なじみのある概念なので、フムフムと読みましたが、このブログで初回からずっと取り上げている「非マス広告コミュニケーション」あるいは「メディア横断的プランニング」という考え方に関心ある人は参考になると思います。特にインターネットをコアにした場合どんなことができるか理解できそうです。

難を言えば、多少全体的に広告コミュニケーションにおけるインターネットの役割・価値を伝えたくて肩に力が入りすぎている感じがしないでもないのですが、この領域を理解する格好の本だと言えます。

☆横山隆治「インターネット広告革命」(2005年)宣伝会議

インターネット広告革命―クロスメディアが「広告」を変える。

「口コミマーケティング」の新たな本をご紹介します。

前々回「ファンサイトマーケティング」という本を紹介しましたが、今回紹介するのは同じ著者、日野佳恵子さんの2003年出版の本です。前作に当たります。
しかし気づかされることが多く、とても参考になります。

特に参考になった点を3つに整理しました。

仝コミマーケティングに重要なのは「体験談」であるということ。

クチコミとは「他人の体験談」が聞けるというほかのメディアでは絶対にない説得力を持っている。(p67)

よい体験ができれば、自然と口コミも増えるという仕組みがあるわけですね。同じようなことは、「クチコミはこうしてつくられる」という本の著者のエマニュエル・ローゼンも言っていました。また、「うわさ」との違いについてもこんなことを言っています。

クチコミが体感型だとすれば、ウワサはすべてが伝聞型だ。(p88)

するどい指摘です。

口コミマーケティングは「コミュニティ」がベースであること。

多くの企業が挑戦してきたクチコミの仕掛けは、(中略)人が集まっている電車の中や球場で、わざとクチコミをするサクラの仕込み、流行らせたいファッションを着せた人たちを原宿や渋谷で歩かせる、といったような方法だった。(p92)
クチコミ情報の発信者に「接触」し、「生の声」を聞いた人たち。すなわち「第一次受信者」の数が多ければ多いほど、その情報はリアリティのある話題として外に広がり、クチコミの連鎖が繰り返されていく。(p91)


なるほど。多分、世の中のマーケティング関係者で「口コミ」というものを誤解している人が多いと思います。奇抜な服装の人を渋谷で歩かせて話題を集めるのも口コミ戦略の一種だとは思いますが、本質ではないということですね。日野さんが提唱するように、コミュニティ(あるいは一定の人間関係)があるから口コミが広がるわけで、マーケティング戦略としては「コミュニティ」に対してどうアプローチするのか、という視点抜きでは本質には迫れないということでしょう。

まさに「目ウロコ」です。(これが重要だからこの本の題名になっているのでしょうね。)

クチコミ効果テスト

口コミを「マーケティング」と捉える以上、効果を問われるのは宿命です。慈善事業ではないのですから、投資したお金がどう返ってくるのか(難しく言うとROIですね)、少なくともクチコミマーケティング仕掛ける側は(例えば広告代理店は)、お金を出す人(例えば広告主)に説明する責任があるわけです(これも難しくいうとアカウンタビリティですね)。この本の中ではいくつか実施した効果テストとその結果を載せており、参考になります。
とはいえ、いくらクチコミで広げることができても、購入に至るためには商品力が一番大事、という広告主さまにとっては耳の痛い指摘もありました。


日経ビジネスでも特集が出ましたから、今頃は、ウチの会社でも口コミだ!とお考えのところ少なくないと思います。(上司がそう言い出して困っている若手の方もいるかもしれません!)

しかし、口コミへのアプローチというのは、決して安易な話題作りではなくて、もっと地道なもののようだ、というのがこれまでいろいろ調べた私なりの印象です。

☆日野佳恵子「クチコミュニティ・マーケティング2」(2003年)朝日新聞社

クチコミュニティ・マーケティング2-実践編 あなたの会社がクチコミで伸びる!

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